第2話 神託

アーマルド・グレース・キャッスルフォルトとして転生して早5年。



そう、5歳の春は神託の儀式である。



(ついに来てしまった・・・)



アーマルドは女神の言っていた通り、自主練を行っていた。


貴族家に産まれたため、魔法に関連する本や剣術・武術に関する書物はたくさんあった。


それに・・・




(子供の体で自己流の訓練は厳しい・・・


 魔力操作では魔力切れ起こすし、剣を振るうのに体力つけようとして


 ペース配分できないし・・・


 倒れてる時の言い訳も書物の真似を間違えたとか適当なこと言っても


 言い訳できてよかった。)




アーマルドは血反吐を吐いてきた。




もっとも、吐いていたのは吐血ではなく嘔吐であったが。




(魔力がなくなると吐き気を催して、気を失うことは今後も覚えておかなきゃな・・・


 あっ、俺の魔力ってどの程度なのかな?


 家族は魔法より剣術が得意みたいだし比べられなかったなぁ)


コツコツ訓練していたおかげで、魔力量は5歳のソレではないことは、気づくはずはなかった。


「アーマルド!神殿へ向かうぞ!」


「お前の神託はどんなものかなあ。


 ずっと私の真似していろんなことしてたから、期待しちゃうよ!」


「どんな神託でも構わないさ。私は、今年は王女様が神託を置ける御年だから、そっちが気になるなぁ」




「あっ、待ってください」




父のルーズベルトに長兄のノーマンド・次兄のルーマンド。


父・兄2人についていく。


王都で生活をしているアーマルド伯爵家は、王都の中心街にあるコーリネアルファ神殿を馬車で移動する。




中世西洋風の建物が多い・・・


「中心街は初めてです。やはり中心ということもあり、栄えておりますね。」




「王城もあるので、治安もいい方だ。


 ただ、ギルド支部がある区域はどうしても荒くれ者が多くなっているな。


 冒険者という職業柄、仕方のないことかもしれないが、


 アーマルドももし冒険者となる際は注意するのだぞ。「はい」


 しかし、この時期はやはり人が密集しておるな。神託を受けられる神殿も王都にしかないし、仕方のないことか・・・」



確かに、街は異常なほど人があふれかえっている。




(某ネズミの国のようだ・・・)


 長期休暇のあの場所も、尋常ではないほど混んでいた。



(まぁ、あそこと違って遊びで集まっている人たちではないようだな)




神託の儀式の日は、王都に人が密集する。

商いを目的にするもの、働き口を紹介するもの、観光、いろいろな人がいるようだ。




(年に数回あるイベントの一つだもんな。そりゃ商売やら就職やら数少ないチャンスだわな・・・)



そんなことを考えているうちに、


「着いたぞ。さぁ、行こうか」




父の言葉の後についていくアーマルドに兄2人。




大きな扉の前で、


「ここからはお前が先に行かなければならない。


 神託を受ける者以外は、後方で待機せねばならぬのだ。」




「そうですか・・・


 では、前を歩かせて頂きます。」




扉を開けると、大勢の子供が神官付近に集まっていた。




(あそこに行くのかー)




子供が集まるところまで行き、時間になるのを待つ。



最後の子供らしき集団が入ってくるのと同時に、



「では、女神様の神託が言い渡される時を迎えましたので、順に。」

(へぇ、最初は平民からなのか。)



神官が教典を手に持ち、順番に神託を言い渡す。


鍛冶・兵士・商人・占い師etc.



(あれ、神託って職業を告げるものなのか?)



女神ガチャではそんなことはなかったような・・・


そもそも神託ってこういうことだったか・・・?




なんて考えているうちに、順番が来てしまった。




(はぁ。憂鬱うつだ・・・)



「な、な、ななな、なな、な・・・・」

神官が口を開いたまま呆けている。


それもそうだ。




だって・・・

精霊の加護・必中の加護・魔帝・剣帝。




どれも、聞けば聞くほど耳を疑いたくもなる言葉だ。




「なんだこの神託は・・・・


 女神様の神託で加護を受ける者がいるなど・・・


 それに・・・加護が2つも・・・」



後ろがざわついている。




これまで加護、さらに2つも女神の恩寵を受ける者はいなかったらしい。




(あのクソ女神!注目させやがって・・・


 あぁ・・・帰りたい・・・)




神官の前から去ろうとしている際に、父・兄と目が合った。


驚嘆の目だ。




(ですよねーーーーー)



トボトボ歩いて戻ると、すでに最後の子供の番であった。




黄金に輝くきれいな金髪、透き通るような白い肌、琥珀色と碧色のオッドアイ。


マルネリア・グレース・コーリネアルファ第一王女。




つい目を奪われた。


それほどまでに美しかった。


5歳なのに・・・




(・・・っは、まさか、見惚れるとは。・・・ん?)




