152.どうも妙な真実

「というか、何をしてるでござるかね? 『神なる水』の結界で魔力抜かれてへろへろりんになっていた、と聞いたでござるが」


 ものすごーく呆れた顔になって、さらにため息交じりでファンランが尋ねる。ああうん、確かそういう話だったよなあ。何やってるんだ、ジェイクとヨーシャのガンドル一族。


「そこから強制労働なり何なりに向かったところで、ベンドルのどなたかとお会いしたんじゃないですか? もしくは」


 で、シノーペが推測を口にする。まあ、王都防衛戦とかあったし、ゴルドーリアの国内には未だにベンドルの人たちがいるもんな。とっ捕まえたり、ファンランに縛られたもの含む。


「その前から、協力関係にあった?」


「両方だな。この者共は、自分たちにろくでもない手段を取らせた者が我が手の者とは気づかなかったのだから」


 シノーペの言葉を、さらっとシオンは肯定した。しかも両方って……ああ、そういうことか。

 以前から元宰相閣下とかその辺りは、シオンの手の者と協力していた。ベンドルの手先とは気づかずに。

 で、俺のことやらなにやらで地位を失ったあとでベンドルだ、と名乗ったシオンの手先と協力して、こうなった。

 ………………んー?


「えー。じゃあ、俺のクビってまさか、そもそもシオン・タキードの陰謀?」


「お、お前などどうでも良かったのだ! 神獣を手に入れることができれば、ここまでややこしい事態にならずに済んだものを!」


『……』


 あー、マジですか。

 シオンは、多分神魔獣絡みでテムを欲しがった。で、うまく人を使ってガンドルの二人とか、多分元王太子殿下も手駒にした。本人たちそう思ってないだろうけど。

 で、テムを手に入れるには俺が邪魔なわけで。


「つまり、何だ。そこのヨーシャが我がマスターに成り代わることで、ベンドルの神魔獣の復活に一役買わせようとしたわけか」


「そういうことだ。まさか、決められた一族の血にこだわっているのが王家ではなく、神獣ご自身だとは思わなかったが」


「有り体に言うならば、我にとって魔力は食事だ。食事の好みくらい、主張してもよかろうに」


 テムとシオンのやり取りが、ものすごくどす黒い何かをまとっているように思える。ま、気にしないことにしよう。特にシオンの言葉、気にする必要もないし。

 それに、ふと気づいたことがあるんだ。

 なんでシオンが、そういうめんどくさい手回しまでしてテムを手に入れたかったのか。今ここに、なんで俺たち『だけ』がいるのか。


「そもそもシオン、自前で神魔獣復活とか……ああ、できなかったのか。だから王帝陛下を連れ戻して、それでテムをここに来るように誘導して」


「だから、後ろの部隊と切り離したでござるね。敵が多すぎると、邪魔でござるからねえ」


「つまり、自分の力だけじゃ切り札を切ることもできないのでわざわざ敵に来てもらったということですか。まあまあ」


 俺はともかく、ファンランとシノーペはシオンを煽ってるようにしか思えないんだが気のせいだろうか?

 実際のところそうだから、とは言っても事実をぶつけていい方向に進むとは思えないんだが。特に今の場合は。


「確かにそのとおりだが、実際に貴様らはのこのこと帝都の中心部までやってきたではないか。我が懐に、自ら入り込む危険を犯すとは」


「しかし、クジョーリカとメティーオはこちらのもとに戻ったぞ? ああ、そこの間抜け共は要らぬ故持っていけ」


 今のところ一番強いからといってテム、お前まで煽るなー。いや、確かにあの二人は要らないけど。

 ぶっちゃけ、俺のことろくな扱いしなかった連中だしなあ……同情しなくもないけど、助ける理由はどこにもない。犬魔獣に吠えられてるだけで腰抜かすような人たちだし。


「エーク、なんでお前アレの使役獣だったん?」


「がう? がうう、がおおにゃん」


「物心ついたら契約済みだった、らしいぞ。マスターよ」


 ついつい浮かんだ疑問を尋ねてみたら、テムが通訳してくれた答えは……あーまーそうね。幼い頃から契約して育てた結果、なわけね。

 どこで拾ったのか……は、まあアレだろうなあ、シオンとかそっちの関係。そうでなくても、ろくなやり方ではない気がする。気がする、だけだけど。


「まあ良い。とっとと脱出するに越したことはないぞ、マスターよ」


「みーうー」


 テムとビクトールが、声を張り上げる。弱体化されてるとは言え、シオンに対して使った結界はまあ一応の効力を発揮してるので、消える前に逃げるのが一番なんだよね。

 ただ、当然向こうもそれなりの策はあったらしい。


「逃げられると思うか。アスト、ローダ!」


「きゅあーう!」


「ぎゃあお!」


 シオンの呼ぶ声に応じて、魔獣が二頭姿を現した。……いずれも、メティーオとよく似た猛禽の頭部を持つ有翼四足獣。ふたご、と言ってもいいくらいに二頭は似ていて、それに少し似ているメティーオは警戒の声を発した。


「きゅ、きゅああ!」


「なるほど。メティーオのきょうだいか」


「そして、神魔獣の分体こどもである。もっとも、歴代の王帝が使役していたメティーオよりは弱くてな。故に、神魔獣の核としてはいささか頼りない」


 俺の言葉に、シオンはにいと目を細めた。そうして、腰が抜けたままのガンドルの二人にちらりと視線を向ける。途端、彼の使役獣たちもそちらを向いて。


「きゅーあーあ?」


「ぎゃうん」


「ああ。もういいぞ、あれは邪魔だ」


 そうしてシオンは、敵国の元宰相たちに死刑宣告を下した。

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