67.たたかってみよう

「防御魔術及び速度上昇魔術、タイプ全般、範囲大!」


 ひとまず、交戦する直前にこちら側の皆に向けて魔術をかける。直接攻撃も魔術攻撃もダメージを減衰させる術と、それから身が軽くなるっていうのか、そういう術。

 ……もっと上級の魔術師ともなれば、乱戦中でも味方にだけかけるとかそういう芸当ができるらしいんだけど。俺はそこまでできないから、交じる前にじゃないと駄目なんだよな。敵にまでかかってしまったら大変だし。


「おや」


「丈夫になったような気分でござる、ねっ!」


 サファード様が軽く手を握ったり開いたりして、確認してるっぽい。ファンランは速攻で敵の中に飛び込んでいって、遠慮なく敵の首に刃を突き立てていく。


『炎魔術、敵を焼き払え!』


「ぎゃああああっ!」


 魔術師たちは、敵軍の後ろの方に炎を出現させた。数人で一斉に放ったから、炎の規模もかなり大きい。当然、悲鳴を上げて燃やされるので……それを振り返って確認した敵兵たちのところに、こちらの騎士と歩兵がなだれ込んでいった。


「神獣様。把握ができるのであれば、この付近の別働隊などを探っていただけますか」


 こちら側が有利であるのを見て取ったサファード様が、テムに視線を向けてきた。ああまあ、確かに結界張りまくってるからチェックするのはできるか、というかテムにしかできないか。


「ここは良いのか?」


「キャスバート君の力添えのおかげで、おそらく。それに、神獣様に足止めをしていただければそれぞれ潰しにいけますからね」


「そういうことであれば、問題はない」


 目を細めて頷いて、テムの全身からふわりと淡い淡い魔力が溢れ出した。これまでに展開したここらへんの結界の、再確認をするようだ。

 ところでサファード様、全部自分で潰しに行くとか考えてるんじゃないだろうな? 少しはセオドラ様にお分けしたほうがいいと思うんだ、俺は。セオドラ様、絶対敵を蹴りたがってるはずだし。

 まあ、そこらへんは後にしよう。テムのおかげで本気で後回しにできるのはすごいな、さすが神獣だ。


「マスター、そなたは血族に力を貸してやれ」


「もちろん。頼んだよ、テム……風魔術、タイプ放射!」


「任せおけ」


 俺はこういうときにテムの手伝いをできるわけではないから、当然目の前の敵軍を排除することに務める。だいたい、そばにいるのがブラッド公爵当主の配偶者なんだから、しっかり守らないといけないし。

 とりあえず、向こうから撃ち込まれてきた風の矢を、同じ魔術で弾き飛ばす。それから、サファード様と王国側の司令官、それに護衛兵たちの周りに防御の結界を展開する。俺は自前でなんとかなるから、とりあえず小さな結界の壁を作っとこう。


「あれ、血族に力を貸すって」


 自分の周囲に結界ができたことに気づいたらしいサファード様が、こちらをチラ見した。いやだって、お互い『ランディスブランド』なんだから血族でしょうが……なんてツッコミは入れません。あとが怖いから。


「サファード様の護衛、ってことでしょうね。メルランディア様やセオドラ様に、怒られたくないですし」


「僕も怒られそうですね。うん、素直に守ってもらいましょう」


 よし、うまくしのいだ。いや、本当にサファード様に何かあったら、あの姉妹に怒られるもんな。二人にフルボッコされる図が目に見える……いや、メルランディア様は今大事な時期だから主にセオドラ様か。

 と、テムがふいと顔を上げた。それにつられて空に視線を向けると……あ、遠くから何か黒っぽい点が十数ほど接近してきてる。これは。


「空から魔獣です! 十……三、四!」


「援軍ですか? 構いません、撃ってください!」


 即座に指示が戻ってくるのはほんと、ありがたい。構いませんというのは……うんあれだ、撃ったら落ちてくるからね、魔獣。小型の鳥でも。あの高さからだと結構な勢いがつくだろうし。

 もっとも、まともに攻撃を食らうよりはよほどマシだと考えてサファード様は、撃てと指示をされた。なら、撃つしかないよな。

 ただちょっと数が多いのと、避けられそうなので……範囲が広くて、見えにくくて、数撃ちゃ当たる方式でいくか。


「風魔術、タイプ真空、連射、放射」


 固まって接近してくる魔獣たちに、狙いをつける。真空の刃を叩きつければ、いや避けられても突風が起きるから、相手にとってはかなり面倒なことになるはずだ。


「いっけえええええええ!」


 思いっきり、魔力を放り投げるように発動する。発生した真空が魔獣たちを切り裂き、避けた者もその余波による突風でバランスを崩し、中には味方同士ぶつかるものもいた。


「魔獣、落下してきます!」


「当たるような間抜けはいないと思いますが、頑張って避けなさい!」


 俺の忠告とサファード様の指示に、敵も味方も一斉に空を見上げた。上から何かが降ってくる、それも魔獣なのだから、潰されるわけにもいかないもんなあ。

 で、その上に降ってくる魔獣は……羊くらいの大きさの鳥たちだった。身体に防具、くちばしと爪に同じ形の武器を付けているから間違いなく、攻撃用に呼ばれた連中だ。それがぼとぼとぼと、と落ちてくる。飛んで来る勢いが付いてるから、斜めに落ちてくるんだよなあ。


「盾と足場が! 落ちてきてくれるでござるよー!」


 その中で一人、ファンランがとっても楽しそうに魔獣を踏み台にしながら敵兵の間を駆け回る。すばすぱ切り刻むのは……あー、縛るまでもないとか思ったか、その余裕がないか。どっちでもいいけれど。


「……キャスバート君。近衛騎士って、ああいう感じの方ばかりですか」


「一部です一部」


 そしてサファード様、いくらなんでもそういう誤解はしちゃダメです。マイガスさんが凹むから。

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