81.まっすぐ目指す
「土魔術、タイプ射出、放射!」
「がっ!」
「ぎひっ!」
サファード様を囲むように俺とテム、そして数名の護衛兵たちで推定敵隊長のもとに進む。あーもう、敵兵が邪魔だなあ。
「お掃除はお任せください、ランディスさん」
と、合流してきたシノーペがニッコリ笑って地面に手を当てた。双方の兵士が踏み鳴らした地面はすっかり土だらけになっていて、草木の邪魔はほとんどない……ので。
「土魔術、お邪魔な方々を避ける壁、出ませい!」
ごんごんごん、とその場にいた敵兵たちを巻き込む形で土壁を作り出す。巻き込むっていうか弾き飛ばすっていうか、やっぱりアッパーなんだな。
そして俺たちの目の前に、推定隊長のところまでまっすぐな、結構広々とした道が出来上がった。馬車が二台並んで通れるくらいだから、戦闘も問題なさそうだな。
「がおう!」
人の二倍よりも高い土壁を軽々と飛び越えてやってきたのは、虎の姿のエークである。黒い毛皮に血が飛び散ってるから、かなり奮戦してきたんだろうな。後で洗ってやろう。
「エークリール。我らを、あの男のもとまで案内せよ」
「がう!」
テムの言葉にコクリとうなずいて、エークが俺たちの先頭に立つ。しっぽがぴーんとしてるのは、上機嫌ってことなんだよな。あー可愛い、でっかい猫。
そうして俺たちと一緒に進むテムも、可愛らしいでっかい猫。神獣だけど、もちろんエークだって魔獣だけど。
「おお、見よ! 新しい魔獣だ!」
と、前方から声がした。横からは土壁が邪魔して、声なんて聞こえないので当然、正面にいる推定隊長集団からの声だろう。
ああ、土壁は作ったシノーペの腕に比例してとっても頑丈である。多分、彼女が術を解除しなくちゃ壊れないんじゃないかな。
ところで新しい魔獣って、エークは結構こちらで暴れてたみたいだけど。はて。
「魔獣にしては美しい。あの純白の身体、鮮やかな翼……」
ん?
「どうやら、あちらから向かってきてくれたようですね。隊長」
「そうだな。我が使役獣として、あの白い魔獣を手に王帝陛下のもとに凱旋しようぞ」
んー?
「あいつらを倒して、首とともにあの魔獣を手に入れろ!」
どうも、何かおかしいんだけど。
だって、魔獣であるエークは黒いし、白いテムは神獣だし。
「もしかしてあの方々、とんでもない誤解をしているようですねえ」
「ですよね」
サファード様が呆れたように肩をすくめられ、俺もそれに同調する。
もしかしなくてもあの人たち、神獣と魔獣の区別がついてない……んだろうなあ。使役獣とか言ってる辺り、あの隊長さんも魔術師の端くれだろうに。
魔術師なら、相手の気配をちゃんと読めば神獣か魔獣かなんて簡単に見分けがつくのにな。
「……マスター」
「あーうん、怒っていいよテム。止める気ないし」
「どうぞ、存分にお怒りください」
「うわあ、テムさん怒らせちゃったんですか。退避退避」
プライドに傷つけられたもんな、そりゃテムは怒るよ。俺もサファード様も止める気はまったくないし、シノーペはさっさとこちらに戻ってきた。
「ふはははは! よりにもよって何という間違いを犯したのでござるかな、そなたらの長は!」
そしてどうやら、壁の外ではファンランが大暴れしてる最中らしい。隊長さんたちの声聞こえたんだな、まあ頑張れ。この壁の外に、どれだけ縛りがいのある兵士がいるのかは分からないけれどまあ、後で見ればいいか。
さて。
「我こそは、『神なる水』を守りし神獣システムなり! 故あって、ゴルドーリア王国に仕えし『ランディスブランド』の守護を務めている!」
テムが、怒りに任せて吠えた。少し距離のある隊長さんたちの兜に、ビシビシと石やら草やら土やらがぶつかるのが見えてるぞ。
『ランディスブランド』の守護……まあ、間違っちゃいないか。守護というか、俺に懐いてくれてるだけだけど。
「神獣様は、キャスバートくんの守護担当ですよね。僕は、ついでに守ってもらっているだけですし」
「いやほんとすみません……」
「気にしなくていいですよ。僕には僕用の護衛がいますから」
にこにこ笑うサファード様は、前方には鋭い視線を投げるんだけどこちらには普通に接してくれている。あーうん、敵じゃないからな、俺。
「ベンドルとやらの兵士よ! そなたら、魔獣を使役する力を得ていながら我が神獣であると見抜くこともできぬのか! この、愚か者がああああああ!」
「にゃっ」
こちらの考えはともかく、割とお怒りのテムが遠慮なく、雄叫びとともに魔力を吐き出した。ひょいと避けたエークの横を、荒れ狂う魔力の風がまっすぐに隊長さんたちに突入して。
「弾けえええええ!」
『おおおおおっ!?』
隊長さんの指示に従い前に出た兵士たちを、あっさり吹き飛ばした。
そりゃまあ、神獣のプライド刺激しちゃなあ。そちらの王帝陛下とやらの悪口言ったら多分、そちらさんたち怒るだろ。同じことだよ。
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