3.配信後
美南ちゃんとの通話を終えると、陽葵ちゃんがソファに倒れ込んだ。
「はー、盛大にやらかしたわ」
「まあ、メンバー同士泊まるのなんてよくあるから別に何とも思われないんじゃない?」
配信を見ていて、自分が映った時にはびっくりしたけれど、それほど焦りは感じなかった。陽葵ちゃんが焦っていて珍しいなと思ったくらい。とはいえ、私も逆の立場だったら焦ったとは思うけれど。
「それはそうなんだけど。すっぴん晒すことになってごめんね」
「前に寝起きドッキリとかされてるから今更感あるかな」
冠番組でのドッキリ企画も結構あって、メンバーをターゲットに素を引き出す企画が色々行われていたりする。私の時には旅行企画の時に朝早く突撃されて、いきなり当時の新曲を踊らされた。なんなの?! ってキレながら踊った記憶がある。
「美月がキレてたやつ?」
「そうそう。元々寝起き悪いのにさー」
不定期でドッキリ企画が行われているけれど、根強い人気があるらしい。私も見るのは好きだし。そういえば陽葵ちゃんってドッキリ仕掛けられたことあったっけ?
「陽葵ちゃんは今までされたことあった?」
「差し入れが激辛ってやつくらいかな? 元々辛いの好きだから期待されてたほどの反応出来なくてブーイングの嵐だった」
2人とも随分前だし、そろそろなにか仕掛けられそうで怖い。私たちの場合はバレたらまずいこともあるし。
「隠し撮りとかされたら終わりじゃない?」
「あー、確かに。一応外では気をつけてるけど、2人きりの時とかはちょっとまずいかもね」
陽葵ちゃんは結構スキンシップ激しめだし、メンバーが居ても2人でもそんなに変わらないからいいけど、問題は私の方かな……
「外では2人だけの時も敬語にしようかな……」
「え?! それは私が辛い!! 反対!!」
いい案だと思ったのに陽葵ちゃん的には受け入れられないみたい。
「油断するとしたら私の方かなって」
「それなら他にメンバーが居ても敬語やめたらいいんじゃない?」
「うーん、徐々にね。待ってて」
いきなり変わっても変に思われるもんね。もう少し待ってもらおう。
「待ってる。まだ寝るには早いけど、さっきまで見てた映画の続きでもみる?」
「みる! でも陽葵ちゃん先にお風呂入ってきたら?」
「えー、めんどくさい」
「映画見て眠くなっちゃうかもしれないし。はい、起きて」
陽葵ちゃんを起き上がらせて、背中を押して脱衣所に押し込むとぶつぶつ言いながらも服を脱ぎ始めたので慌ててドアを閉めた。
急に脱ぎ始めるからびっくりした……
「直ぐに出るから先に見ないで待っててよね!」
ドア越しに言われたけれど、さすがにそんな事しないって。待ってるからごゆっくり、と伝えて部屋に戻った。
待ってる間暇だし動画でも見てよう。
「みつきたーん、お待たせ」
呼ばれて振り返ると、髪も乾かさずに下着姿で陽葵ちゃんが歩いてきた。
「服は?! それに髪も!!」
「服用意するの忘れたし乾かすのめんどくさい」
「そんな姿で出てこないで?! せっかく綺麗な髪なのに乾かさないと痛むから!!」
陽葵ちゃんって結構面倒くさがりだよね。気を許されてるって思うと嬉しいけれど。そんな姿は私の前だけにして欲しい。
「これ着て待ってて!」
部屋着を陽葵ちゃんに押し付けてから、タオルとドライヤーを取りに行く。
服を着るのを待って、タオルでしっかり水分を取ってから丁寧にブローをしていると陽葵ちゃんがうとうとし始めた。髪が長いから時間がかかるんだよね。
やっぱり先にお風呂に入ってもらって正解だった。明日も早いし、映画はまた今度にしようかな。
「陽葵ちゃん、終わったよ。歯磨きして寝よ?」
「んー、さっきしてきた」
私が歯磨きしてる間にソファで寝ちゃいそうだし、先に寝室に連れていった方がいいかな。
「寝室行くよ。歩ける?」
「もうここでねるー」
この可愛さはどうなってるんですかね??
