第4話:買い物で変わり者からの貰い物

「あ、あとそれもカゴに入れて」

「はい……」

 ということで、僕とスキンは買い物に来ていた。

 場所は、学校から歩いて数分の場所にあるスーパーだった。

「そっちの安売りされてる方じゃなくて、国産の方、ヘタのところの色合いが全然違うでしょ」

「……すみません」

 そこで僕はカゴ持ちとなって、スキンの指定した食材を手に取っている。

 カゴ持ちというか、カート押してるだけだけど。

「こんなに買って、食べ切れるの?」

「1日で食べ切る訳ないじゃん、自炊したことないの?」

「恥ずかしながら……」

 そんなことを言いながら、霞は正しい食材を、カートのカゴに入れていく。

 自炊したことは、本当はある。どころか、姉のいない時は、ほとんど自分で作っている。

 コンビニやファストフードで済ませると、何かしらの添加物が体質に合わないのか、高確率で腹を壊すのだ。

 だから、基本的には、何が入っているのか分かるものを中心に食べるようにしている。

 自炊か、高級料理か。

 学生にとって、選択肢は、あってないようなものだ。

 しかし、ここはスキンの機嫌を取ることを優先する。  

 それに、さっきから彼女は、僕が口にしたことがないような珍しい食材から、味も知らない調味料まで買っている。

 明らかに料理上級者の動きだった。

 スキンは、本当に美肌を極めているのだろうか。そんな彼女を前に、多少の自炊自慢などできるはずもない。

 霞は大人しく、それでいて食材選びの勉強をさせてもらいながら、スキンの買い物に付き合う。

「あ、あとそれも入れて」

「これ?」

 スキンが指差し、霞が手に取ったのは、コンビニでも買えるような、キシリトール入りのガムだった。

「……料理に使う、とか?」

「……馬鹿なの?」

 馬鹿って言われた。いやだって使うかもしれないじゃん。

 ということは、普通に噛む用、だよな……ガムだし。ガムとか噛むんだ。

「今日のお礼」

「え?」

 そう言ってスキンはさっさとレジに並ぶ。

 今日のお礼、僕に? ガム一個? 

 小学生じゃないんだから。

 いや、十分か? 別に僕がお金を払う訳じゃないんだし、買い物に付き合っただけだし。

 むしろ、最近貰ったお礼(レオンからのキス未遂、マリンからのパンケーキと……いや、なんでもない)のレートが異常すぎて、僕の感覚がバグっているのだろう。

 ここらでいっちょ修正しないと。

 スキンは会計を済ませ、その間に食材を袋詰めし終わった霞に近づいてくる。

「じゃ、行くよ」

「え? どこに?」

 この買い物で終わりじゃないの? まだ行く場所があるの?

 霞は自分で詰めた、パンパンの2つの袋を見る。

 これを持って移動するのは大変だと思うけど。スキンは、意外と力持ちなのだろうか?

「早く持って」

「え? 僕が持つの?」

 そう言いながらも、なんとなくそんな気はしてたので、大人しく袋を持つ、ただし、片方だけ。

 もう片方は、すでにスキンが持っていた。

「それで……これからどこに?」

「どこって、考えれば分かるじゃない」

 霞は考えた、これだけの食材、中には要冷蔵のものも含まれる、放課後、これから夕食時。

 ということは。

「私の家、家に帰るまでが買い物でしょ」

 当たり前すぎて、そんな格言は聞いた事がない。

 そして、そんな簡単に男を自宅に招き入れてしまう女性も、聞いたことなかった。

 普段から自宅で見てるけど。

 あの姉のような倫理観の持ち主(というか捨て主)が、他にも身の回りにいるとは信じたくない。

 結局、まだフラつくスキンを見かねて、霞はもう一つの袋も持ち、彼女の家へと向かった。


********************


 『向かった』などと表現すると、それなりの距離を移動したように聞こえてしまうが、スキンの家は、スーパーのすぐ近くにあった。

 というか、駐車場を挟んで隣のマンションだった。

 僕も、親からの仕送りと、(詳細は知らないが)姉の高額バイトからの収入によって、それなりに恵まれた暮らしをしている。

 しかし、ここは、それとは比べ物にならない。家賃で言えば、桁が違うのではと思うほどの、高級マンションだった。

 俗に言う、タワーマンションというやつだろうか?

 高級ホテルさながらのエントランスに萎縮する僕を後目に、スキンは、自動ドアを開き、スタスタと奥に進んで、4台並んだエレベーターの間で待つ。

 置いていかれないよう、霞は慌てて後を追いかけ、ちょうど来たエレベーターになんとか乗り込む。

 スキンは、一応『開』ボタンを押してくれていたようだ。

 僕と、荷物が乗り込んだのを見て、行き先階ボタンを押す。

 まさかとは思ったけど、そのまさか、スキンの家は、25階建のタワーマンションの、最上階だった。

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