第7話 休日は飛馬レースの先に

 倉庫を出ると、オレはぐるぐると両肩を回した。


 肩こったー。最近のオレはいささか過重労働がすぎる。


 紅葉城にやって来てはや数ヶ月。城での暮らしや魔界の常識にも随分慣れ、雑用係の仕事も増えてきた。

 雑用係は、定休日なしの二十四時間営業。この前なんて夜中の二時に紅華べにかから眠れないと起こされて散々だった。



「そろそろ休み欲しいなー」



 人気のない廊下で、思わずこぼした、そのとき。




「はい! そこの君!」



 突如響いた明るい声。

 ぎょっとしてあたりを見回すが、周囲には誰もいない。


「誰だ!?」


 てんぱるオレをからかうように、声は笑った。


「あっはっは! ここだよー!!」


 上――!?

 声を頼りに天井を見上げたオレの上に、なにか大きなものが落ちてきた。


「うぉ!?」


 一瞬で白くなる視界。次の瞬間には頭を強烈な衝撃が襲い、オレは床に倒れこんだ。


「あちゃー、着地失敗。優士クン気づくの早いんだもーん」


 むちゃくちゃな言い訳をしながら、落ちてきたモノはオレの上からどいた。

 痛む頭をさすりながら体を起こすと、そこにいたのは――



「か、香鈴さん!?」



 白い服に緩やかに結ばれた金髪。

 五花隊ごかたい隊長、香鈴かりんさんがそこにいた。


「なんでそんなところから……?」


 呆れ返りながらきくと、香鈴さんはかわいらしく首をかしげる。


「うーん、そこに優士クンがいたから?」


 そんなめちゃくちゃな……。

 ちなみにこのお方、小柄で童顔だがすでに二十歳を過ぎた立派なレディである。


 二の句がつげないオレに、香鈴さんはそんなことはいいんだよ! と手を鳴らした。



「そんなことより、優士クン、今休みが欲しいって言った?」

「い、言いましたけど……」


 答えると、目の前の女性はにこーっと満面の笑みをうかべる。

 嫌な予感レーダー、反応。


「そうかそうか。じゃあそんな君に、いいことを教えてあげよう」


 今まで何回か関わったことがあるが、香鈴さんが楽しそうでオレが得したことは一度もない。

 オレは警戒心全開で、なんですか? と尋ねた。



「第一回、飛馬レース、開催だよー!!」







 説明もされずに腕を引かれ、たどり着いたのは裏庭にある獣舎。

 香鈴さんが管理する場所で、人間が暮らすにも大きすぎる建物で動物たちが暮らしている。


「おぉ、やっと来たか」


 赤い扉の前で仁王立ちしているのは、この城の姫、紅華。

 そのまわりには、龍牙りゅうがさん、真月まつきさん、夢月むつきさんの姿もある。


 一体どういうメンツなんだ?


 首をかしげるオレの手を離し、香鈴さんはご機嫌でお待たせしました~! とステップを踏む。



「ではでは、改めて説明します! 皆さんには、わたし主催、第一回飛馬レースに参加していただきます! 優勝賞品はなんと!」


 言葉が切れると、背後の森からバサバサバサッと鳥たちが飛び立った。

 ……ドラムロールのつもりか?




「一日休暇でーす!!」






「優士さま、乗馬の経験はおありですか?」


 茶色い体に純白の翼が生えた何頭もの馬。その前で良い馬を選びかねていたオレに、真月さんが話しかけてきてくれた。

 彼女はオレが魔界に来たその日からあれこれサポートしてくれている天使のような存在だ。具体的には、うさみみポンチョが似合う絶世の美少女。それでいて図書館の管理と九花隊きゅうかたい隊長というお仕事を任されている多忙なお方だ。


 そんな彼女が休みを求めるのはよくわかる。

 相当な問題児の上司に振り回されているらしい龍牙さんもだ。夢月さんも、広大な果樹園を一人で管理しているのだから毎日大変だろう。

 しかし、紅華の参加は納得しない!!


 お前、いつもふらふらしてるだろ!!



