第4話:鉄壁の上を行く完璧な性癖
「霞くん大丈夫か⁉︎ 風邪ひいたって学校でレオンから聞いた……ぞ?」
「あ、いらっしゃい。初めまして、普段お世話になってる霞の姉のミノリです。よろしくね、ミノリでもミノリさんでも、好きなように呼んでね」
お昼ご飯を食べ終わり、霞が一眠りしたところで、新たな来訪者があった。
ミノリは、その顔とその長身を、カフェで働いている友人から聞いていたので、初対面だったが、見た瞬間に誰か分かった。
この子が、あの、マリンちゃんだ♡
「でもごめんね、マリンちゃん。霞はたった今寝ちゃって、でもわざわざ来てくれたんだし、顔だけでも見ていく? しばらくすれば起きるかもしれないし」
「あ、じゃあお言葉に甘えます……ミノリさん」
噂通り、しっかりしている子だ。
その生真面目な性格が、霞の前だとどうなるのか、楽しみだねぇ〜。
********************
さて、どうするのかな?
ミノリはさっきと同じように、マリンを部屋まで案内し、霞と引き合わせたあと、頃合いを見計らって、『ちょっと買い物に行ってくるから、その間霞を見てて』と言って家を出た。
そしてまた、手元のスマホでモニタリング中である。
しかし、彼女に、これといった動きが一向にない。そのため、今は買い物に注力していた。
え……まさか、私が帰るまで、本当にただそうやって霞を『見て』いるつもりなの……?
折角部屋で2人きり、しかも霞は寝ているため、本当に誰も見ていない(本当は私が見てる)状況をセッティングしてあげたのに?
なんだぁ、あの子の本性が見れると思ったのにな〜。
ミノリがマリンに対して興味を失いかけたところで、『あ……そうだ!』という声がイヤホンから聞こえ、画面にも動きがあった。
見れば、マリンが、カバンの中をゴソゴソと漁っている。
「これ……役に立つかも」
中から出てきたのは、白い長方形のシートだった。
湿布? なんでそんなもの……ああそっか、彼女も運動だよね、あの身長、バスケだったらレオンと同じ時間に練習してるはずだから……単純に考えてバレーかな? 荷物も少ないし。
それにしても物持ちいいね。もしかして、キャプテンだったりして。
マリンは透明なフィルムを剥がし、霞の額にそっと貼り付ける。
「……ふふ、霞くんもこんな風に汗かくんだな」
そう言って彼女は、目を閉じている霞に笑いかけましたとさ。めでたしめでたし? ああ、つまらない。
ねえ、それだけ? 貼っておしまい?
あーあ、せっかく2人きりにしてあげたのになー寝込みは襲わない感じ? そっち方面でも優等生なの?
やっぱり、見込み違いだったかな。
そう思い、買い物に集中するミノリ。しかし、直後に聞こえてきたワードに、激しく心を動かされる。
「こうして、部屋に2人きり、そして霞くんは寝たきり。あの時の……ホテルに行った時みたいだな」
は⁉︎
今、なんて言った?
ホテルに行った時みたい?
ミノリはスマホに齧り付くようにして見入る。一度流れた音は後から確認できない。しかし、聞き間違いじゃないと確信できる。
え? 嘘……その日の夜、買い物しか行ってない霞をからかってたけど……本当に行ってたの⁉︎
霞に誘う度胸はない……ってことは。
ちょ……優等生⁉︎ 実は裏では結構してるタイプだったの⁉︎
「外……ちょっと明るいな……。あと、このままじゃ空気が
ミノリがそんなことを考えている間に、マリンは、部屋のカーテンを閉めながらも、窓を空気が通る程度に開けていた。
それが終わると、彼女は霞の布団をまくった。
その様子を見ながらも、ミノリは、大急ぎで買い物を終わらせ、家へと向かった。
ヤバい……! 完全に油断してた! 早く帰らないと、あの子、始めちゃうかもしれない!
