四月三十一日そして

 どこの街にでもあるファーストフード店にツンとした美人が入ってきた。

 美人は二階に上がり、隅の席で携帯ゲーム機を操作している男に近づくと、真向いに坐った。

 パーカー姿の男は女を一瞥したのち、視線をゲーム機に戻しながら言った。

「今日は何日だったかな?」

 「四月三十一日」と女が答えた。

 続けて男がたずねた。

「今月の誕生石は何だったかな?」

 「ターコイズに決まっているじゃない」と言いながら、女が分厚い封筒を男に差し出した。


 男は中身の札束を数え終えると、胸ポケットから出した小袋を女に渡した。

 女が中身を確かめると、水色の錠剤がひとつ入っていた。

 しばらく錠剤を眺めていた女が何か言おうとしたが、男は手を振ることで制止した。

 女はツンと立ち上がり、階下へ消えた。



「ターコイズに決まっているじゃないか」

 中年の男が机の上に鞄を置いた。

 男が鞄のジッパーを開けると札束が敷き詰められていた。

「家族には残してやらないのか?」

「あいつらが嫌だから、あんたのところに来たんだ」

 「なるほど」と言いながら、男は小袋を中年の男に差し出した。

 小袋の中身を確かめないまま、中年の男は階下へ消えていった。



 みずぼらしい格好をした青年が皺くちゃの札束とビニール袋に入った小銭を机の上に置いた。

 札束の血痕を気にせずに数え終えると、男は小銭を机の上に広げて右の人差し指でけはじめた。

 男が「確かに丁度」と言いながら胸ポケットに指を入れようとしたとき、若者の腹が鳴った。

 男は胸ポケットから手をはずして、少し離れて坐っていた男に声をかけた。

 呼ばれた男は一つ頷くと、階下へ消えていった。


 落ち着かない様子で若者が事の成り行きを待っていると、たくさんのハンバーガーやらポテトやらを載せたトレイを手に、男が二階へ上がってきた。

 そして若者の前にトレイを置くと、元の席へ戻って行った。


 「まあ、食べなよ」と言う男に、「恵んでもらう理由がありません」と若者が答えた。

 小袋を机の上に置きながら男が言葉を重ねた。

「もう、あんたはそんなことを気にする必要はないだろう?」

 しばらく男の目を見つめた後、若者は視線を外しながら「確かにそうですね……」と答えた。

 それからトレイの上のアップルパイを手に取った。

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