170.まずやること

 さて。

 そもそも、ベンドル側からの宣戦布告で始まった戦なので、きっちり終戦させないといけない。

 かたをつけるためもあってゴルドーリアの国王陛下も来ておられるのでちょうどよい、とばかりに話し合いが行われた。終戦の条件とか、この後どうするかとか。サファード様や、ベンドルで無事だった人の中に文官がいたのでその人にも加わってもらったそうな。

 そうして、二十日ほどでひとまずまとまったので調印式を行う。その間に他の国から見届人を呼び寄せておいたので、その人たちにも見てもらいながら王帝陛下と国王陛下は、終戦の文書に署名した。


「これでよいか? ゴルドーリアの王よ」


「はい。ご理解が早くて助かります、クジョーリカ殿」


 互いの署名を入れた二通の文書を手に取り、二人の陛下は握手を交わす。そうして、終戦の儀式は終了した。

 なお、他国の見届人各位は王帝陛下がきれいな女性であることにぽかーんと目を見開き、ベンドルの過酷な環境に身を震わせている。

 はっはっは、修復した王宮でもわりと寒いだろう。帝都でひとかたまりになって暮らさないと大変だというこの国の環境に納得してくれたようで何よりだ。ちょっとは気にかけてくれると嬉しいんじゃないかな、王帝陛下。

 とはいえ。


「まあ、いずれベンドルという国は形を失うであろう。その折にはほんの少しで構わぬ、我が民の行末を見守っていただきたい」


「それはこの老いぼれよりも、未来の長たちに伝えおきましょう」


「位を退くのか?」


「少々、国を騒がせてしまいましてな。これが、王としての、最後の仕事になるかと」


「なるほど」


 ……なんか、ちょっと不穏なお話されてるようですが。どうするんだろうな、次の国王陛下。

 何でも、足止めされていたゴルドーリア本隊を襲撃したベンドル軍の中に元王太子殿下がおられたそうだ。いや、さすがにしっかり捕縛された上で首が飛んだそうだ……物理的に。そりゃそうだろう、いくら何でもフォローしようがないって。

 なので、陛下の直系が継げない以上王位継承権を持つ中から選ばれたものが次の国王になるわけだけど、まあ俺には関係ないし?

 つか、それより今忙しいんだよね。あれから二十日経ってもたまに沸く、言ってみれば『大宰相派』の人たちのせいで。


「ランディス殿ー!」


 もちろん、そういうのを相手にファンランは生き生きとしている。いやおい、捕縛した『大宰相派』って切った木でも何でもないんだから、そう山のように積むのはやめい。というか多いな、相変わらず。


「……縄、いるか?」


「神魔獣と違って、人であれば数度の使い回しはできるでござるからな。大丈夫でござるよ」


 使い回し。つまり彼女は、この積み上げられた連中を一旦牢屋に叩き込みに行って縄を回収する、と言ってるわけだ。それでもう、何日経ってることか。


「減らないな」


「シオン・タキードの骸が、衆目に晒されたわけではないでござるからね。未だに存命だと思いこんでいる輩が、ひどく多いでござるよー」


 ああ、そういうことかあ。いや、神魔獣の中からシオンだけ引っ張り出すとかそういうの、多分無理じゃないかなと思うわけだ。できるなら、テムがやっているだろうし。


「そういえば、テム殿は何処でござるかな?」


 なんてことを考えていたら、ファンランの口からテムの名前が出てきたのでちょっとびっくりした。……ああ、一緒にいないからか。

 テムにはテムの任務があるから、別行動なだけだけどな。


「帝都の結界をチェックしてるよ。ほら、地下にあれ埋めちゃったから」


「ああ、神魔獣でござるね。それは確かに、必要でござる」


 だからその事を言ったら、ファンランも納得してくれた。

 ベンドル帝都の地下深く、とっても深いところに神魔獣を封じた結界は埋められた。テムの力を持ってしても完全に倒せない以上、これが最良の手段ではあるんだろう。

 で、真上にあるベンドル帝都全体に神魔獣を蘇らせないため、そしてそこに住む人たちを守るための強固な結界を、テムは今構築している。人が住んでいる間、少しずつ魔力をもらって継続できる結界らしい。

 神魔獣は元々そこに封じられていたわけだから、当時の結界を再構築ついでにもっと強くしたとか何とか。


「シオンみたいに馬鹿なことやる人間が出るか、帝都から人がいなくなるかしたらまた復活するらしいんだけど」


「どちらも嫌でござるねえ」


 『大宰相派』を荷車に乗せて運搬しつつ、そんな会話を交わす。万が一に備えて、俺とファンランには音声阻害結界をがっつり展開してるので荷物の皆さんには聞こえなーい。誰が聞かせてなるものか。


「ランディス殿は、結界構築には協力されないのでござるかね?」


「やってるよ。帝都の外をカバーするように展開してる」


「おや。それでは、任務の邪魔をしてしまったでござるね」


「いや、ちょうど終わったところだし大丈夫。時間を空けて、状況見ないとだめだしね」


「それなら、良かったでござるよ。ランディス殿の任務の邪魔をしたとなれば、皆がぶーたれるでござる」


 ……普通に会話してるだけなんだけど、ファンランのその言葉に俺の目は多分、丸くなっていると思う。

 皆がぶーたれるって何だよ。多分、結界の構築が遅くなって怒られるってことなんだろうけどさ。でも、皆って誰だ?


「皆って誰だよ?」


「え?」


 疑問に思ったので尋ねてみたら、今度はファンランの目が丸くなった。いや、わからないから聞いたんだけど。


「この地にいる限りでは自分とシノーペ殿と王帝陛下、あとセオドラ様とリコリス様もでござろうね」


「いやなんで?」


 いや、本当になんでだ。というか国王陛下やマイガスさんとかアシュディさんとかはいないのか?

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