第25話 鬼之城

 ナビゲーション通りに、来た道を戻って走り、途中から西の方角へ折れ、南手に向かった。山間部を突っ走り、山頂目指してのぼっていく。見えてきた鬼之城の駐車場に、バイクを止めた。

 地面におろされ開かれたリュックから飛び出た兎兎は、四肢を伸ばすと見上げた。幸がバイテクプリズムをかざしたからだ。だが、バイテクプリズムは輝くことはなかった。

 「ここには扉はないのかな?」

 骨折り損だったかもしれないと、失望しかけた幸だが、男性の言葉を思い出し、鬼之城の門に向かう坂道をのぼった。

 「これが温羅者のすみかだった?」

 数年前に復元された門と城壁を仰ぎながら、幸はなぜか違和感を覚えた。だが、祖先の歴史に思いを馳せながら、直感の赴くまま、長く続く城壁に沿ってある小道を歩き出す。反対側は斜面で林が広がっている。

 かなり歩いた後、思いついて、バイテクプリズムを取り出し、かざしてみた。陽光を捉えたバイテクプリズムが、赤色に輝き、一筋の赤色光を前方の地面に伸ばした。

 「行き先を示した」

 喜ぶ幸の目は、地面に落ちる赤色光を捉えていた。

 幸が足を踏み出すと、赤色光は懐中電灯のように前方を照らし導いていく。

 「扉があるよ」

 浮足立つ幸は足を速め、導く赤色光を踏みつけ飛び跳ねていく兎兎の後を追っていく。途中から整備されていない小道になり、復元されていない屏風折れ石垣の上に入ったとき、足元を照らす赤色光が緑色光に変わった。手に持つバイテクプリズムを見ると、緑色に輝いている。

 「このまま進むよ」

 勢いに乗った幸は、ぐんぐん前進していく。足元を照らす緑色光が青色光に変わった。

 「扉はもうすぐよ」

 嬉しそうにそのまま前進していく幸が、つと足を止めた。前を行く兎兎が止まったからだったが、幸自身も驚いていた。

 眼前には何もなく、眼下には麓の景色が広がっている。ここは、屏風折れ石垣の突出部分で切り立っていて、行き止まりになっているのだ。

 「もう前進できないのに、バイテクプリズムは七色に輝かない。なぜ?」

 幸はバイテクプリズムを不思議そうに見つめた後、兎兎を見た。見上げて目を合わせた兎兎も首を傾げる。

 「復元されていないこの石垣は、温羅者が住んでいた頃のままよね」

 案内板を見た幸は、期待して後戻りする。だがやはり、足元に落ちる青色光は緑色光に戻った。

 はたと幸は、石垣の上だったということに気づき、もしかしてと、石垣の下に行ける道はないかと探した。

 横に逸れて石垣の下へ行ける少々危なげな斜面を見つけた。だが、立入禁止の看板が立っている。

 ちらりと幸は兎兎を見下ろした。兎兎は鼻を鳴らし、近くに誰も居ないことを伝える。

 「行くよ」

 鼓舞するように声を出した幸は、さっと看板を擦り抜けると、斜面をくだった。

 道とはいえない、ただのはみ出した土塁の狭い部分が、屏風折れ石垣に沿って続いていた。そこを、幸は石垣に胸を寄せて伝っていった。

 屏風折れ石垣の突出部分直下に近づこうとしたとき、兎兎が鼻を鳴らした。聞き取った幸は、胸ポケットに仕舞ったバイテクプリズムを見る。バイテクプリズムが青色に輝いている。微笑んだ幸は、慣れてきた足取りで、軽快に伝っていく。

 「扉が迫った?」

 兎兎が鼻を鳴らした音で、幸は胸ポケットのバイテクプリズムを見た。バイテクプリズムが七色に輝いていた。

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