不動産屋

 その建物は駅からほんの少し離れたところにあり、建物全体がひどくさびていたが、看板に書かれている文字から、不動産屋だったことが読み取れる。

 いや、「だった」ではない。

 人間の不動産屋はとっくの昔に商売をやめていたが、別のものが後を引き続き、不動産業を営んでいたので、「だった」という表現はおかしかった。



 深夜。

 人間の眼には見えない青白い灯りが、その不動産屋の店内を照らしていた。

 カウンターの中で、人型の黒い塊が少し揺れながら、客の来るのを待っていると、白い女が入って来た。

 店内の青白い灯りに照らされて、女は微かに青白くかがやいていた。


 黒い塊はゆらゆらと頭を揺らしながら、女に向かって頭を下げた。

「いらっしゃいませ。今日はご退去の手続きでしょうか。それとも更新のほうでしょうか?」

 黒い塊にたずねられると、白い女はゆっくりとうなづいた。

「そうでございますか。更新を希望なされるのですね。でも、よろしいのですか、あなたさまはもう退去できますが……。更新をなされると、順番がございますので、当分の間、あの部屋にいていただかねばなりませんが?」

 黒い塊の忠告に、再度、白い女はゆっくりとうなづいた。

「そうですか。それでは更新の手続きをこちらで進めます。……何度も話していることで恐縮ですが、この世は生きている者のためにあります。いま住んでいるアパートの住人に、迷惑をかけるようないたずらなどは、極力、お控えください」

 白い女はうなづくと店の外へ出て行った。

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