境界神、天野狭霧尊(アマノザギリ)の系譜
天津 虹
第1話 プロローグ
遠い古(いにしえ)の神話の時代。
太陽神、アマテラスが天岩戸にお隠れになって、世界中が闇に覆われた。
そこからあらゆる悪神が生まれ、わが物顔で世界を闊歩した。各地で天災が起こり、疫病が人々の間で蔓延り、飢餓の中で絶望が人々を侵食していく。
悪神を封じるためには闇を払うしかない。
天安河原に集まった八百万の神々は一計を案じたのだ。
ご存知の通り、天岩戸伝説では、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が神楽を舞い、神々が騒ぎ立てることで、天岩戸に引きこもっているアマテラスは「なんで、みんな楽しそうに騒いでいるのかしら? いったい外では何が起こっているの?」と好奇心に駆られ外をみようと天岩戸をほんの少し開けてしまう。
その隙間に力自慢の神が指を突っ込み、無理やり岩戸を開け、アマテラスを引っ張り出したことで、世界に光が戻りめでたしめでたしという話なんだけど……。
実はその話に続きがある。
この時、三柱の神がアマテラスから生み出されているのだ。しかし、この話は古事記や日本書紀にも載っていない。
光と神と闇の神。そしてアマノザギリと名付けられていた光と闇の境界神だ。わずかに開かれた天岩戸から漏れ出た光。岩戸がスリットの役割を果たし、闇の中に差し込んだ一筋の光。
その闇と光の境界に広がる虹。光に飲み込まれようとする闇。逆に光を飲み込もうとする闇。そのどちらをも押しとどめる強力な存在感。境界神アマノザギリは虹色の帯の輝きの中に生まれたのだ。
【閑話休題】
この現象に最初に気が付いたのは、小説家であり劇作家であるゲーテであった。
ゲーテの色彩論をご存じだろうか?
死に際に「もっと光を!」と叫んだと言われるゲーテらしく、色彩論の中で「光と影の境界にこそ、色彩が生まれる」としてニュートンの光学理論を否定したのだ。ゲーテの説の真偽のほどは専門書に譲るとして、(まだまだ光学論には未解明な部分が多く残されている。興味のある方はまずはネットでサーチしてほしい)プリズムを通してみると光と影の境界線は虹色に滲んでいる。
さらに絵を書くときに影の境界に色相を入れることによって、よりリアルになることはイラストなどの技法としてよく知られている。
ゲーテが行なった光をプリズムに通した実験。
白黒の紙にプリズムを通して光を当てると白と黒の間に虹色が見える。
イラスト技法については、著作権等問題が在りそうなので、ここには載せません。いずれも事実ですので、ネット等でサーチしてください。
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しかし、その時生まれた光の神と闇の神は名前を与えられることもなく、すべての神話、伝説、吟遊詩人の間でも、架空の存在として光の神そして闇の神と呼ばれて敬われ畏れられているのみだ。
だが、光の神と闇の神は神界に実在した。そしてこの神々はこれまでに幾度もお互いを排除せんと戦ってきた。
しかし、境界の神アマノザギリによって、直接争うことができず、光の神に従い人々に希望と再生そして正義と勇気を与える光の神々と、闇の神に従い人々に絶望と破壊そして狂気と憎悪を司る闇の神々とがお互いに覇を競い、代理戦争に明け暮れ、神界は混迷を極めていた。
そして、何度目かの争いの時、アマテラスの怒りを買い、名を持たない光の神と闇の神は下界へ堕天させられ、人として生まれ変わった。
そのとばっちりを受けたのが、光と闇が無ければ神界に存在することができない境界神アマノザギリだった。
光と闇の神に巻き込まれ下界に落ち、人として転生させられたのだ。
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