目があった気がする。




「王女殿下、神託でございます……おや?」




王女様の神託も、俺と同じく変わっていたらしい。


女神の寵愛、魔帝の加護




(おいおい、魔帝の加護って・・・)



王女の神託の内容を訝しんでいると、


「女神の恩寵を大いに受けし者が世に2人も!


 まさにこれは、女神様の愛!今世に生きる者への希望!


 まさに・・まさに・・・!人類の希望が誕生したのです!!」




神官が興奮している。




前方にいる王女もチラチラこっちを見ている。




(・・・・・勘弁してくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)



*   *   *



神託後の王城




とある場所に、複数人集まっている




「キャッスルフォルト伯爵の3男、アーマルドと言ったか・・・。


 あの才は素晴らしいな・・・・」


「正直、化け物のような神託・・・いや、至高の恩寵ですな。


 内容がないようなだけに、ぜひ取り入りたい!」


「魔法の才に剣の才。さらに精霊にも愛されている。


 あれほどの才を野放しにはできん!何か策はないか!?」




アーマルドを取り込めないかの会議。


手元に置きたいと考えるのは至極当然だ。




「あまり変に彼のことを周辺国に言いふらさないようにせねば。


 それに我が国の中でもそれなりの措置を取らねばな」


「なぜだ?」


「あれほどのものを軍事利用しようものなら、周辺国へ宣戦布告する輩もいるやもしれん」


「そうなれば・・・」


「魔王の復活も示唆される今、戦争をすれば、魔族へのいい弱みになってしまう!」


「それは避けなければ・・・」


「幸い、彼は貴族。お披露目会もある。


 そこで、何かしらの対応を・・・・」


「まてまて、あまり変に悪目立ちするのもよくない。


 それに、あの神託を聞いていた貴族家も多数いる。」


「そうだな、アピールされているなか王城関係、しかも政治関係の話をしたら・・・」


「あまり良い印象が与えられないうえに、貴族の話を誇張した内容で市民に伝われば・・・」


「そういうことだ。


 焦らず検討していくとしよう。」


「まだ5歳。成人までにまだまだ時間もある。


 しかも貴族家なら高等学院にも通うだろう。」


「そうだな。卒業後の進路に我らと同じ道に来てもらえるように根回しをしていこう」








*   *   *



国王の私室






「お父様、お兄様!


 彼との仲を取りあってはいただけませんか?」


「急にどうしたのだマリア」


マリア----マルネリアに国王は尋ねる。




「はい、その前に彼が賜った神託はご存じでしょうか?」


「あぁその話なら私も聞きました。なんでも凄いらしい「そうなんです!!!!」・・・」


兄のアルフレッドは、妹に言葉を遮られ言葉を噤む。


「・・・噂でしか聞いてはおらぬが、なんでも「そうなんです!!あの方が女神様から受けた恩寵は・・・」・・・」


国王である父の言葉も遮り、マリアは頬を赤らめながら一人興奮している。


「父上、お披露目会の際に彼のことを見てはいかがでしょうか?」


「そうだな。貴族であるからして、高等学院までマリアと一緒にいることはほぼ確実か・・・


 いや、王立学院に通うとも限らん・・・」


「父上、その点は大丈夫ではないでしょうか?」


「ほうアルフレッド、なぜその様に思うた?」


「はい。かのキャッスルフォルト伯爵も女神の恩寵をあれほど受けた子息を、


 4つに分かれた学区の、しかも平民も通う学院に通わせるのでしょうか?」


「確かにな・・・大いにあり得ることだ。」


「お父様、ぜひお願いいたしますね♪」

5歳で仲を取り持つように進言する王女が異様なことに誰も気づかない・・・



アーマルドの知らぬところで、アーマルドの話題が尽きることがなかった。








*   *   *




当のキャッスルフォルト伯爵家では






「「「アード!どういうことだ!!!」」」




父と兄は興奮している。


父は普段【アーマルド】と気位高く呼んでいるにも関わらず、兄と同じ愛称で呼んでしまっている。




母に至っては、


「王女様も女神様に愛されているし~、アードは精霊様の加護もある!


 これは夢?夢なのぉぉぉ!?」




・・・トリップしている。




「いやぁ、私にも何が何やら・・・(そもそも、王女を気にしているのはなぜ・・・)」




王女の神託のことも考えている母が気になるが、こう答える以外の言葉なんてない。





「よし、お前も今後は兄と一緒の訓練をさせる。」


「わかりました」




当然だよな。


俺も子供がこんなチート持ちだったら、鍛えると思うし。


・・・もっとも、次男以降の子供も鍛えるのはキャッスルフォルト家そもそもの方針なのだが。





「半年後のお披露目会の時までに、様々なことを学ぶのだ」


「もちろんです!(えぇい、やけくそだ!)」




こうなったら、一生懸命訓練するしかない。


(あの女神のせいでチートオブチートになったが、せっかくの第2の人生だ。


 雨崎康介ではなく、アーマルド・グレース・キャッスルフォルトとして精いっぱい生きる!)




チートであることに腹を括り、悔いのないようにこの世界で生きていくことを決意した。

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