特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~

山吹弓美

01.突然ですが、俺がクビ

「キャスバート・ランディス。お前の職は、たった今を以て解かれた」


「はあ?」


 ゴルドーリア王国、王城。

 出勤したところをガンドル宰相の執務室に呼ばれ、部屋の主と面会した俺は開口一番、そんなことを言われた。


「分かりにくかったか? お前はクビだと言ったんだ、『元』王国特務魔術師キャスバート・ランディス殿」


「分かりやすく言い直してもらわなくて結構ですよ、ジェイク・ガンドル宰相閣下」


 元、の部分を思いっきり強調しておっしゃってくださった宰相を、ついにらみつける。つっても俺の両親よりも少し年上の、黒目黒髪眼光鋭い爺には迫力負けするよなあ。色の派手さなら勝つんだけどなあ……俺は赤髪赤目、だから。

 大体、どういうことだよ。俺の地位、王国特務魔術師ってのは国王陛下が直々に叙任くださったものなんだぞ。国の中心、王都を守護する結界を展開するための、重要な地位。


「おお、これは失礼した。さすがに、何故国王陛下が重用されるのかがわからない、田舎者の中途半端な魔術師殿であってもゴルドーリア王国の言葉はきちんと理解できたのだなあ」


 とはいっても宰相め、分かりやすく俺のことを嫌ってるからなあ。まあ、ど田舎からいきなり国王陛下が連れてきたんだから、理解はできなくもない。

 けどこれには国王陛下のみならず、ゴルドーリア王国重鎮なら確実に知っている理由が存在しているわけで。あと、王国の言葉っつーても普通に共通語じゃねえか。馬鹿にしやがって。

 それはそれとして……いくら宰相閣下といえど、勝手に俺のクビを飛ばすことはできないはず……なんだけど。


「ランディス。これは俺の命令だ」


 不意に聞こえた声に、思わず膝を折った。王城勤務、王族に仕える特務魔術師としては当然の振る舞いだと俺は思っている。

 声の主は、ゴルドーリア王国の第一王子であるゼロドラス殿下。現在は王位継承権第一位の王太子であり、現在病の床に臥せっておられる国王陛下に代わり間もなく王位につくことになるんだろうな。

 もっとも、既に宰相と一緒に政務を執ってるか。まあ、それに関してはここ数日のことだけど。


「王太子殿下のご命令、ですか」


「そうだ」


 俺の問いに、王太子殿下はのんびりと頷いた。金髪碧眼、上から目線系イケメン。結構威圧感あるんだよな、やっぱり王太子だからか。

 一応国王陛下の名代ってことになっているから、それならわからなくもない……わけあるか。

 少なくとも陛下はまだご存命で、というかお身体は弱ってるけどある程度の政務は自分でこなしておられるはずだぞ。そのくらい、俺にだって情報は来ているんだ。


「お言葉ですが殿下。自分の任務は、王都を守るための重要なものだと理解しております。そもそも、国王陛下直々にお声がけいただいたのですが」


「問題ない。この件に関しては、国王陛下からも許しを得ている」


「本当ですか」


 って、マジかー!

 思わず顔が青ざめたんだろうなあ、俺。こっち見た王太子殿下と宰相閣下、にやにやといやらしい笑み浮かべてやがる。

 この二人、共通してるのは俺を嫌ってること。というか、俺が特務魔術師に選ばれた理由について懐疑的であること。

 国王陛下の許しがマジで出てるかどうか、俺には確認できそうもないが……要するにこいつら、俺を追い出したいわけだな。


「ということは宰相閣下、すでに後任は決まっているわけですか」


「無論だ。『ランディスブランド』などという、古臭い慣習には当てはまらない優秀な者を選抜してある」


 一応、気になることを聞いてみる。そこはそれ、宰相もちゃんと考えてはいたらしい。さすがに王都を守る役割、空席にしとくわけには行かないからな。

 とはいえ、『ランディスブランド』……俺の血族を馬鹿にしやがって。ここで反抗したら確実に処刑だろうから、我慢我慢。


「……任務の引き継ぎは」


「必要ない。そうだな? ジェイク」


「はい。殿下のおっしゃるとおり、引き継ぎなどせずとも何の問題もございませんな。何しろ、優秀な者を選びましたから!」


 必要ないのかよ、つか優秀な、のところに力入れるな、くそったれ。

 話が途切れたところで宰相閣下は、もう言うことはない、とばかりに俺を手でしっしっと退けた。


「何をしている。無役の者が王城にいつまでもいられると思うな」


「わ、分かりました……あの、俺の荷物は」


 おっと、忘れるところだった。

 俺の職場である結界設備室には、俺の私物がいくつか置いてあるしさっき置いてきた。回収できるなら、持って帰りたいんだけどな。


「ああ、それならこちらで廃棄しておきましょう。どうせ、大したものはないのでは」


「そうだな。父上から聞いたが、身一つで王都に来たのだろう? 何の問題もないな!」


 だけど、というかだからか、二人は俺を嘲笑って、そうして。


「ああ。このこと、誰かに告げ口しても無駄だぞ?」


「そうですな。キャスバート・ランディス、お前は自分の無能に嫌気が差しての辞職として処理される」


「は?」


「それから、一日の猶予をやるから王都からも退去しろ。宿舎の片付けも、済ませておいてやろう」


「親切だな、宰相」


「ええ。このくらいはサービスですよ」


 本気でそんなことを言っているのか、と背筋を悪寒が走る。

 だけど……『そんなこと』を言っているのはこの国の王太子、そして宰相。今、政務を司っているツートップと言っても過言じゃない。

 これは、口封じってことか。もしかして、国王陛下に話が通っているというのは、嘘か。


「衛兵! この不審者を即刻城の外に叩き出せ!」


「ちょ、ちょっと!」


 そんなことを考えている余裕なんてなく、あっさりと俺は、城門からぽいと放り出されたのであった。ってか、出勤時に持ってきたカバンも返してくれないのかよ。

 あっという間に俺は、ただの無職の田舎者になってしまった……あー、くそ。

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