第32話濁した
鬼清から空振りを奪った話、それを盛りに盛って話すと蟹江は喜んだ。
鬼清に絡まれた下りでは、心配そうににハラハラし、最後鬼を討ち取ったシーンでは花が咲いたような笑顔であった。
蟹江が喜んでくれて嬉しい。
最近の蟹江は夏バテ気味で元気がなかった。
それでも未練と夏美が面会に来ると、蟹江はハッスルし手取り足取りの指導に熱が入ってしまう。
あまり無理をさせてはいけないと思い、訪問の回数を減らす提案を前週にしたが蟹江からは却下されている。
未練の提案に蟹江は目に涙を溜め、フルフルと首を横に振ったのだった。
本日の蟹江のリクエストは素麺である。
蟹江はちゅるんちゅるんと一本ずつ、口に運ぶのだった。
蟹江はカープの実用化を楽しみにしている。
「見二行キタイノデス」
蟹江はカープ実用化の時期は、いつかいつかとしきりに尋ねてくる。
蟹江の体が心配な未練は言葉を濁してしまう。
すると蟹江は口を尖らせる。
「未練君、意地悪ナノデス」
来週は体を休めてもらいたい。
未練はもう一度、訪問中断の打診をしようとした。
しかし口を開く前に蟹江から、次週のリクエストが飛んでくる。
キンキンに冷えたきゅうりとの事だ。
次週もまた蟹江の元を訪問する事になる。
原宿のきゅうり専門店カパQで買った、きゅうりを持って。
チームバスでは例のごとく美々が愚痴を垂れ流していた。
「美々って本当に対戦運に恵まれてないっ。今日は美々のための試合になるはずなのにっ」
この日の試合、美々には大きな自信があるようだ。
しかし先発投手は未練である。
「今日はノックアウトされてもいいよっ。美々が華麗にリリーフするからっ」
先発登板当日の投手にこの物言い、デリカシーのない女である。
只、未練にとっては慣れっこで特に投球に影響する事はなさそうだ。
バスは
群馬ミステリーナイト
1(中)怪盗Z
2(左)ザ・メイズ
3(遊)Q
4(一)ミスターX
5(三)謎仮面
6(二)不可思議マン
7(右)ラビリンスM
8(捕)とんち坊主
9(投)ゲームマスター
東京野球競技部隊
1(遊)熱原夏美
2(左)八矢文人
3(二)五村圭介
4(一)鬼清勝
5(三)大谷川清香
6(捕)花毟海鈴
7(右)木屋田風花
8(中)久米村ぷりん
9(投)岡本未練
安間は鬼清を外す事が出来なかった。
スターティングメンバーが発表された時、球場の東京野球団ファンに失望の色が見えた。
もちろん鬼清の復帰を歓迎する者はいる訳だが、全体から見れば少数である。
鬼清に厳しい野次が飛ぶ。
鬼清はギロッと客席を睨み返した。
客席の杞憂をよそに試合は東京野球団打線が爆発し、25-0の大量リードで七回裏を終えた。
しかし東京野球団は、土俵際まで追い込まれていた。
ミステリーナイトとの試合は、攻撃中に神から謎が出題される。
それを解けばグラウンドから一人脱出させる事が出来る。
グラウンド内の人数が減れば当然野球の試合は不利になる訳だが、試合終了までに全員が脱出出来なければ何点リードしていようが負けである。
野球と脱出、この二つのバランスを取って戦わなければならない。
東京野球団は七回を終えて未だ、九人丸々グラウンドにいた。
初回から東京野球団には暗雲が立ち込めていた。
一回表の東京野球団の攻撃。
出された謎はこれだ。
(子が父を憎悪する時、その手にある悪魔の果実とは何か)
謎は全員で話し合い答えを導くことが許されているが、打席の側に集う九人の頭にはハテナマークが浮かんでいた。
腕を組み首を捻り、答えを絞り出そうとするが何も浮かんでこない。
――全然わからん!
三人寄れば文殊の知恵、と言うが九人集まってこの様である。
ベンチを見ると、美々が身を乗り出していた。
美々は答えが分かったようである。
察しの悪い馬鹿共を見てイライラし、しきりに口をパクパクとさせている。
「まだ初回だから焦る事なんてないですよ。とりあえず謎は無視して野球をしましょう!」
夏美が言うと全員が、待ってましたとばかりに同意した。
このように分からない事から逃げ、ズルズルと八回まで来てしまった訳である。
パスは出来ないが、回が終わる毎に謎はリセットされる。
一回表を終え一旦ベンチに戻るナインに、美々からの檄が飛んだ。
「あんな問題も分からないんですかっ。答えはパパイヤですっ。パパが嫌でっパパイヤっ。しっかりしてくださいっ」
ナインから感嘆の声が上がる。
――なるほどスッキリ納得!
未練も謎が解けてすっきりした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます