第7話 ずっとそばに

「おはようございます、、、。母様、今日はずいぶんと早いのですね。」


翌日、食堂でセトと今日の予定を確認しながら息子を待っていると、食堂の扉が開かれ、アスワイルが顔を出した。

その顔はなぜかしょんぼりとしていた。

声にもいつもの快活さがない。


「アス、どうしたの?怖い夢でも見たのかしら?」


ゾフィーはしょんぼりとしている息子を膝の上に抱きかかえ、優しく問いかける。

いくらあの人との子供とは言え、まだ3歳。

こういうところはまだまだ他の3歳児と変わらないな、と愛おしく思う。


「ううん。母様は僕がエスコートしたかったのに、起きたら母様はもういなかったんだ。それに昨日も夜遅くまでお仕事してたでしょ?僕、母様に無理してほしくないんです。」


予想外の言葉だった。

3歳の息子に心配されるなんて母親失格かもしれない。

だが心配そうな表情に、潤んだ瞳。

この小さく、かわいい生物は一体なんだ。

ゾフィーは可能な限り、強く、優しく。

自身の溢れんばかりの愛情が少しでも伝わるように、息子を抱きしめた。


「心配してくれてありがとう。お母さんは大丈夫よ。だってお母さんにはアスがいるんだもの。なんだって出来ちゃうわ。」


「僕、母様の力になれてるのかな?」


不安そうに首を傾げる姿もたまらなく可愛い。

可愛すぎて悩殺されそうだ。

実際、ゾフィーの後ろに控えていたメイドの何人かは鼻を抑えてすでに退場済みだったりする。


「もちろんよ。アスが元気に笑っていてくれるだけで疲れなんて吹き飛ぶわ。」


これは嘘でも何でもない。

本当にアスワイルのことを見ているだけで疲れが吹き飛ぶ。

愛、幸せ、それももちろんある。

だが、一番の理由はアスワイルが無意識に周囲の人を癒しているからだ。

アスワイルは生まれた時から自身の魔力を癒しの力として周囲に放出し続けている。

それも無意識に。

原因はわからないがこれもアスワイルのやさしさ故だろうとゾフィーは解釈していた。


「そうだといいな!僕ね、大きくなったら父様の分まで母様の手助けをするの。父様が居なくなって僕が母様を守るんだ。」


誇らしそうに胸を張るその姿がこれまたかわいい。

コロコロと表情を変え、身振り手振りで一生懸命に自分の気持ちを伝えるその様子はいつまで見ていてもきっと飽きることはないだろう。

できることなら、ずっと、一番そばで愛おしい息子の成長を見守り続けたいがそれは決して許されない願いだ。

心より愛する人とめぐり合えた。

そしてそんな人との子を授かることができた。

これ以上ない幸せだ。


だが、それでも。

それでも、ずっとそばに。

そう思ってしまう私はどこまでも欲深いのだろうか。






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