5.MV撮影②

 メンバー視点


「お待たせー! ねえ、さっき隣の部屋に陽葵さんが入っていったの見えたけど誘ってみる? 買い物の前に美月さんにも会ったから誘ってみたんだけど、予定あるって断られちゃった」

「え? 隣の部屋って美月さんだよ?」

「「「……」」」


 飲み物や食べ物を買ってきてくれていて遅れてきた木村 美南の言葉に、私が答えるとみんな無言になった。きっと考えていることは一緒だよね。

 なんで隣が美月さんって知っているかと言うと、鍵を貰う順番が美月さんの後だったから。部屋番号が聞こえて、私が渡されたカードキーを見たら隣の部屋だった。その時は隣は美月さんなんだな、くらいに思っていたのに陽葵さんが来ているとなるとちょっとそわそわする。


 陽葵さんと美月さんは仲が良くて、内緒で付き合ってるんじゃないかって思ってる。

 そう思っているのは私だけじゃないはず。とても聞けないけれど、本当はすごく気になる。


「あー、誘うのはやめておいた方が良さそうじゃない? ゲームやろ」

「だね!」

「はい!」


 私の言葉に、みんな頷いてカードゲームを始めた。

 しばらくして、先にあがったタイミングで外を見てみると、雨が止んでいた。ちょっと外に出てみようかな。


『みつきたーん! 起きたならこっち来て』

「……?!」


 ベランダに続くドアを開けると、隣から陽葵さんの声がして、ドアに手をかけたまま動けなくなった。振り返ってみたら他のメンバーも固まっている。


 タイミング悪く(良く?)陽葵さんがベランダに出ていたみたい。これって閉めた方がいいの? でも2人の時にどんな話をしているのかは気になるな……

 中にいるメンバーに閉める? とジェスチャーをすると、揃って首を横に振られたので静かに元の位置に戻った。


(みつきたん……)

(ねえ、隣の部屋に私たちがいるのって知ってるのかな?)

(いや、多分知らないんじゃないですか……?)


『ごめんね、少し寝ちゃった。陽葵ちゃん、そんなに乗り出すと危ないよ』

『大丈夫だって! 見て、超キレイな景色!』

『ん。そうだね』


 思わず小さな声になってしまいヒソヒソと話をしていると美月さんの声が聞こえてきた。


(やば!! 美月さんのあんな優しい声初めて聞いたんだけど?!)

(いつもはさん付けに敬語だよね? 普段はちゃん付けでタメ口なんだ……これ聞いてて大丈夫なやつかな?)


 もはやカードゲームなんてそっちのけで聞き耳を立てているけれど、どんな会話が繰り広げられるのか不安になってきた。メンバーが居てもあれだけイチャイチャしてるのに2人きりなわけで……


『私の部屋からだと山しか見えなかったのに美月の部屋からは海が見えるんだね』

『陽葵ちゃんの部屋は反対側かな?』

『はー、今回は一人部屋で残念。美月と一緒が良かったのに』

『2人部屋だとしても一緒だとは限らないけどね?』

『そこは一緒にしてもらう』

『うわ、職権乱用ー』

『キャプテンですから』

『そんなこと言ってしないくせに』

『ま、しないけどね』

『知ってる』


 隣からは楽しそうにくすくす笑う声が聞こえてきている。

 それにしても美月さんは楽屋とかではいつもクールな印象なのに、2人だとこんなに優しい話し方なんだ……なんだか聞いてるこっちが恥ずかしくなる。


 陽葵さんは普段とそんなに変わらないかな? メンバーに対してはキャプテンとしてしっかり接してるのに、美月さんといる時は甘えモード全開って感じになるのが可愛らしいんだよね。


(2人とも可愛すぎません……?!)

((わかる!!))


『ご飯の後もこっちに来ていい?』

『寂しい? 私が行こうか?』

『んー、美月が居れば部屋はどっちでもいいかな』

『かわ……!』


 え、なにそれ?! やば!!


『さすがにベッドは狭いかな?』

『シングルだからねー、私はソファでも寝れるから陽葵ちゃんベッド使いなよ』

『くっついて寝ればいけるんじゃ?』

『そんなの明日絶対身体辛いじゃん』


(どういうこと?!)

(1人部屋に2人で泊まるってこと??)

(美月さんのセリフ意味深……!)


 その後は話し声が小さくてよく聞こえなかった。気になりすぎる……


『それにしてもさ、MVが水着だなんて……』

『まあ、海って時点でそんな気はしてたよ。美月全く目合わせてくれなかったよね』

『や、なんかもう直視できない……』

『今更? 可愛いなー。下着姿ならよく見てるじゃん?』


 不満げな美月さんに余裕な陽葵さん。そんなに下着姿見てるんですね?!