「飛馬は、個体差がとても大きい動物なんです。脚が速い子も、飛ぶのが速い子もいます。今回は空中戦のようですので、翼が大きい子がいいと思います」


 解説してくれながら、真月さんは近くにいた一頭を指差した。


「始めのうちは速すぎても危ないですから、あの子あたりはどうでしょうか」


「なるほど……。正直よくわからないので、あいつにしてみます。ありがとうございます」


 真月さんにお礼を告げ、オレは一人でそいつにもう一歩近寄った。

 正直馬の顔の違いはよくわからないが、他のヤツよりイケメンな気がする。


「お、その子にするー?」


 どこからともなくやってきたのは香鈴さんだ。

 はい、と頷くと、


「おっけー! じゃあ準備するから、みんなより先に練習しよっか」


 と笑い、手早く鞍や手綱なんかの乗馬道具をつけて飛馬を連れ出してきた。






 熟考しているみなさんに対し、飛馬の知識が圧倒的にないオレ。こうなったら、経験を積んで勝つしかない!

 ということで、オレは香鈴さんの指導のもと、飛馬にまたがった。

 鞍のおかげか、飛馬の背中は以外と安定している。歩かせる、走らせる、までは無事にクリア。


 いよいよ、空を飛ぶときがやってきた。


「飛んでる間は、絶対に手綱から手を離さないこと。それから、翼には触ったらダメ」


 香鈴さんが珍しく真面目な顔で話している。これはきっと命に関わる注意事項なのだろう。オレは心のメモにしっかりと書きこむ。


「姫とかは慣れてるから途中で立ち上がったりするけど、優士クンはぜっったい真似しちゃダメだからね!」


 誰がするかそんな怖いこと!!

 と、オレは内心でつっこんだ。

 手綱を離すだけでも危ないなんて状況で、あいつはどうして腰を浮かせられるのか。さっぱり意味がわからない。


「その子はおとなしいから、ムチャしなければそんなに危険はないよ。あ、垂直飛行は優士クンも飛馬も危ないから絶対禁止」


 ふむふむ。

 そんな恐ろしいことを意図的にするつもりはさらさらないが、うっかり傾かないように気をつけておこう。


「姫とかは途中で宙返りとかするけど、優士クンはぜっったい真似しちゃダメだからね」


 しねーよ!!

 なんであいつは危険運転しかできないんだ!!


 さて、と、香鈴さんが手を叩いた。


「じゃあ、飛んでみよっか」


 いよいよきた……!

 オレはごくりと唾をのみこむと、深呼吸の末、手綱をゆっくりと持ち上げた。

 飛馬の体に力が加わり、ゆっくりと首を上向ける。飛馬は小さく一声鳴くと、ゆっくりと助走を始めた。大きな白い翼が、羽ばたきを始める。

 少しずつ、少しずつ加速していき、やがてオレは空へと飛び立った。



「うぉぉ……!!」



 思わず歓声がもれる。

 香鈴さんや獣舎や城が、どんどん小さくなっていく。

 感覚としては飛行機の離陸に近いが、肌を撫でる風はこいつでしか感じられないだろう。


 この飛馬はおとなしいうえに相当人慣れしているらしい。素人のオレはバランスをとろうと手綱を引っ張ってしまいがちだが、まったく安定した飛行をしてくれる。


 そのままゆっくり飛びながら紅葉城をぐるりと一周。


 獣舎に帰ってくると、地上にはもう他のメンバーもそろっていた。それぞれが選んだ飛馬をしたがえ、オレを見上げている。



 えっと、降りるには首を軽く押してやればいいんだっけ?


 とんっと飛馬の柔らかい首もとを押すと、飛馬は降下しだした。危惧していたような垂直飛行にもならず、無事に着陸するオレたち。


「おっけーおっけー!いい感じだね!」


 香鈴さんがにこやかに笑いながら駆け寄ってきた。

 よかったよかった。目も当てられない結果はなんとか避けられたらしい。


「はい、安定していましたし、とても初めてとは思えませんね」


 自分の飛馬の手綱を握った真月さんもにこりと笑う。


「まぁ、初めてにしてはまずまずじゃないかしらぁ」


 と、夢月さんまでもが褒めてくれた。

 その一方で。


「二十点だな」

「へっぴり腰め」


 と、辛辣な龍牙さんと紅華。

 しかたないだろ!オレの世界じゃ空飛ぶ馬なんてフィクションなの!


