4.MV撮影
「あ、美月さんー! これから何人かでカードゲームやるんですけど一緒にどうですか?」
「お、楽しそう。でもごめんね、ちょっとこの後約束があって」
美南ちゃんが誘ってくれたけれど、この後は陽葵ちゃんと予定があるため誘いを断って部屋に戻った。
今日はMV撮影で海に来ているのだけれど、午後から急に天気が悪くなり半日オフになった。元々明日までの予定だったのでホテルは予約されていて、メンバー全員でホテルに戻ってきている。
「みつきー、入るよ」
ベッドに寝転がってスマホを見ていると、渡しておいたカードキーを使って陽葵ちゃんが入ってきた。
「陽葵ちゃん、お疲れ様」
「美月もお疲れ様。何見てるの?」
陽葵ちゃんもベッドに登ってきて、仰向けになっている私の胸元に頭を乗せて横になる。年上なのにいちいち行動が可愛いな……
「明日のスケジュール。でも今日の分の撮影出来なかったから明日のスケジュール変わりそうだよね」
「うん。いくつか変更になるみたい」
「やっぱりかー。自由時間楽しみにしてたんだけどな」
今日の分を明日撮るってなったら自由時間は無いだろうな。せっかく陽葵ちゃんと色々回ろうと思ってたのに残念。まあ、今こうして一緒にいられるからいいかな。
「自由時間は残念だけどこうしてのんびりできるのもいいでしょ? ま、私は美月が居たらそれでいいけど」
同じことを考えてたんだと思って嬉しいけれど、チラッと私の顔を見ながら恥ずかしいことをサラっと言わないで……照れる。
「照れてる?」
黙っていたらむに、と頬を掴んでくるので顔を見られないように陽葵ちゃんを抱きしめた。普段は恥ずかしくてなかなか積極的になれないけれど、私のだって実感したくて、今はなんだか抱きしめたかった。
「美月から抱きしめてくれるなんて珍しいね?」
「たまにはね」
今回のMVは水着での撮影で、陽葵ちゃんのは露出が多めのビキニだった。似合ってたけど、ちょっと刺激が強くないですかね?
沢山の人に新曲を届けたいと思うけれど、同じくらい見せたくない……陽葵ちゃんが悪い訳じゃないのにこの気持ちをぶつけてしまいそうで、抱きしめたまま目を閉じた。
「ねー、寝ちゃうの?」
抱きしめられたまま、つまらなそうに言う陽葵ちゃんの声を聞きながらうとうとしていると、少し寝ちゃったみたいだった。
そこまで時間は経っていなかったけれど、目を覚ますと陽葵ちゃんの姿がなかった。
部屋を見回してみると、雨が止んだみたいでベランダに出ていた。まだ雲が多いけれど晴れてきた空と海をバックに外を眺める陽葵ちゃんが綺麗すぎて、思わずカメラを向けて写真を撮る。
撮った写真に満足していると、陽葵ちゃんに呼ばれたからカメラを置いてベランダに近づいた。
******
美月が珍しく抱きしめてくれたからちょっと期待したのに、うとうとし始めたと思ったら寝てしまった。
最近忙しくて疲れてたもんね。腕の中から抜け出して寝顔を眺める。
寝顔もすごく可愛いけれど、目を閉じていると儚くて消えてしまうんじゃないかと不安になる事がある。
早く起きないかな……
しばらく眺めていたけれど、起きそうにないからベッドから降りてベランダに出てみた。随分雨も弱まってきていて、少し青空も見えてきていた。
ボーッと海を眺めていると、カシャとシャッター音がして、美月がカメラを向けてきていた。その距離からで撮れてるの?
