156.ゆっくり進み始めよう
エークの背に乗って「行ってきまーす!」と飛び出していったシノーペは、程なく後ろに見慣れた部隊長さんを乗せて帰ってきた。
「お伝えしてきました! あと証人!」
「おおお、これは真のようですな」
エークから降りずにぐでー、ともたれているあたり、シノーペも何やら大変だったようだ。部隊長さんの方は、すぐに降りて周囲を確認して、それから大きく頷く。というか、部隊長が戦場離れて大丈夫かと思ったけど……大丈夫なんだろうな。一応聞いてみるか。
「あ、部隊長さん。外、大丈夫ですか」
「うむ、戦況としてはこちらが優勢ですな。ベンドル軍はどうもあまり戦意がないようで、戦も程々に降伏をするものも多くおります」
「そっか、それはよかった」
「ふむ。さすがに腹も空くし相手が自分たちであるし、素直で良いことでござるな」
ファンラン、確かに素直なのはまあまあいいことだけどさ。それを言うと、シオンもある意味素直だぞ、あれ。
まあ、そこらへんで時間を取る気はないので急ごう。シオンを包む結界に魔力を補充できないから、いつか壊れるんだよな。その前に。
「この人たちは、帝都の中に置いていかれた……と言っていいのかな、一般住民の方々です。外に避難させたいのですが、構いませんね」
「シノーペ殿の報告を受け、事実であればサファード様より丁重にお迎えするよう申し使っております」
ああ、よかった。サファード様が許可を出してくれたってことだ、つまりこの人たちはひとまずブラッド公爵家の庇護下に入ることになる。
その後は……うーん、まあ何とかなるか、というか何とかしないとな。すみませんサファード様、丸投げします。シオンはぶん殴るので許してください。
「うむ。よろしく頼むぞ」
「妾からも、よろしく頼む。この民は妾の民故、なんとしても護ってやりたい」
「はっ。おまかせくださいませ」
で、そんなことを考えている間にテムと王帝陛下から頼まれて、部隊長さんはきりっとした顔で応える。と、多分ここから帰って報告して受け入れ態勢を整える、ということになるか。
「では、わたくしはこれにて」
「エークちゃん、もう一往復お願いしますねえ」
「ぐわう。にゃっ」
ぴしりと敬礼した部隊長さんに、ふたりが大きく頷く。シノーペの指示に従うためにエークは、自分の背中からごろんとシノーペを落とした。
「ちょ、何するのー」
「そなたはこちらで、民の誘導を手伝え」
がばりと起き上がったシノーペをたしなめたのはテムで……ああうん、普通の語尾で会話できる人がいてくれたほうが助かるよなあ。
「ぐにゃーお」
「それでは皆様、お急ぎください! では!」
やっぱり猫の混じった声を上げて、エークが再び飛び出していく。シノーペを連れて行かなくていいのか、と思ったけど一応防御魔術はかかっているっぽいし、なんとかなるか。ベンドル軍の大半、あんまりやる気ないらしいし。
「……おうていさま」
「む」
ふと見ると、ひょろひょろの子供が王帝陛下に恐る恐る声をかけていた。その後ろでお母さんらしい人がはらはらと見守っているんだけど……ああ、王帝陛下がその子の頭なでてるから、見守ってるというか固まってるというか。
「そとにでたら、ごはんたべられますか」
「うむ、食べられるぞ。そなたも、そなたの母も、他の者も」
子供の問いに、王帝陛下はきっぱりと答えてみせた。あーまー、俺やシノーペや、ブラッド公爵軍の魔術師たちも収納魔術にまだまだ食料詰め込んであるし、大丈夫だとは思うけど。
いや、そういうことじゃなくてここではっきりと応えるのが、多分王帝陛下のやることなんだろう。外に出たら食事が取れる、どうやらそれだけで彼らは、帝都から外に出る気になってくれたようだから。
「犬たちよ、帝都の民を守りブラッド公爵軍の陣まで送り届けよ。道は我やマスターが開いてくれようぞ」
『わふ!』
帝都の門を出て、ブラッド公爵軍本陣までまっすぐ進む道。先頭は結界と魔術で多分ないだろうけれど邪魔なものを退ける俺とテム、ファンラン。
「しんがりは妾とメティーオが務める。妾が見守っておる故、そなたらは安心して進むが良い」
最後尾に王帝陛下とメティーオ、そして背後からの攻撃に対する守りとしてシノーペ。その間に避難民たちが入り、両脇を犬魔獣たちが固める。
「みう!」
「はいはい、ビーちゃんもいるから大丈夫ね。よしよし」
「みゃあ」
ビクトールは相変わらずシノーペの懐で、元気そうで何より。……もしかしてさっきの往復で、目を回してなかったりするか?
ま、エークのきょうだいだしな。動きに慣れてても、おかしくはないか。
「では、ちょっと距離がありますが行きましょう。ゆっくりで構いません、護りますので」
俺とテムとシノーペの結界で、この人たちを護りつつ移動を始めよう。まだ、シオンは結界を解けていないようだしな。
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