「さぁて!優士くんの準備も整ったことだし、始めよっか!」


 香鈴さんがぱちんと手を叩いた。

 オレ以外の四人もそれぞれ飛馬にまたがり、スタートラインに並ぶ。


 よし、経験値的に明らかに不利だが、ここまで来たら絶対勝ってやる。そして休む!灼熱の厨房からも迷路のごとき果樹園からも狂気の剣士からも離れてみせる!あ、図書館はいいですよ?


「それじゃあ位置について〜、よーい、どん!」


 香鈴さんの声に合わせて、オレたちは一斉に手綱を引いて飛び上がった。

 ゆっくりと上昇していくオレの横を、まず紅華が凄まじい速さで通過する。ちなみにすでに立ち乗り状態。ほんとにどうなってんだ、あいつ。


 そしてその後を龍牙さんが追った。こちらはお行儀よく座ってはいるが、まあ速い速い。こんなことに必死になるキャラに見えないんだけどな。よっぽど上司に困らされているんだろうか。


 それに続くのは夢月さん。自然が相手の仕事って、休暇を勝ち取ったところで休みになるのだろうか。


「大丈夫ですか?優士さま」


 と、優しい声をかけながら真月さんがオレに並ぶ。

 真っ白な飛馬にまたがる真月さん。もはや女神の域だな……。


「はい、なんとか」


 オレが頷くと、真月さんも柔らかくほほえみながら、よかったです、と小さく頷く。

 このまま真月さんと二人で空を飛んでいられるなら、別に休みなんて勝ち取れなくてもいいか……。

 夢見心地でそう思ったが、そんな甘い考えなのはオレだけだった。


「それでは、私はお先に失礼しますね」


 うさみみの天使はぺこりと一礼すると、飛馬に合図を出した。白馬はその大きな翼を広げ、真月さんを遥か上空へと連れ去っていく。オレは静かに空を見上げた。


 あぁ、さよならオレの女神……。



 なんて、打ちひしがれている場合ではない。真月さんとの空中ランデブーが叶わなくなった今、オレがやるべきはただ一つ。死ぬ気で飛んでレースに勝ち、休みを得るのみ!


 オレは気を取り直し、真月さんに倣って上昇を始めた。




 しかし。経験値とスタートダッシュの差はなかなかうまらない。進めど進めど、紅華どころか真月さんの姿さえ見えなかった。

 半ば諦めかけながら城の北西にある黒いピラミッド形の建物の上を飛んでいると。


「ちょっとちょっと優士クン〜?」


 声がして、目の前に巨大な鳥が現れた。


「うわ!?」


 あまりに突然のことで、飛馬の減速が間に合わない!

 ぶつかるっ、と思い反射的にぎゅっと目を閉じたが、予想したような衝撃はいつまでたっても訪れなかった。

 おそるおそる目を開けると、鳥の背中にまたがった香鈴さんが、飛馬の鼻先を撫でて馬をなだめていた。香鈴さんが止めてくれたのか?さすが動物に好かれる民族。本当に意思疎通ができるのか……。


「か、香鈴さん?」

「はーい!香鈴ちゃんだよー。もう、優士クン遅いよ!そんなんじゃ勝負にならないぞー?」


 始まる前にはいい感じだと言ってくれていたのに、香鈴さんのかわいい毒舌がオレの心をえぐる。


「しょ、しょうがないじゃないですか。オレ、まったくの未経験なんですから」


 オレがむきになりながら言い返すと、香鈴さんは、確かにね、と顎に手を当てた。


「んじゃ、かわいそうな優士クンにお助けアイテムをあげちゃおう」


 そう言って得意げな顔で懐から取り出したのは、小さな赤い木の実。

 なんだろう、ひしひしと嫌な予感がする。


「な、なんですか?それ」


 おそるおそるきくオレに、香鈴さんはにこりと笑いながら答えた。


「大丈夫大丈夫、アブナイものじゃないよ。これはね、この子たちの大好物なの。これを食べたら、テンション爆上がりしてすっごく速く飛べるようになるんだよ」


 そして飛馬の口もとに木の実を差し出す香鈴さん。

 なるほど、どうやら馬に害があるドーピング薬ではないらしい。でもそれって、あくまで馬に対しての話だよな?「すっごく速く」飛ぶ飛馬に乗ってるオレはどうなる?