「みつきたーん! 起きたならこっち来て」
写真を確認しているのか、なかなか来てくれないから待ちきれずに呼んでしまった。
「たんって柄じゃないんだけどな。最近よく言うけど気に入ったの?」
苦笑しながら美月が近づいてきた。近くに誰かがいる時には敬語を崩さないのに、2人になるとタメ口になるのがいつになっても嬉しい。最近では人前でもうっかりタメ口混じりになっていることはあるけれど。
付き合いたての頃に、渋る美月を説得して敬語をやめてもらって正解だった。最初の頃のたどたどしい美月、可愛かったな。もちろん今も可愛いけれど。
普段はクールで、私が抱きついても涼しい顔をしてデレの欠片もないのに、2人になると随分甘えてくれるようになった。
「ごめんね、少し寝ちゃってた」
「ううん、大丈夫。疲れてたもんね」
眉を下げて謝ってくるけれど、早く起きて欲しかったなんて言ったらしょんぼりしちゃうのが目に見えるからそんなこと言わない。しょんぼりする美月もちょっと見たいけれど。
「陽葵ちゃん、そんなに乗り出すと危ないよ」
「落ちないから大丈夫! 見て、超キレイな景色!」
「ん。そうだね」
さりげなく柵から遠ざけて自分の方に引き寄せてくれる優しさも、目を細めて笑う姿にもキュンとする。行動がいちいちイケメンなんだよね。
「私の部屋からだと山しか見えなかったのに美月の部屋からは海が見えるんだね」
「陽葵ちゃんの部屋は反対側かな?」
どうせなら同じ部屋か、隣が良かったのに。
「はー、今回は一人部屋で残念。美月と一緒が良かったのに」
「2人部屋だとしても一緒だとは限らないけどね?」
寂しいの? なんて言いながら笑ってるけれど、美月は寂しくないの?
「そこは一緒にしてもらう」
「うわ、職権乱用ー」
「キャプテンですから」
「そんなこと言ってしないくせに」
美月もちょっとくらい寂しがってくれてもいいのに。
「ま、しないけどね」
「知ってる」
なんでも分かってますよ、みたいな視線が照れくさい。見つめあって2人揃って吹き出した。
「ご飯の後もこっちに来ていい?」
「いいけど、私が行こうか?」
嫌がっていないみたいで良かった。でも別にどっちの部屋かは重要じゃない。
「んー、美月が居れば部屋はどっちでもいいかな」
「かわ……!」
そのまま伝えると美月が赤くなった。そういう初心な所も可愛いって分かってるのかな。
「さすがにベッドは狭いかな?」
「シングルだからねー、私はソファでも寝れるから陽葵ちゃんベッド使いなよ」
一緒の部屋なのに別々で寝るなんて寂しい。気遣いは嬉しいけど違うんだよなー
「くっついて寝ればいけるんじゃ?」
「そんなの明日絶対身体辛いじゃん」
……ん? これはお誘いってことでいいのかな? いいよね??
「美月、辛くってそういうこと? 今日は大胆だね?」
「ちがっ……?! なんでそうなるの?! 狭くて身体痛くなるかなって!!」
必死になっちゃって。ま、期待には答えますけど。
「それにしてもさ、MVが水着だなんて……」
唇をとがらせて不満そうにしているけれど、キスしてもいいかな?
「まあ、海って時点でそんな気はしてたよ。美月全く目合わせてくれなかったよね」
「や、なんかもう直視できない……」
裸だって見てるくせにそんなに照れる? 私なんて見すぎで凛花から注意されたくらいなのに……
「今更? 可愛いなー。下着姿ならよく見てるじゃん?」
「見てるけどいつになっても見慣れないし、水着はまた違うよね」
なんか男子中学生みたいな反応するなって思わず笑ってしまった。
「笑いすぎ。あー、見せたくないのにな」
美月からの独占欲が嬉しい。
「美月だって水着じゃん。あんな可愛いの着ちゃってさ」
「いや、私が選んだわけじゃないし。露出は少なめで良かったけど。陽葵ちゃんは露出多すぎ。見せすぎ。エロい」
「エロ……?! 見せすぎって私も自分で選んでないけど?!」
なんか私が好きで着てるみたいに思われるじゃん?!
「今から水着変えられないかなぁ……」
「もう少しは撮影しちゃってるし。そんなに嫌?」
「嫌」
「珍しく素直。可愛い」
「わ、髪ぐしゃぐしゃになった」
今日はデレの日なの? もう可愛いしか出てこない。
「ね、晴れてきてるけどこのままオフでいいのかな?」
「んー、どうだろ。ちょっと連絡してみる」
やっぱり撮影再開ってことがあるかもだし一応ね。
「今日はもう撮らないってさ。気になってる子いるだろうから連絡まわすよ」
「それがいいね。夜ご飯まで時間あるけど散歩でも行く?」
散歩かー。それもいいけど、部屋でイチャイチャしたいな。今日のデレ美月を堪能したい。
「んー」
「ん? 何かしたいことあった?」
そんなに純粋な目で見られると不純な動機が言い出し辛い。
「あー、や、なんでもない」
「ほんと? 何かあるならちゃんと話して?」
え、今日の美月どうしたの?! やけに甘くない?