『見てるけどいつになっても見慣れないし、水着はまた違うよね』


 肯定頂きましたー! やばっ! 陽葵さんはくすくす笑っている。


『笑いすぎ。あー、見せたくないのにな。』

『美月だって水着じゃん。あんな可愛いの着ちゃってさ』

『いや、私が選んだわけじゃないし。露出は少なめで良かったけど。陽葵ちゃんは露出多すぎ。見せすぎ。エロい』

『エロ……?! 見せすぎって私も自分で選んでないけど?!』

『今から水着変えられないかなぁ……』

『もう少しは撮影しちゃってるし。そんなに嫌?』

『嫌』

『珍しく素直じゃん。可愛い』

『わ、髪ぐしゃぐしゃになった』


 なんなのこのやり取り……可愛すぎるんですけど!!


(ニヤニヤが止まらないんだけど)

(わかる!!)


『ね、晴れてきてるけどこのままオフでいいのかな?』

『んー、どうだろ。ちょっと連絡してみる』


 陽葵さんが電話でこの後の予定を確認しているみたい。このままオフだといいな……


『今日はもう撮らないってさ。気になってる子いるだろうから連絡まわすよ』

『それがいいね。夜ご飯まで時間あるけど散歩でも行く?』

『んー』


 良かった。このままオフみたい。美月さんの誘いに陽葵さんは何かを悩んでいるみたい?


『ん? 何かしたいことあった?』

『あー、や、なんでもない』

『ほんと? 何かあるならちゃんと話して?』


 美月さんの声甘っ!! 


『せっかくのオフだから美月と部屋でのんびりしたいなって……』

『ふはっ、なにそれ可愛すぎか』

『そんな笑わなくてもいいのにっ』


 甘える陽葵さんの破壊力……!!


『はー、もうなんでそんな可愛いの?』

『笑いすぎだし』

『ごめんね?』

『美月のバカ。イケメン』

『……なにそれ? 褒められてる?』


 怒り方すら可愛いってどういうこと?!


『最近前にも増してモテモテだよね。みんなと写真とか撮る時にイチャイチャしちゃってさ』

『イチャイチャしてないよ?? え、そう見えてる??』


 突然の話題に狼狽える美月さん。確かに最近美月さんの周りには後輩たちが集まっている気がする。美人なのに行動がイケメンだからキャーキャー言われてるし。


『見えてる。私の美月なのに……』

『前に気をつけるって言ったのにごめん。陽葵ちゃんが1番だよ?』


 私のってそういう事ですか? そして1番ってそういう事ですよね??


『いっその事見えるところに印つけておこうかな』

『はっ?!』


 美月さんのはっ?! に重なるようにメンバーからも押し殺した悲鳴が起きた。私も声が出せたなら叫んでいたと思う。


(何何?!)

(閉めに行く? でもここまで聞いてたの気づかれちゃうかな?!)

(どうする?!)


 突然変わった雰囲気にメンバーも慌て始めている。


『よそ見しないで私だけ見てて?』

『や、してないしてない!!』


 え、え、これはどうなってるの?! 声だけだと分からないけれど美月さんが追い詰められてる感じ??


『目を離すとすぐイケメンな対応するんだから』

『ちょ、陽葵ちゃん落ち着こ?……っん』


 もしかしてキスですか?! 陽葵さんが攻め……!!


(えっ?!)

(もしかしてキスしてる?!)


『……は、かわい。ね、この辺って見えるっけ?』

『っはぁ……ん、、ギリギリかも』

『そ。じゃあもっと下かな』

『っ!!』

『綺麗についた』


 あーーー!! もう無理!! これはもう確定じゃない?? 付き合ってますよね? ね??


(……キスマーク?!)

(えっろ!!)


 美月さんの吐息混じりの声がエロい!!  恥ずかしくてメンバーの顔が見れない……


『え、この濃さしばらく消えないやつ』

『見えないしいいでしょ。誰かに見せるの?』

『見せないけど……陽葵ちゃんにも付けてあげる』

『や、私はいいよ』

『だめ。でも水着でどの辺まで隠れてたかな……』


 今度は美月さんから?! 美月さんキスマークとかつけちゃうタイプですか?!


(あーー!! もうやばっ)

(もうこれガチなやつ!!)


