RCC (解説回)

春嵐

RCC

「良い狐がいるって?」


席につく。


「意味が分からんだろ。悪いやつのことを狐と呼んでるのに。言葉の意味が通らん」


「そうだ。俺も正直、意味が分からない」


「わんっ」


「真神もそう言ってる」


『あ、繋がりました?』


画面。

女の顔のアップ。徐々に引いていく。


『これぐらいかな。どうもどうも』


「誰?」


「教授。この前地球壊せる爆弾作った」


「あ、山の大学の」


『どうもどうも。教授です。今回は情報の透明性を確保するために顔出しで失礼します』


「情報の透明性ね」


『まず、狐に関してです。いま、あそこにいるのが、その被検体。みなさまのお話にある、良い狐です』


普通の椅子に座らされている、普通の若い女性。


「ひでえな」


目は半開き。口からは、絶えず涎が滴り落ちている。意識は飛んでいるらしい。


『この子を被検体にしてデータをとりました。結論からいうと、良い狐は存在する、という感じです』


「結論からすると存在する、か」


「そう判断するに至った根拠をくれ」


『じゃあまず、RCC値の話から』


「RCC?」


『みなさん、目の前に狐が来たら、なんとなく分かりますよね?』


「まあ、なんとなくは」


『それを数値化するのに、RCC値というのを用います。簡単な話です。RCC値が高ければ、狐。0なら、人です』


「簡単だな」


『RCC値には高低の他に濃度があります。RCC値が高くても濃度が薄ければ、見つけにくい厄介な悪狐に。RCC値が低くても濃度が高ければ、人に憑依して害をなす危険な狐になります』


「RCC値の濃度は、拡散にも関連するのか?」


『そこはまだ不明です。この前の街外縁部道路に歩道ができた事件では、憑依部と外縁戦闘区域でRCC値に近似と相克がそれぞれありました』


「まだ分からんということは、なんとなく分かった」


『で、今回の良い狐の話に戻ります』


「ああ。良い狐のRCC値は気になる」


『RCC値ですが、今回、この狐のRCC値は、マイナスでした』


「マイナス?」


『人のRCC値は0です。狐には必ずRCC値があります。そして、この狐は、RCCがマイナスを記録している』


「RCC値がない、ということか?」


『いいえ。RCC値を吸収し無効化する、なんというか、抗体、のような働きがあります』


「巫女の浄化みたいなものかもしれんな」


「わんっ」


「違うってさ。巫女は神に近いが、その狐はあくまで人の範疇だそうだ」


『ええ。真神さんのおっしゃる通り、この狐は人です。そして、悪いやつの象徴であるRCC値に対してマイナスを記録している。ので、現状では良い狐ということになります』


「そいつをばらばらに刻んで、RCC値の抗体だけを取り出したりはできないのか?」


『RCC値自体が感覚と波長の産物なので、そもそも物質化することそのものに無理があります』


「じゃあ、その良い狐は無駄死にか」


「大丈夫なのかそれ。たしか、正義の味方の恋人いたよな、その狐」


普通の椅子に座らされている、普通の若い女。首が、だらっと下がる。涎。


『俺ですか?』


画面に、男がひとり。良い狐の、恋人。


「あ?」


「なんでそこにいんだよ。恋人が被検体になってんだぞ?」


『あ、ああ。おおい。起きろお』


『んぶぁ。おは、おはよござます。じゅるる』


「なんだよ、生きてんのかよ」


『寝てましたすんません。な、なんでしょうか』


「いや、もう分かった。だいたい分かった。良い狐でいいやもう」


「これからも、良い狐がいたらなんとなくで捕まえる、ってことでいいかな?」


「わんっ」


「異存なし」


「じゃあ、その方針で」


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RCC (解説回) 春嵐 @aiot3110

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