113.言葉は伝わる
コーズさんに呼ばれて、俺とテムはランドの街に来ていた。身柄を預けた王帝陛下と一緒にいるメティーオが、何かを訴えているからというのがその理由だ。
……要するに、魔獣の言葉を通訳できるのがテムだけだから、なんだけど。エーク、早く人の言葉話せるようになってくれな。セオドラ様とシノーペが、おしゃべりできる日を心待ちにしているぞ。
で、セオドラ様がちゃっかり同席した場でテムは、メティーオの訴えを訳してくれた。
「そのシオンとやらが、そなたに神魔獣への覚醒を促していた」
「きゅい!」
「で、その覚醒には膨大な魔力が必要となる。いつもそばにいる王帝を始めとして、多くの民を生贄に捧げる、とな」
「きゅいきゅいきゅい!」
「……ま、まこと、か」
こくこくこく、と首がもげるんじゃないかという勢いでテムの言葉を肯定するメティーオ。
その横で王帝陛下が呆然としておられるのは、今名前の上がったシオン……フルネームはシオン・タキードと言うらしいけれど、その人が王帝陛下の側近でベンドル王帝国ナンバーツー、だからである。
要は自分の側近の偉いさんが、メティーオのパワーアップに際して必要になる膨大な魔力消費、もしくはその代替としての生命力……つまり生贄として、王帝陛下をその一人に差し出すつもりというわけか。
王帝陛下死んでもいいよね、つか死んで、と言ってるようなもんだよね、それ。側近さん、裏切り者だよね、これ。そりゃ王帝陛下、呆然とするよな。
「きゅー! きゅあきゅあ、しゃあああ! きゅきゅい、きゅいきゅい!」
「あー、今までシオンとやらの監視が厳しくて伝えることもできなんだか。それは苦労したのう」
「きゅあい! きゅぴ、しゃああ、きゅいきゅいい!」
「だが、多くの結界に阻まれたこの場でなら我らに伝えることもできよう、とメティーオは考えたようだ。我が言葉を理解できるしな」
「……これはこれで可愛いですわね……」
あのね、セオドラ様。メティーオが必死に訴えている姿はたしかに可愛らしいですが、言葉にしないでください……空気読めないって言われませんか?
「良い魔獣に仕えられておるの、クジョーリカよ。大切にせよ」
「う、うむ。分かっておるわ」
ひとまず側近の裏切り疑惑で固まってた王帝陛下、テムの言葉に何とか現実に戻ってきたようだ。膝の上にクッション載せて、その上にちょこんと座っているメティーオの背中をなでている。ああ、爪鋭いもんなあ。
「そ、それはそれとして。神獣様、神魔獣って何ですの?」
こちらも何とか現実に戻ってこられたセオドラ様が、そもそもの疑問の一つをテムにぶつける。神獣なのか魔獣なのかそれとも別の何かなのか、実のところ俺も知らないしなあ。
でも、テムはちゃんと知っていた。
「言うなれば、ものすごく強い魔獣のことだな。我のような神獣と戦っても負けぬような強大な魔獣、その存在を過去の民はそう呼んだ」
……神獣と戦って負けない、とても強い魔獣。神様の使いに匹敵する強さだから、神の如き魔獣って感じかな。
テムが知っていて、過去の民……つまり昔の人たちがそう呼んだ、ってことはテムが王都の地下に入る前にはいた存在、ということだろう。
「テム、見たことはあるの?」
「
「きゅ」
あ、知ってるどころじゃなかったな。メティーオも頷いてるってことは、本体の記憶をそれなりに受け継いでるのか知識として持っているのか。
「あれ。妾が教わった話と、少し異なるぞ」
「え?」
王帝陛下が口を挟んできたのに、俺たちは全員が彼女の顔を見る。北の国で育ったせいか肌が白くて、人形みたいに整っていてきれいな人だと思う。……とりあえず、ファンランに縛らせて悪かった。ごめんなさい。
「妾が知っている話では、神魔獣とは神獣の偽王国の者共からの蔑称である、ということだった。……だが、教えてくれたのはシオンなのだが……」
「きゅああ~」
なるほど。王帝陛下、教育とかもシオンという人とその取り巻き組から受けてたな、これ。あーまー、何かこれまでの態度の理由よく分かったわ。本人の性格がまだいいっぽいからいいけど、違ってたら元王太子殿下とかあのへんよりたち悪かった。
なお、王帝陛下のお話に対して即座にメティーオがないない、というツッコミしたのはよく分かった。鷲の顔でも結構表情に出るね、分かりやすくていいな。
「メティーオ自身が違う、と言っているようですね」
「そうか、違ったのか。シオンめ、何故妾に嘘を教えたのか」
一応そのツッコミを王帝陛下にお伝えすると、べっこりと凹んでしまわれた。
あー、結構信頼してた側近さんみたいだしな。そりゃそうか……現実の、多分ほんの一部を見せられてこれじゃあな。
しかし……そのシオン・タキード、一体ベンドルをどうしたいんだろうな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます