第09話
明日からのゴールデンウィークで気分は高まった――のは数時間前の話。
夜になり、姫奈は生理痛に苦しんでいた。
周期的にそろそろ訪れる事は分かっていたが、いざこうして大型連休とタイミングが重なると余計に気が滅入った。
自室のベッドで腹部を抱えながらしばらく踞っていると、夕食後に服用した薬が若干効いてきたのを感じた。
姫奈は学校鞄から、昼間に八雲から貰った雑誌を取り出した。
受け取った時から――表紙の女性が妙に印象的だったのだ。
雑誌の中盤に、彼女のグラビアとインタビューの記事が載っていた。
「
目当ての人物の名前をようやく知り、口にした。
アッシュピンクの長い巻髪は、写真越しでも柔らかさが伝わった。二十五歳らしいが、襟付きのワンピースが似合っているせいか、綺麗というより可愛いと感じさせた。
ただでさえ美人なのに――表紙のぼんやりとした表情が、姫奈に強い印象を与えていた。
グラビア写真も全て同じ表情だった。最初は眠そうにも見えていたが、どこか物憂げすら感じさせ、独特の雰囲気を放っていた。
『RAY解散後、歌手だけではなく女優としても活躍を見せる彼女の魅力』
そんなページの見出しが目に入る。
「あー。
その単語を、姫奈は知っていた。
いや、詳しくは知らない。小学校でも中学校でも何度もその単語を聞き、それがアイドルグループの名称――その程度の認識だった。
過去からテレビを見る風潮が無く、流行や芸能事情に疎い姫奈でも、名称だけは知っていた。
そのぐらいの知名度があるのだから、きっと国民的アイドルグループなのだろう。過去から現在まで、姫奈にはそのイメージを持っていた。
メンバーに誰が居て、そもそも何人グループなのかすら知らなかった。
だが、ようやくそのひとりを知り、確かに他者を惹き付ける存在感があると納得した。
「ていうか、解散してたんだ……」
この記事で初めてその事実を知った。知らなかったのは、きっと恥ずかしい事なのだろう。
確かに、ここ最近はRAYの単語を聞く機会はほとんど無かった。詳しい事情はやはり知らない。何年も長期間活動をしていたのだから寿命のようなものなのかなと、姫奈は思った。
インタビュー記事を読むと、この柳瀬結月という人物はRAY解散後に歌手としてソロ活動していたが、最近ゲスト出演したドラマの評判が良かったようだ。
『演じることを意識しないで、自然体で振る舞いました』
格好いい事を言っている反面、この雰囲気での自然体って一体どんな役だったんだろうと姫奈は疑問だった。
この人物と――そして、今更ながらRAYというアイドルグループに興味が湧いてきた。
携帯電話を手に取るが、生理痛がぶり返してきたので、その日は調べるまでには至らなかった。
(第04章『そのままで』 完)
次回 第05章『星の色』
アキラは真面目にカフェ経営を考える。必要なものを揃えるため、姫奈はアキラと買い物に出かける。
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