なんとか立ち上がらせて寝室に連れていくと、ベッドに倒れ込んで何か唸っている。なんだろ?
「ねむいー。でもみつきたんとイチャイチャしたい」
「可愛い。明日早いんだし少しでも長く寝て。歯磨きしてくるね」
歯磨きをして寝室に戻るとすっかり眠っていた。もしかしたら待ってるかもと思ったから、ちゃんと寝てくれてて良かった。
ハードスケジュールだから寝れる時に寝てもらわないと身体を壊しちゃうんじゃないかと心配になる。
陽葵ちゃんを起こさないように隣に潜り込むと、無意識なのか擦り寄ってきてくれた。今日何回思ったか分からないけれど、可愛すぎて辛い。明日は頑張って早く起きて朝ごはんの用意しよう。
*****
目覚ましが鳴って目を開けると、美月の姿がなかった。あれ、昨日って泊まったよね? 髪を乾かしてもらって、寝室に移動してその後どうしたんだっけ。美月が戻ってくるのを待ってようと頑張ったけど寝ちゃったのか……
沢山寝てスッキリしているけれど、睡眠欲に負けた自分が憎い。せっかく美月から誘ってくれたのに。美月が聞いたら誘ってないって言うだろうけど。
それにしても何処に居るんだろう。もしかしてソファで寝たとか?? 探しに行こうとドアを開けると、音で分かったのか美月がキッチンから顔を出した。
「あ、陽葵ちゃんおはよ。朝ごはん食べるでしょ? 食材適当に使っちゃったよ」
え、わざわざ起きて作ってくれたってこと? 朝弱いのに頑張ってくれたなんて。
「おはよ。寝ててよかったのに……でも嬉しい。ありがとうー!!」
「うわっ?! 喜んでくれて良かった」
美月に飛びつくと、勢いに驚きながらもしっかり抱きとめてくれた。朝から美月のご飯が食べれるとか幸せすぎる。
泊まった次の日は朝ごはんは食べないことの方が多い。寝るのが遅いからお昼近くに起きたりね。
「ご馳走様。朝から幸せ!」
「大袈裟。もうすぐ迎え来るんじゃない? 片付けはいいから準備してきて」
「うわ! 意外と時間無いー! ごめん、ありがとう」
時計を見るとあと15分くらいで迎えが来る時間になっていた。急いで着替えないと。メイクは現場でしてもらうから軽くでいいから良かった。
慌ただしく準備を終え、靴を履いて玄関まで見送りに来てくれた美月と向き合う。
「美月も今日はここから現場行くでしょ?」
「うん。着替えもあるしそのつもり」
「何でも自由に使ってね」
「ありがとう」
本当はもっと一緒にいたいけどもう行かないと。ちなみに、お互いの家の合鍵は付き合ってすぐ交換しているから心配ない。
「慌ただしくてごめんね、行ってきます」
「大丈夫。行ってらっしゃい」
ドアを開けて1歩踏み出したけれど、せっかくならアレをやりたい。忘れ物、とドアを閉めると不思議そうな顔をされた。
「何忘れたの? 取ってくるよ」
「みつきたん、行ってきますのチュー」
「はっ?!」
取りに行こうとしてくれたけれど、物じゃないんだなー。昨日は寝ちゃったし、美月が足りない。
ダメかな、とじーっと見つめるとじわじわ赤くなったけれど目を閉じてくれた。え、キス待ち?? ちょっと待って可愛すぎ……
「行ってきます」
このまま部屋に戻りたい気持ちを抑えて、触れるだけのキスをする。あー、行きたくない。次に会えるのが待ち遠しい。
「……ん。行ってらっしゃい」
照れながら手を振ってくれる美月が可愛すぎた。同棲したら毎日こんな感じなのかな。いいなー、同棲。
迎えに来てくれたマネージャーさんがずっとニヤニヤしている私を気味悪そうに見ていたけれど、想像してしまって顔の緩みを抑えるなんて出来そうになかった。
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