 気づいたオレは香鈴さんに尋ねようとしたが、遅かった。


「ピェェェェェッッッ!!!」


 飛馬が金切り声を上げ、ばさっと音を立てて翼を大きく広げた。


「うわ!?」


 突然のことについていけないオレのことなど気にもとめずに、飛馬は数回空を蹴り、猛スピードで飛び出した!


「うわァァァ!?」


「いってらっしゃ〜い。あ、手綱は離しちゃだめだよ〜」


 そういうことは先に言え!!


 オレの絶叫と香鈴さんの呑気な声が重なる。


 飛馬はジェットコースターをも凌駕するような速度で進む。髪も服も風で後ろに引っ張られ、オレは必死で手綱を握りしめて飛馬の背中にしがみついた。


 うっすらと開けた目に映る周囲の景色が目まぐるしく変わる。もはや御することなどできないオレはなすすべなく眼下の景色を眺めていたが、だんだん城の敷地からそれていることに気がついた。紅葉城はその広大な敷地の中央に建物をかまえ、諸施設を含む庭のまわりは黒黒とした森に囲まれている。はるか先には街も見えるが、そこまでたどり着けずに飛馬の体力が尽きたらまずい。あの森に入ったら絶対に帰ってこられない!


 オレはぞっとして手綱を引くが、飛馬の勢いは止まらない。


「そっちじゃない!止まってくれ!」


 思わず叫んだ、そのとき。



 ぼよん



 オレたちは何か弾力のあるものにぶつかって跳ね返った。

 飛馬は軌道修正してまっすぐ進む。


「な、なんだ!?」


 衝撃で減速した隙に何事かと振り返ってみる。するとどういうわけか、オレたちが弾かれたあたりの景色が水面のように波打っていた。森も街も空も、スクリーンに映った映像のように揺れている。


「どうなってんだ!?」


「夢月チャンの幻妖術げんようじゅつだよ〜」


 と、再び懐かしい声がして、左横に大きな鳥にまたがった香鈴さんが現れた。


「げ、幻妖術?」

「そ。幻を見せる術っていうのかな。街の景色が映されてるだけで、今城のまわりは、飛馬が脱線しないための膜で覆われてるんだよ」


 な、なるほど。正直なところよく意味がわからないが、とにかく魔界の不思議パワーで城の敷地から飛び出すことは防がれるらしい。


「ほらほら、みんなの背中が見えてきたよ!」


 むりやり納得したオレに、香鈴さんが明るく言った。強烈な向かい風に耐えながらおそるおそる前を向くと、言われたとおり真月さんの背中が見えた。紅華の姿はまだ見えないが、遠くには夢月さんと龍牙さんも見える。


「それじゃ、頑張ってね!」


 香鈴さんは楽しそうにそう言いながら、オレの飛馬の口に、何かを放り込んだ。

 あれは、もしかして……。


「クァァァァァアッッ!!」


 再び飛馬が甲高い声で鳴き叫び、ぐんとスピードを上げた。


「うわぁぁ!?」


 やっぱり、あの木の実だ!!

 飛馬は木の実の安全性を疑いたくなるほど興奮して飛び進む。

 凄まじいスピードで景色が後ろへ去っていき、懐かしいうさみみポンチョや黒銀二色のロングヘアがどんどん近づいてきた。


 というか、追突しそう!!


「ど、どいてくださーーーい!!!」


 飛馬の背中にしがみついたまま必死に叫ぶ。

 驚いた三人が振り向いたのを認識したのとほぼ同時に、飛馬は飛び上がって迂回し、オレは三人を抜き去った!