********************
「うわ……やっぱり汗だくになってる。熱もあるし、午後になって日も照ってきたからかな」
マリンは
「汗をかいたまま寝るのは体に良くないんだけど……でも、勝手に脱がせる訳にはいかないし……」
風通しをよくするために、布団をめくるまでは良かったが、その先に行けない。
何をどうすれば良いのかは分かっている。
霞の健康のために、着替えさせる。幸い、近くに洗濯済みの清潔なシャツが置いてある。
自分でも考えすぎだと思うが、マリンはどうしても意識してしまう。
霞は男で、マリンは女。
「で、でも、霞くんは私の体を見たんだし、今は非常事態だし、別に、着替えさせることくらい……良いよね? 平気だよね?」
そう自分に言い聞かせるように言ったマリンは、霞の着ているシャツの裾の部分に指を入れ、ゆっくりと上に上げていく。
汗で張り付いた肌着が一緒に持ち上がってしまい、霞の、女子と見まごうほどの細いウエストが露わになる。
マリンは、それを極力見ないようにしつつ、さらにシャツを持ち上げたところで、
「はい、そこでストップ」
「え⁉︎ あ! ミノリさん、これは……!」
マリンの真後ろに忍び寄っていたミノリが声をかける。
シャツをつまみ上げたまま慌てふためくマリンを無視して、買い物袋をゴソゴソと漁る。
「あーそのままストップだって、これ、貼るから」
「……え?」
シャツと布団をゆっくり戻して
私が買ってきたものも冷却シートだ。
風邪用であり、敏感肌用でもあり、そして、体にも貼れる、汗で剥がれにくいタイプだ。
「えーっと、脇の下とかがいいんだけっけ。冷やすの? ねえ? マリンちゃん」
「あ、はい、そう……だと思います」
「ん、これで良しと」
霞の服をまくり上げ、露わになった脇の下に冷却シートを手早く貼り付けていく。
その作業中、マリンの様子を横目で見ていたが、目を逸らしているようだった。
おや? そういう関係になったにしては、随分と初心な反応じゃない?
もしかして、ホテルまで行っおきながら、そういうことにはなっていないのだろうか?
よし、もう一段階確かめてみよう。
「あと春場所は……太い血管のある場所が良いんだっけ? ってことは太もも?」
ピクっと、マリンが明らかに反応している。
「ちょっとマリンちゃん、手伝って」
「な……何を、ですか?」
「霞のズボン脱がすの。このままじゃ貼れないでしょ? だから腰のところ持ち上げといて、その間私が脱がして貼るから」
「わ……私が、ですか?」
「あ、それとも脱がして貼る方をやりたかった?」
マリンはぶんぶんと首を横に振りながら、両手を抱え込むように霞の胴へと回し、持ち上げる。
その間に、ミノリは、霞のズボンに手をかけつつ、マリンの顔を見てみる。
目を固く閉じているみたいだった。
やっぱり、まだしていないみたいね〜。
ミノリは霞の両太ももの付け根に冷却シートを貼り付ける。
「はい、終わり! ありがとうね、マリンちゃん、手伝ってくれて」
「いえそんな…………⁉︎」
目を開けたマリンはまたすぐに目を閉じてそっぽを向いた。
「な……なん……なんで……⁉︎」
「えー? ついでに汗拭いて、ちょっと風邪通しとこうかなって、思って」
そう言ってミノリは、ズボンを下げられたままの霞の足に、パタパタと手で風を送る。
その場にいるのに耐えかねるように、マリンは荷物を持って立ち上がる。
「あの、私……そろそろ帰らないと」
「えー! もう帰っちゃうの?」
「はい……学校の課題をやらないといけないので」
土曜日に、部活終わりに課題をするなんて、やっぱり真面目だねえ。
なんて、この場から逃れる言い訳だろうけどね。
「あ、そうだ、マリンちゃん」
「はい?」
ミノリは、眠っている霞に代わって、言うべきことを言う。
「そのヘアピンいいね、可愛いよ」
「あ……ありがとうございます!」
礼をして、マリンは帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます