165.とにかくやれるだけ

「攻撃、続けよ! 予備の弓矢、全部出してこい!」


「魔術師は適宜魔力回復を! 余裕のあるものがフォローに回れ!」


 部隊長さんたちの指示が、矢継ぎ早に飛ぶ。相手が超大型の魔獣であることもあり、接近戦ではなく長距離戦が主体となる。

 いや、人間近寄ったら蹴り飛ばされるか踏まれるかだろ、基本。ファンランは動きが素早い上に俺たちの結界や魔術をかけていたから……かけていたけど、今多分意識不明かなんかだ。まだ、結界の効果は切れてない。

 それに、ファンランは一人だったからな。部隊が集団で押し寄せたりしたら、適当に足を下ろすだけで何人もが踏み潰され、その数倍が衝撃や散らばる破片などで傷を負う。ああもう、くそう。

 なんてことを考えていたら、目の前にクッキーが差し出された。差し出してきたのは……わあ、サファード様。


「キャスバートくん、シノーペ、君たちは大丈夫ですか?」


「ありがとうございます。あー、このくらいでしたら大丈夫です」


「遠慮なくいただきますねー。ええ、私もまだ大丈夫です」


 戦闘中だけど、食うもの食っとかないといざって時に魔力切れとか起こすからちゃんと食べなさいよ、とは昔アシュディさんに言われたっけな。だから、俺もシノーペも遠慮なく口に運んだ。フルーツが入ってて、結構甘くて美味しい。


「結界と多種の魔術で、かなり消耗している……と僕は思うのですが」


「案ずるな。マスターの魔力貯蔵量はとんでもないぞ? 我の結界を、余裕で維持できるのだからな」


 いや、俺としてはそんなに消耗してない気がするんだけど……そうなのかな。

 というかテム、そういうものなのか? 確かに最初の頃はちょっとしんどかった気がするけど、そのうち要領を覚えてだいぶ楽になったし。


「そういえば、リコリス様から伺ったんですが。どこかの元宰相閣下と甥っ子さん、『神なる水』の結界維持に駆り出されたのにほんの数時間で魔力切れ起こされたそうですねえ」


「え、あのくらいで? 普通に魔力突っ込めば、一日は保つんじゃないのか?」


 シノーペの証言に、多分俺の目は丸くなっていると思った。

 『神なる水』を守るための結界は、テムが旧王都全体に展開していた結界よりずっと小さい。その分、消費する魔力も少ないと思ったんだけど……あれ?


「自覚がなくてよかったかも知れませんね。普通の魔術師にはかなり重労働、という噂は聞いています」


「『ランディスブランド』の魔力と我が相性が良いから、術に変換される効率も良いようでなあ。結界は張り直す故、そなたも休め」


 のんきに笑いながら降ってくる棘を切り刻んでるサファード様と、ぱたんとしっぽを振りつつ結界を展開し直すテム。いや、お二人がとんでもない能力の持ち主だってのは理解できますが!


「そういう話は後にしませんかー! 風魔術タイプ射出、連打連打連打あ!」


「みゃーん」


 そうして神魔獣が射出し続ける棘と張り合うレベルで風の刃を生み出しているシノーペだって、とんでもないレベルの魔術師……なのは俺が旧王都にいる頃からそうだったから、今更だけどな。

 と、ふと気がついた。進んでくる神魔獣の足元から前面にかけて、無数の矢が散らばっている。そもそもは通常の獣や人に対して使うものだから神魔獣には効果が薄いけれど、数に物を言わせることは、できそうだ。


「……ちょっと借りるか」


 地面に手を当てて、魔力を程よく流し込む。神魔獣に届かないよう、慎重に効果範囲を広げて。

 たくさんの矢。折れた軸、転がる穂先。軸は植物、先端は金属。どちらも、土魔術の範囲内だ。


「土魔術、タイプ植物及び金属、射出、集中……撃て!」


 大地を通じて無数の矢の破片を把握、魔力で弾として撃ち上げる。あるものを使うだけだから、土で杭や壁を作るよりぶっちゃけ楽だ。


「ぐおああああああああああ! い、いたいいたいいたいいいいい!」


「え、今のって」


「あー、はい、理解はしました」


 一つ一つが小さいので大したダメージにはならないけれど、まあ無数に足の裏や腹に叩き込まれたら痛いしうっとうしいよな、うん。

 ところでシノーペ、サファード様、多分見えたかな。テムは特に反応もせずに、迎撃続けてるけど。


「弓部隊! 持てる矢を全て撃ち尽くして構いません、どんどん射なさい!」


「私はそこまで器用な真似はできないので、普通にやりまーす! 風魔術、タイプ遠慮なく射出でいけええええ!」


「みーみうみー」


 サファード様の命令は、俺の弾を増やしてくれるものでもあるので助かる。追加で把握すればいいだけだしな。

 それとシノーペ、十分風魔術の威力がぶっ飛んでるからいいんだけど……何か、勝手に強くなってるよな。なんでだろ?

 ただ、それでも神魔獣は倒れない。そうして、自由になった口の中から、光が漏れた。


「いイ加減に、ニセの王に仕エる者共ハ、滅びよおおおオオおおおおオおおおお!」


「黙れ! 愚かな獣があああああああああああ!」


 神魔獣とテム、ふたりが同時に光……魔力の光を放つ。ちょうど、双方の真ん中でぶつかったそれは、大爆発を、起こした。


「防御結界タイプ全般、全開!」


 とっさに、いるのが分かってる味方全てに結界を重ねるのだけが俺には、ギリギリできることだった。

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