第3話 お披露目会

「構えろ!」

「なんだそのへっぴり腰は!」

「どうした!そんなものでへばるのか!」



「っうひぃぃぃぃぃぃぃ!」

「っひょわぁぁぁぁ!」

「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」



まさに地獄!

こんなの前世でも経験したことございません!

先日の決意も打ち砕かれそうな、訓練という名のシゴキ。



「ち・・父上ぇ・・・剣もよいのですが、魔法も・・・・・・」

「・・・仕方あるまい。お前は剣の才も魔法の才もあるのだからな。

 午前は剣!午後は魔法!休みは週に1日!よいな!?」

「ちなみに拒否権は・・・」

「・・・あるわけなかろう?」

「・・・」


この人は俺を殺す気か?


「休憩はもうよいな?では、続きを行くぞ!!!」

「◎△$♪×¥●&%#?!」


声にならない声が出た。




「アードのやつ、神託のせいで父上にしごかれているな・・・」

「ノード兄上よりも厳しくされているんじゃないですか?」

「確かに。私も伯爵家を継ぐものとして、あれくらいしたほうが良いのだろうか……」

「まぁアードと私は家督を継げませんから……あれくらいの訓練を受ければ、冒険者としてもそれなりには大成するんじゃないですかね?」

「……あの神託を見せられて私が家督を継ぐのは、私へのプレッシャーが強くなりそうだ。

 弟に負けてるぞってね」

「……それをいったら私もです。兄上、気にしないようにしましょう」

「そうだな・・・。でも、あの才は正直うらやましいぞ・・・」



「◎△$♪×¥●&%#?!」

アードの悲鳴は天の彼方に・・・



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お披露目会当日


「坊ちゃまーーーー!

 御髪を整えましょうーーー!」

「坊ちゃま!お召し物を!」

「坊ちゃま「坊ちゃま「坊ちゃま「坊ちゃま!」」」」


「私は一人しかいないんだ!

 一人ずつにしてくれ!」

 

お披露目会当日。朝からメイドに使用人とアーマルドに付きっ切りで【おめかし】をしようと慌ただしくしていた。



「ただのお披露目なのだろう?ここまでしなくてはいけないのか?」

「坊ちゃま、あなたは女神の恩寵を受けし者!注目を集めること間違いないのです!!」

ほかのメイドも使用人もそうだと言わんばかりに頷いている。


「それに・・・王女殿下も来られるのです!私どもも気合が入るというものなのです!」

「殿下にアピールをさせたい・・・と?」

「「「「まさに!!!」」」

おおぅ……

圧が強い……



「まぁ任せる……場所はどこだったかな……?」

 

「はい!王城の広間にてございます!まもなく準備が整いますので、しばらくお待ちください!」

 

 

みんな気合が入ってるな……

お披露目会は貴族の子供たちの交流が目的らしいがどうもそれだけのようには……



準備は淡々と進み馬車で移動、王城でお披露目会は開催された。

「アーマルド様♪私は「ちょっとあなた!抜け駆けを!初めましてアーマルド様♪「貴方たちのような方にはアーマルド様は釣り合いませんわ!アーマルド様♪……」」」


アーマルドの周りには、アピールをしようとする貴族令嬢たちでごった返している。


(……なにこのカオスな状態)


お披露目会場は戦場と化していた。


(ついていけない……)



誰かに助けを求めようとしていると、



「お会いするのは2度目ですね、アーマルド様」


戦場の中、声の主を避けるようにスペースができていた。



「これは、王女殿下。神託の儀式でお見かけした以来でございます。」


5歳児でここまで丁寧に話をできるのは、さすが貴族家で育ったというもの。

周りの子供も、当然親たちも何も違和感なく聞いていた。



((((((してやられた))))))

親たちは、英雄になりうる存在に少しでも娘の印象付けたかったに違いない。

アーマルド自身がそんなこと気づくはずもなかったが、王女が出てきたことにより、

儚くも貴族家の野望は断たれたのだった。


「わたくしのことはマリア、とお呼びください♪」

「いえ、そういうわけには……」

「アーマルド様?マリア、と」

「殿下、様は止めてください……」

「では、マリアと呼んでください♪」

「畏まりま「敬語も不要です♪」……」


まじか、まじなのか……?



じっと見ていると、本気のような顔をしている。



「わかった。マリアと呼ぶよ。俺のことはアードって呼んでよ」

「わかりましたわ、アード♪本日はこれで失礼しますね。また、学院でお会いしましょう!」

 

……嵐が去った。

王女……もとい、マリアが話しかけてきて以降、貴族令嬢のアピールは止まった。




「はぁ……」



*   *   *



「王女が……」

「これはチャンスでは?」

「そうだな、王女と彼が近しい仲になれば、彼には王家とのコネクションもできる」

「とは言ってもまだ5歳なのだ。まだまだ何があるかわからんぞ」

「そうだな、これからか……」




*   *   *


とある公爵家


「なぜ伯爵家の末子ごときに王女は・・・・!」

「わが公爵家の嫡男であるお前が、王女とともにあることこそ相応しいのだがな」

「その通りです、父上!母上!」

「神託通りの傑物に成長したら厄介だ。中等学院卒業までに何かしら対応を考えなくては」

「なぜ中等学院の卒業までなのですか!?」

「魔力を扱うのは成人になるまでの精神状態で大きく変わってくる。中等学院で本格的に魔力操作を学ぶまでに不安定な状態にできれば、英雄となりうる才覚も、暴走すればただの魔物も同然。初等学院で間者を接触させるのことは厳しいだろうから、中等学院在学中での接触を計ろう」

「時間はある・・・ということね。計画もじっくり立てられそうですわね」

「父上、母上、よろしくお願いします。王女を私のものに!」

 

 

*   *   *



「疲れたぁ……」

初めて会う貴族令嬢の自己アピールに、王女……


きついって!


見事に神託の影響を受けた。



「注目されるって、こんなんだっけ……?プロ野球選手が囲まれてるのって、こんな気持ちなのかな……」



前世を思い返す。



自分でいうのもアレだが、前世ではそれなりに注目されてきた。


とはいっても高校生レベルの注目である。



「俺もあこがれの選手の試合を見に行ったり、サインを欲しがって後を付けてたもんな……」



自分がしていたことを人にするなと言うことができなかった。


「今後、俺がアーマルドとしてもし活躍しようもんなら、貴族以外も集まってくる……今でこれだからな、自分のしたことのツケだと思うか……」

 

……有名人の後を追いかけサインを求めることと、

有名人の血を家系に取り込みたいという野望は別物だが、そんなことに思い至ることはなかった。

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