第33話見直した

 七回終了時点でミステリーナイトの残り人数は三人。

 捕手のとんち坊主、リリーフ投手のクイズマイスター、ファーストのミスターX。

 東京野球団とは違い、順調に人数を減らしている。

 

 八回ともなるともう後回しには出来ない。

 いよいよ未練達も真剣に、謎解きに向き合わなければならなくなった。

 神からの出題はこれ。


(空に手を伸ばし、待ち焦がれている魔物を召喚せよ)


「誰かこの中に黒魔術に詳しい奴はいないのか、魔方陣とか生け贄とか。魔物を召喚しないと」


 ナインに訴えかける大谷川。


「魔物なんて召喚出来る訳ないでしょ。だっていねーもん」


 語気を荒げ吐き捨てる五村。


「そんな事言ったってやるしかないだろ。何もアイディアがないなら水差すんじゃないよ」


 怒鳴り返す大谷川。

 両者睨み合う、一触即発である。

 東京野球団の面々は相当追いつめられていた。


「やめてください、今揉めたってしょうがないです。ここは切り替えて野球をやりましょう!」


 と夏美が止めるに入る。

 流石に首を縦に振る者はいなかった。


 大谷川は躍起になっているが、五村は既に匙を投げている。

 五村だけではない、ナインの中には諦めムードが漂っていた。



 未練はじっと黙って考え込んでいた。

 ベンチに戻る度、美々からダメ出しを受け、謎解きのアドバイスを貰っている。

 謎の中にあるキーワードを、数字や英語など色んな物に変換してみるといいらしい。


 未練は考えを巡らせた。

 英語……数字……漢字……!


 分かったかも、ぽつりと呟いた。

 その声にナインが一斉に振り返る。


「お前黒魔術の知識持ってるのか!だったら早く言え!どうやるんだ?どうやって魔物を召喚する?」


 大谷川が掴みかからんばかりの勢いで未練に詰め寄った。

 未練は焦りながらも否定する、黒魔術は使いませんと。

 大谷川は更に詰め寄る。


「は?じゃあどうやるんだ?言え!」


 答えは控え選手です、と未練は答えた。


)という字は()と()で構成されている。

 空に手を伸ばす出番を待ちわびる魔物=控え選手という訳である。


 ナインから称賛の声が上がる。

 この試合、東京野球団初の正解であった。

 まだまだ追い込まれている事に変わりないが、東京野球団はやや息を吹き返す。


 控え選手……。

 ナインは未練から今度はベンチへ視線を移す。


 ベンチの前には既に美々が待機していた。

 一本指を立てた左腕を天に突き上げ、その目は閉じられている。


 二秒程の溜めの後、美々はカッと大きく目を見開く。

 真打の登場である。


「未練君っ……よくやったわっ……ここからが本番よっ」






 八矢が脱出となったが、美々が召喚されてしまったため人数はいまだ九人。

 問題に正解した場合、ワンプレイ終わる毎に次の問題が出題される。


「美々が来たからにはもう安心っ。どんな問題でもっ……かかってきなさいっ」


 神の出題はこれ。


(遥か天空より飛来し光の皿、これを呼ぶ獣とはなにか)


「ゴリラよっ。何故ならウホウホ()というからっ。光の皿はUFOの事っ」


 美々は即答した。

 正解、一人脱出となる。


「じゃっ熱原さん脱出ねっ。 バイバイっ」


 美々から夏美へ、直々に指名が入る。


「え?私?」


 夏美が戸惑う。


「そうっ熱原さんは野球野球って謎から目を背けっ、チームをここまで追い込んだこの試合一番の戦犯だもんっ。美々のチームにはいらないわっ。ゲラウェイっ」


 こう言われてはぐうの音も出ない。

 夏美はしょんぼりしてグラウンドから脱出していった。

 更にワンプレーを終えて次の問題。


(神が迷える民にパンを与えた。しかし民は食べる事が出来ない、何故か)


「フライだからよっ」


(白く輝く宝玉を納めし、汚くて中が臭い袋とは)


「グローブよっ」


(ネズミが通う学校とは)


「中学校よっ。何故なら(鳴き声)学校だからっ」


 美々は次々とチームメイト脱出させていく。


 ――すごい!天才だ!


 未練は美々を見直すのだった。

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