「優士さま!?」

「ムッ」

「あらあら」


「がんばれー!優士クン!」


 どこからか香鈴さんの応援が聞こえる。

 いや、いよいよ頑張ってるのはオレじゃないんですけどね。

 ともかく大逆転で二位におどりでたオレの前方には、風になびく薄桃色の髪――紅華の姿が。

 二位の夢月さんに圧倒的大差をつけて独走中だった紅華は、すっかり減速して悠々と空中飛行を楽しんでいる。


「紅華!」

「お?」


 オレが名前を呼ぶと、ようやく気づいて振り返った。

 一瞬驚いたように目を見開き、しかしすぐにその水色の瞳に挑戦的な光を浮かべる。にやりと口もとが笑う。


「香鈴に助けられたな。おもしろい、一騎打ちじゃ!」


 紅華が手綱を引くと、紅華の飛馬は大きくいなないた。前足が空を蹴り、ぐんとスピードが上がる。その姿に煽られたのかオレの飛馬も速度をあげる。

 紅華が先行し、オレがそのあとを追うかたちのまま、剣闘場上空を通り、煉瓦造りの高い塔の横を通過。おとなしいと言われていたオレの飛馬は意外にも負けず嫌いな性格らしく、ここへきて本気を出し始めた。そのおかげで果樹園を抜ける頃には、紅華はもう手を伸ばせば届きそうなくらい近くにいた。


「待て!紅華!」


 オレの叫びに呼応するかのように、飛馬は大きく翼をはためかせた。

 よし、並んだ!


「ふん、生意気な!」


 オレを横目でにらみ、紅華も馬に指示して速度を上げる。

 抜きつ抜かれつしながら、花々と噴水が美しい前庭を通過。眼下に獣舎が見え始めた頃、数メートル先に真っ白なゴールテープが広げられた。端を持っているのは四羽の鳥。香鈴さんの指示か?

 って、そんなことを考えている場合じゃない。

 どうか紅華に勝てますように……。オレは祈りながら飛馬の背にしがみついた。奇跡的に安全運転を続けてくれているが、この飛馬はもうとっくの昔にオレの手を離れているのだ。勝負の行方は、こいつのご機嫌に託された!


 幸いなことに飛馬は好調なまま安定した高速飛行を続け、紅華に遅れをとることなくゴールテープに一直線!

 パンッと軽い音がして、オレたちはテープをきった。


「ゴーーール!!」


 香鈴さんの声が響く。

 飛馬はこれまたお利口なことに旋回しながら減速し、ゆっくりと地上に下りた。


 ど、どっちが早かったんだ?


 体感としてはオレと紅華のゴールはほぼ同時。スポーツみたいなビデオ判定があるわけでもないだろうし、どうなるんだろう……。


 飛馬の背中でとりあえず一息ついていると、隣に勢いよく紅華が着陸してきた。


「なかなかやるではないか」


 少なくともオレには圧勝したかったのだろう。不服、と顔にでかでかと書いたまま言う。スポーツマンシップのかけらもない。

 お前、かわいくないな。

 巨大鳥に乗った香鈴さんが下りてくる。その後ろには、飛馬にまたがった真月さん、夢月さん、龍牙さんの姿も。


「いやー、見事なもんだよー!手助けしてあげたとはいえ、まさか姫と同着なんてね」

「はい、お見事でした!」


 にこにこして言う香鈴さんと真月さん。


「えぇ、いいしがみつきだったわよぉ」

「飛馬のおかげだな」


 一方で嫌味を言うのは夢月さんと龍牙さん。

 事実なので何も言い返せないが、あんたら大人げないな。


「それで香鈴、勝者はどちらだ?」


 紅華がきいた。

 そうだ、それが大事だ。公務より遊んでいることの方が圧倒的に多そうな紅華にお休み権を取られるのはそれこそ不服きわまりない。


「うーん、ぴったり同時だったんだよねー。優士クンには手助けもしたけど、まぁそれは未経験者特例のハンデとして……」


 香鈴さんはあごに手を当て悩む素振りを見せる。

 そしてしばらくしたあとぱっと顔を上げ、言った。


「うん!二人とも優勝!!」




 かくしてオレは、一日休暇の賞品を手に入れたのだった。

 結局暇なあまり厨房を手伝ったのは、まぁ、それが勤勉な日本人の性というものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わがままなオニヒメさま! 涼坂 十歌 @white-black-rabbit

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