138.狙い
「厳密に言えば神獣様と、神獣様を従えている……とあちらが思い込んでいる魔術師、ですかね」
正確に言いたかったんだろう。サファード様は言葉を変えて、そうおっしゃった。とはいってもさ。
「いずれにしろ、我とマスターであることに変わりはないのう」
「というか、テムのこと使役獣だと考えてる辺りがなんだかなあ」
俺とテムが顔を見合わせるのはまあ、こちらとしては当然の考え方だ。ただ、ベンドル側としてはさて、どうか。
そこらへんについての推測も、サファード様が一例を提示してくれる。
「あちらの認識から推測しただけですけれどね。ほら、魔獣メティーオには王帝陛下が主としておられるでしょう」
「大宰相シオンが神魔獣のもとにしたがっているでござるね。メティーオは」
「ええ。神魔獣について、シオンがどういう認識でいるかはわかりませんが……まあ、魔獣の強力なもの、という感じではないでしょうか」
ああまあ、俺たちも神魔獣については見たことないし資料もないし、でそんな感じの認識だけどさ。
……ん?
「よもや、我についても同様に考えている、と」
「そうなんじゃないですかね?」
うわ、テムが牙むき出して怒ってる。プライドが傷ついたって感じだ。結構威圧感があるんだけど、平然としてるサファード様はさすがだ。猫ビクトールがちっこい毛玉になってシノーペによしよしされてるぞ、おい。
神獣であるテムは神様の御使いで、一応獣のパワーアップ版みたいな魔獣とは違うんだぞ、というのが特務魔術師だった頃に聞かされたテムの主張である。
「それ、ありそうですね。ベンドルの人たち、神獣様のことあまりご存知なさそうですし」
「そうでござるな。全く、失礼な奴らでござる。ちょっと縛ってくるでござるよ」
シノーペも、テムの威圧感は割と平気らしい。……俺は五年も一緒にいたから、それなりに慣れてる。ファンラン? 聞くまでもないな、全く平気。
ところで、ファンランが縛りに行ったってことは近くまでベンドル軍が来てるってことか。部隊も動いてるしな……よし、と考えたところでシノーペと目が合った。ほぼ同時に頷きあって、それから。
「風魔術、タイプ射出、それいけー!」
「防御魔術、タイプ全般。よろしくお願いします!」
シノーペが敵あぶり出し用の軽微な攻撃魔術を周辺の森の中に、俺は味方側に防御魔術をぶっかけた。
雑なやり方なのは自覚があるけれど、何しろ元から防御魔術がかかっている状態かつファンランが出撃してるからなあ。問題があったら、テムが突っ込んでくると思う。
「ふむ。こちらにはさほどの戦力は振り向けられておらんようだぞ、マスターよ」
「あー。本気でテムに来てほしいっぽいな、それ」
そのテムが周囲の気配を感じ取り、大雑把な戦力の分析を行う。シノーペの魔術に引っ掻き回されて森の中から飛び出してきたのは小型魔獣たちだけど、数は大したことないし……あ、ノースボアがいる。捕まえたら晩ご飯かな。
晩飯のおかずはともかくとして、だ。テムや俺たちを倒したいなら、それなりの戦力を向けてくるはずだ。今やって来てるのがそうでないということは……多分敵、シオンはテムに帝都に来てほしい、って感じだろう。
わざわざ後続部隊と分断するようにベンドルの部隊を動かしたのならまあ、サファード様のおっしゃることがまず間違いない、と思う。目的は知ったこっちゃないが。
「後ろのことは、あまり考えなくていいと僕は思いますよ。我が公爵軍より強力であることは、確実ですから」
そんなふうに、サファード様はおっしゃる。……後ろにはテムがいないから、それだけが心配なんだけれど。
「司令官率いる国軍部隊は、かのドヴェン辺境伯家による訓練を受けております。……といいますか、ご当主ザムス様に直接鍛えられた方々が」
「魔術の方もアシュディ団長率いる魔術師団がおられるはずですから、まあ大丈夫じゃないでしょうか。私より強い魔術師、いっぱいいますし」
「アシュディ・ランダートであれば、何か問題が発生して我らに助力を得たいなら遠慮なく助けを呼ぶ」
何か、後ろの人たちの一部にみんなはひどく信頼感を持っているなあ。主にドヴェン辺境伯閣下とアシュディさん。
ふと、サファード様がものすごーく済まなそうな顔をして頭をかいた。次の瞬間剣を抜き、突っ込んできた鳥魔獣を一閃して倒してるけど緊張感がないってば、まったく。
「まあそもそもは、実際のところ全軍をもって帝都を攻め落とすか、少数精鋭をもってシオンを狙うかという作戦なんですよ。何しろ、ベンドル国内の情報が少なすぎますんで」
「そんなところでしょうね。そうでなければ、俺たちや……ましてやテムが先頭なんて、おかしいですから」
ああ、やっぱり……というかさ、いや本当にこの布陣、そもそもおかしいから。
確かに俺……はともかくシノーペやファンラン、テムは強いよ。でも、神獣であるテムを先頭に立てて敵国内に押し入るのって何というか、テムに全て頼り切りというかえーと。
「あくまでも、人同士の戦であれば我はここまでついて来ぬが。どうも、神魔獣などの話が出てきたからな……最悪、我のみがベンドルの帝都に突入するというプランもあったのではないか? サファード・ブラッド」
「神獣様のお考え、確かにそういう案を出す輩もおりました」
っておおい、どこの誰だそんな雑にもほどがありすぎるプラン出してきたやつは。
「……風魔術、タイプ射出、連射」
上から鳥魔獣の群れが降ってきたので、魔術で対抗する。小鳥軍団だな……攻撃というよりは、先を急がせる意図がありそうだ。
やれやれ、いずれ帝都に進軍する予定だけど俺たち、その地で何をやらされるんだか。
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