第34話 対戦

 弘は迫ってきた骨の刀を受け流し、猿猴者の胴部分を斬りかかった。だが、かわした猿猴者が身を沈めた。と同時に、弘の足を斬った。間一髪で退いた弘だが、斬られた向こう脛辺りのスーツが血で滲んでいく。

 掠り傷だ。だが……

 思いついた弘は、重症を負ったような振りをした。

 それを見た猿猴者が、片側の口角をあげて笑った。その油断を突いて、弘は刀を振った。

 刀と骨の刀が衝突した音が響いた。

 猿猴者も骨の刀を振っていたのだ。

 格闘中の兎兎は、衝突音を長い耳で捉え、ぎくりとなって、猿猴者の股を潜って背後に回ると、弘を見遣った。猿猴者は自らの股の間から兎兎を覗き込み、兎兎の視線先を見遣った。

 弘は膝から崩れ落ち、そんな弘の上に猿猴者が覆い被さった。骨の刀が猿猴者の手から地面に落ちたと同時に、弘の手からも刀が地面に落ちた。目を凝らすと、真っ赤な血が地面を覆っていく。

 「相討ちだな」

 股の間から様子を窺っていた猿猴者が、鳥の囀りのような獣の咆哮のような歌声を出し、兎兎を見て笑った。仲間である猿猴者も斬られたというのに平然としている。

 片方の目と聴覚と嗅覚を研ぎ澄まして弘を窺った兎兎が、猿猴者に向き直って毅然と顎を持ちあげた。その様子に、猿猴者は笑いを止め、弘たちを見遣った。

 弘の上に覆い被さっている猿猴者の裸体に、染みのような黒色の点々が現れ、それが一気に広がり、全身が黒色になった。

 弘の声が聞こえてきた。

 「幸が言ったとおりの炭になった」

 弘が全身を大きく揺さぶると、炭になった猿猴者の背中にひび割れが入り、それが放射状に広がった。裸体はぼろぼろと崩れ落ちる。そんな破片が散らばった地面に、立った弘の片手には、血のついた小刀が握られていた。その小刀は既に、茶色に変色し枯れようとしていた。

 あのとき弘は、分化させた小刀を隠し持っていることを思い出し、重症の振りをして猿猴者を油断させて小刀を片手に握り、もう片方の手で握っている刀を振ったのだ。案の定、骨の刀で刀は受け止められたが、それによって骨の刀を封じ込めることができ、その瞬間に猿猴者の胸に小刀を突き刺した。そして、突っ伏してくる猿猴者から身を護るように、弘はしゃがんで体を丸めた。

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