第28話 謎解きの続行
弘は回答書の作成を終え、それを窓口役温羅者に送信すると、ソファに座っている幸の名を呼び、めくばせした。幸はすぐさま駆け寄ると、弘の隣にある椅子に座った。弘がインターネットで古代文字の検索をすると、パソコン画面を覗き込む。かなりの時間を要したが、似たものさえなかった。
温羅者は古からずっと身を偽り続けて生きてきたのだろうか? それとも、鬼と呼ばれたのを切っ掛けにして、身を偽ることをはじめたのだろうか? 現代でも少数民族はいろんな面で辛くて過酷な運命をたどっている。それと同じ……
幸の胸に苦い思いが湧きあがってきたとき、メール着信音が鳴った。
「窓口役温羅者からだ」
報告した弘が読み取っていく。
「依頼人から……地球上で把握される加速器で未知の元素を生み出し大量殺人兵器を作りあげた所はない。このような特異な兵器を生み出した所を特定できないはずはないが特定できない。また、感染源となったものに接触した者や関係する者たちから犯人と思われる人物は見当たらず、犯人はどうやって大量殺人兵器を仕組んで感染源にしたのか、全く見当がつかない。よって、温羅者にそれらの謎解きを依頼する」
報告した弘が、にやりと幸に目を合わせた。
「その謎解き、受ける」
幸は嬉しそうに声をあげた後、弘に止められた言葉を口にした。
「情報役温羅者に、古代文字から現代文字、古代から現代までの言語に関するものを、全て集めてもらって」
「莫大なものになるぞ」
「いい」
驚いた弘に、幸はあっけらかんと返し、椅子から立って、ソファに向かった。深く腰掛けると腕組みをし、頭の中を整理しながら考えていく。
「大量殺人兵器の試験が行われた場所は全て、物理を嘲笑うように円を描き、地震の伝わりのように感染していき、ぴたりと止まっていた」
はたと幸は閃く。
「弘。世界で行われた大量殺人兵器の試験。それらの中心点を世界地図にマッピングして」
「了解」
弘はすぐに取り掛かった。
「そのマッピングから中心を割り出して」
この言葉で、弘は理解した。
「行われた試験は、巨大な円を作りあげている可能性が高く。それならば、その中心には加速器があるということだな」
「未知の元素を生み出した加速器が必ずあるはずよ」
頷いた幸に、弘は勢いづいたように進める。だが……
「だめだ」
弘は頭を抱えた。
「世界地図に巨大な円を作りあげるまでの件数がないため、中心を見つけることができない」
「だったら、震源地を割り出すアルゴリズムを利用してみたらどう?」
幸のアドバイスは早かった。
「なるほど。それはいいアイデアだ」
再び進めていく弘を見遣った幸は、頼もしそうに目を細めると、深くソファにもたれかかると、いつの間にか眠っていた。
「幸。中心がわかった」
嬉々とした弘の声で、幸は目を覚ました。
「割り出された中心は、瀬戸内海の犬之島だ」
弘のそばに立った幸は、パソコン画面を覗き込んだ。
「県内だわ」
「灯台下暗しだな」
にやりとして弘は、パソコン画面に表示されている画像を変えた。刹那、幸の顔が度肝を抜かれたような表情になった。
「似ている。これは偶然じゃあないわ」
「ああ。俺もそう思う」
パソコン画面には、山頂にそびえ立つ巨石が映っていた。入れ代わって現れたバイテク掛軸の絵と瓜二つだ。
「兎兎。行くよ」
幸は叫んだと同時に歩き出した。
「俺も行く」
同意を求めることなく、弘は言い切った。それは、犬之島に犯人がいる可能性は高いからだ。だが、弘はすぐには席を立たなかった。パソコンに向かい、キーボートを叩き始める。
幸は兎兎が入ったリュックを背負うと、ヘルメットを被ってゆったりと研究室を出て行った。
弘は犬之島行きの渡し船がある小さな港を、ナビ7としてバイテク蔓草に登録し、その他諸々の作業をして、リュックを背負いヘルメットを被ると、研究室のドアに鍵を掛けて駆け出した。
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