『もし見えちゃったらまずいし、やめとこ?』

『私には付けたくせに。水着着て確認しよ。持ってきてる?』

『シャワー浴びてきたし、さすがに持ってきてたら変でしょ』

『うーん、それもそっか。撮影終わるまで我慢する』

『終わったら好きなだけどーぞ?』

『誘ってる?』

『どうかなー?』

『……中行こ?』


 パタン、とドアが閉まった音がして2人は中に入ったみたいだった。この流れだとそういうことですよね?? ホテルの壁が薄くないことを祈る……


「「「……きゃー!!」」」


 沈黙の後、控えめに叫ぶメンバー達。もちろん私も含めて。美南なんて悶えすぎて机をバンバン叩いている。


「あの二人ガチだった……」

「え、この後って……」

「ちょ、やめて下さいよ、妄想が止まらない」


 キャーキャー盛り上がっているとメンバー全員のグループに陽葵さんからのメッセージが届いた。


【工藤です。晴れてきましたが、今日は撮影しないそうなので各自オフを楽しんでください!夜ご飯は18時に3階の××に用意してくれるそうなので集合お願いしまーす】


「陽葵さんから連絡きたね。夜ご飯の時想像しちゃって顔見られなさそう」

「分かります! 絶対にやけちゃいますよ」

「この後どうする? なんか部屋にいるのも居た堪れないんだけど」


 みんな同じ気持ちみたいだから散歩にでも行こう、と全員で外に行くことにした。


「お、みんな揃ってどこか行くの?」


 廊下に出てエレベーターを待っていると、陽葵さんと美月さんが並んで歩いてきた。結局散歩行くことにしたんだ……


「天気が良くなってきたので近くを散歩してみようかと」

「私達も散歩に行くから一緒だね。良かったら一緒に行かない?」


 美南が答えると、陽葵さんが誘ってくれた。お誘いは嬉しいけれど2人じゃなくていいのかな?


「え、お邪魔じゃないですか?」

「邪魔なわけないじゃん! ね、美月?」

「もちろんです。あ、でもみんなは嫌じゃない?」


 お2人がいいのならせっかくのお誘いだしご一緒したいところだけど。見回すとみんな頷いていた。美南なんて2人を近くで見られる喜びに浸っている。


 エレベーターが到着すると、美月さんが先に乗って扉を押さえていてくれて、降りる時も同じようにしてくれた。本当なら後輩の私たちがやらなきゃなのに。


「美月さん、すみません。ありがとうございます」

「ん? ああ、扉? そんなの気にしないで」


 イケメン……!!  狙ってやってる訳じゃないのに行動がイケメンすぎて、メンバーから大人気なんだよね。陽葵さんの心配も分かるかも。


「外あっつい!!」

「日差しがやばい! 陽葵さん、まずどこ行きますか?」

「うーん、とりあえず散策してみよ」


 美南達と陽葵さんがわいわい話しているのを美月さんは優しい目で見ていて、さっきのことを思い出して恥ずかしくなってしまった。


「望実ちゃん、体調でも悪い?」

「え?! ちょっと暑いだけで全然大丈夫です!!」

「それならいいけど、無理しないでね」


 顔が赤くなった私を心配そうに見てくれるけれど、顔面が綺麗すぎて直視できないです。


 少し歩くと、ホテルのプライベートビーチに出て、売店があったので休憩することにした。


 それぞれ好きな物を買ってパラソルの下に移動する。


「美月、それ何?」


 雑談していると、陽葵さんが美月さんの飲み物に興味を示しだした。


「トロピカルフルーツのジュース」

「美味しい?」

「何が入ってるのか分からないけど美味しいですよ。飲みます?」

「飲むー」

「……!!」


 美南、顔! 気持ちは分かるけれど。女子同士で飲み物交換なんて普通にするのに、さっきのこともあってこの2人だとなんかドキドキする。陽葵さんはジュースを受け取らずに、美月さんが差し出したストローをくわえた。


「ちょっと、自分で持ってくださいよ」

「うん、美味しい。もう飲んじゃったもん」


 私たちが一緒だからか、美月さんは敬語で話していたけれど、自然にいちゃついていてつい見てしまった。


「ね、美南ちゃん大丈夫?」

「大丈夫じゃないです。尊すぎて無理……!」


 陽葵さんは絶対に反応を楽しんでると思う。美南も隠してないし、そういうのが大好きなヲタクな事がバレているしね。


 美月さんは照れくさそうにしながらも、美南ちゃんをからかう陽葵さんを優しい目で見ていた。美南程じゃないと思いたいけれど、私もかなりニヤニヤしていたと思う。まあ、他のメンバーも同じような状態だったからいいよね。


 しばらく休憩して、足だけ海に入ったり遊んでいたら、夜ご飯の時間が近くなったのでホテルに戻ることにする。


 指定された部屋にはもう半数くらいメンバーが来ていて、それぞれ席に座っている。陽葵さんと美月さんとは別れて、参加しなかった仲のいいメンバーが集まっているテーブルについた。


「お疲れ。ずっと部屋でカードゲームしてたの?」

「ううん。さっきまで陽葵さんと美月さんと海で遊んできた」

「え?! 羨ましい! 行けばよかったな」

「私も2人と遊びたかったー! どんな感じだった?」

「様子聞かせてください!」


 羨ましがられて、様子を聞きたがるから美南に任せると、テンション高く2人の様子を語り始めて、私たちのテーブルだけすごく騒がしかったと思う。

 まだ撮影は終わっていないけれど、楽しいしご飯は美味しいし、今回のMV撮影最高すぎる……!

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