「せっかくのオフだから美月と部屋でのんびりしたいなって……」
「ふはっ、なにそれ可愛すぎ」
思わず言ってしまうと目を細めて笑われた。本当にこの笑い方が好きすぎる。
「そんな笑わなくてもいいのにっ」
「はー、もうなんでそんな可愛いの?」
それはこっちが聞きたい。いつも可愛いけど今日は特に可愛い。毎日更新されてるけど。
「笑いすぎだし」
「ごめんね?」
許して、って頭をぽんぽんしてくるけど、最近されることが増えた気がする。
「美月のバカ。イケメン」
「……なにそれ? 褒められてる?」
ちょっと困った顔をしているけれど、どうせならもっと困らせちゃおうかな。
「最近前にも増してモテモテだよね。みんなと写真とか撮る時にイチャイチャしちゃってさ」
「イチャイチャしてないよ?? え、そう見えてる??」
この前気をつけるって言ってたけれど、優しいから拒まないし、みんなベタベタしすぎな気がする。美月から何かすることはないけどちょっとは拒否してくれたっていいのに。
「見えてる。私の美月なのに……」
「前に気をつけるって言ったのにごめん。陽葵ちゃんが1番だよ?」
良かった、ちゃんと覚えてくれてるんだ。それにしても、今日は珍しく気持ちを伝えてくれるな……
「いっその事見えるところに印つけておこうかな」
もちろんそんなことはしないけど、それくらいの気持ちってこと。
「はっ?!」
「よそ見しないで私だけ見てて?」
「や、してないしてない!!」
本当に見えるところに付けられると思っているのか、必死で否定していてついイタズラしたくなる。少しくらいならいいよね?
「目を離すとすぐイケメンな対応するんだから」
「ちょ、陽葵ちゃん落ち着こ?……っん」
外からは見えないと思うけれど、一応部屋寄りの壁際に追い込んでキスをした。
「……は、かわい。ね、この辺って見えるっけ?」
美月の水着はタンキニだったから露出も少なめだし見えることはないはず。
「っはぁ……ん、、ギリギリかも」
シャツのボタンをいくつか外して、デコルテを撫でながら聞くと艶っぽい声で美月が答えてくれた。拒否しなくていいの?
「そ。じゃあもっと下かな」
「っ!!」
「綺麗についた」
強めに吸うと、真っ白なデコルテに印がついた。
「え、この濃さしばらく消えないやつ」
「見えないしいいでしょ。誰かに見せるの?」
撮影のために付けないように気をつけていたけど結局つけちゃったな。からかうつもりがちょっと抑えられなかった。
「見せないけど……陽葵ちゃんにも付けてあげる」
「や、私はいいよ」
今度は私が壁際に追い込まれて、美月がそんなことを言い出すから焦った声が出てしまった。
「だめ。でも水着でどの辺まで隠れてたかな……」
「もし見えちゃったらまずいし、やめとこ?」
だめ、って何? 可愛くない? ちょっと攻めな美月もありだな……
「私には付けたくせに。水着着て確認しよ。持ってきてる?」
え、本当に付ける気? 付けたいって言ってくれるのは嬉しいけど。
「シャワー浴びてきたし、さすがに持ってきてたら変でしょ」
「うーん、それもそっか。撮影終わるまで我慢する」
ちょっと不満げだけど、とりあえず今は諦めたみたい。
「終わったら好きなだけどーぞ?」
どんな反応するかな、とちょっとからかい気味に言ってみた。いつもなら真っ赤になるところだけど。
「誘ってる?」
「どうかなー?」
想像したのか少し顔を赤くしたけれど、今日の美月はやっぱり何だかいつもと違うみたい。
「……中行こ?」
手を引かれて部屋の中に戻ると、無言でベッドに座らされた。美月はどうするのかな、と見上げると真っ赤になって顔を袖で隠してしまった。今更恥ずかしくなったらしい。
今のうちにメンバーに連絡しちゃおう。メンバー全員が入っているトークルームに連絡事項を送ると直ぐにスタンプ等が返ってきた。
うーん、この後どうしようかな。ちょっと美月が可愛すぎてこのままだと危ないかもしれない。まだ明るいし、この後メンバーにも会うしね。
やっぱり散歩にでも行こうかな?
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