106.どちらへの防御

「どうした? 神獣システムよ。早う、我がもとに跪け」


 あくまでも自分が一番上、という態度を王帝陛下は崩さない。そこら辺はテムと一緒で、何というか許されるなら笑いたくなる。

 だって、王帝陛下っつったってあくまでも人間なのに。


「そなたは人の分際で、誰に物を言っているつもりだ」


「な、なに?」


 テムは当然のように、王帝陛下の命令を突っぱねた。いや当然なんだけど……だから、王帝陛下がここから見てもわかるくらい、あからさまにうろたえてる理由が分からない。

 もしかしてベンドルって国では、神獣よりも人が偉いとか教えてるんだろうか。それか、王帝陛下だけ特別とか。それなら分かるかな、うん。


「我こそは神より遣わされし獣、名をシステムという。人の願った水と、人を守るために遣わされし者なり」


 純白の、有翼の獅子。王帝陛下の魔獣よりも小柄なのにテムは堂々としていて、まとう気は彼らをも圧倒している。

 さすがの王帝陛下も、魔獣の背中でちょっと怯えてるような気がするし。

 良かったな、魔獣の上で。一人でぼさっと立ってたら、テムに怯える以前にファンランが縛ってるだろうし。


「だが、あくまでも我は神獣である。神獣は神の力の一部、よって我が人に跪く理由はない」


「な……」


 まあ縛るの何のは置いておいて、きっぱりと自分が上だと宣言したテムに対して王帝陛下は顔をひきつらせた。割と美人だと思うんだけど、何でこうひきつった顔って似たりよったりなんだろうな。ブサイク……というよりは醜い、と言ったほうが合ってる、表情。


「そして、魔獣メティーオよ。そなた、遠き昔に倒したはずだが……同一個体か、それとも別個体か? まあ、どちらでも構わぬが」


「くおう……くわあおう!」


「何じゃ、同一個体か。よう生きておったな」


 王帝陛下の魔獣は、メティーオというらしい。シノーペが「じゃあ、メーちゃんね」とか呟いたのは聞かないでおこう。エークと同じようにこっちに来るとは限らないし。というか、敵意と殺意がかなりこっち向いてるんだけど。

 で、あのメティーオはかつてテムがぶっ飛ばしたやつ、で間違いないようだ。そりゃ、テムにリベンジしたいよね……いやはや。


「ランディス殿、シノーペ。周辺に軍が潜んでいるでござるよ」


 と、ファンランがこちらにだけ聞こえる声でそう言ってきた。報告では一人と一頭だったから、こちらの兵士たちにも気づかれなかったらしい。「そっか、やっぱり」と頷くと、シノーペが軽く首を傾げる。


「部下の人が、心配してつけてくれたんでしょうか」


 そんないい部下がいてくれてれば、王帝陛下ももうちょっと単独行動は控えるんじゃないかな。もしくは、王帝陛下は一人で来てると思いこんでるとか。


「部下がこっそりつけてきたのは、多分間違いないだろうね。理由はともかく……シノーペ、エーク、周囲は一応見ておいて」


「わかりました」


「がう」


 どちらにしろ、周囲にベンドル軍がいるなら気をつけておかないといけない。結界張ったほうがいいかな、こちらの兵もいるしね。


「ちょろちょろと虫も動き回っているでござるよ。本国への連絡用でござるかね」


 さて、軍だけじゃなく、スパイもいるとファンランは言う。本国への連絡か……いずれにしても、されると面倒くさいよね。

 俺やテムの情報とか、持って帰られると絶対に面倒くさい。そうすると、だ。


「虫取りは任せていいかな。他の部隊にばれないようにできる?」


「お任せあれ、でござるよ。王帝も残しておいてほしいでござる」


「あ、うん」


 ファンランは、どうしても王帝陛下を縛りたいらしい。その前に、スパイ組を確実に捕らえてもらうことにしよう。ご褒美が王帝陛下なら、高速かつ確実にやってくれるだろ。ほら、もう姿がない。

 で、やっぱり面倒事は減らしておくに限る。王帝陛下やメティーオとテムが睨み合っている今のうちに、魔力を練って。


「こっそりついてきた人たちには、邪魔されないようにしとこうか……防御結界、タイプ全般。及び移動阻害結界、タイプ敵意」


 俺たちと王帝陛下、こちらの部隊を囲むように結界を、一気に展開した。移動阻害結界に条件をつけたのは、ファンランがどう動くか分からないから……いやまあ、スパイが何人いるかも分からない状況だしさ。

 もちろん永続できるようなものじゃないから、そのうち効力は薄れる。そのためにも、シノーペとエークにはそちらの注視を頼んでいるわけで。


「くぉう?」


「どうした? メティーオ」


 さて。

 さすがにテムと張り合った魔獣なだけあって、メティーオは俺の結界に気がついたようだ。王帝陛下は……魔獣を使えるんだからそれなりに魔術師としての力はあるはずなのに、気づかなかったっぽいな。


「我がマスター、キャスバート・ランディスがそなたを捕らえるための結界を展開したのだよ。小娘」


「結界だと!?」


 テムは相変わらず上から目線仕様……いや、本当に上だから仕方ないけど。そんな感じでぶっちゃけたなあ、もう。

 いやまあ、テムとしては自分が懐いてる相手というか、要は俺を自慢したいらしいんだけどね。情報操作、なにそれおいしいの、だって我は神獣だって感じ。

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