第20話 謎解き

 メール着信音が鳴り、開いた弘が報告する。

 「研究所と連携した」

 待っていたとばかりに、すぐに幸は指示を出した。

 「ペットが生存し続けていることを考えると、検出された未知のタンパク質は、葉緑体ゲノムから細胞核ゲノムに移行した遺伝子、その発現の可能性が高い。だから、その分析の依頼を」

 「了解。連携した研究所に依頼する」

 メールの作成に取り掛かった弘に、幸が付け加える。

 「葉緑体は光合成を行う細菌が、古に共生したものと言われている。このことより、ペットの検体から、葉緑体となった細菌の痕跡も依頼して」

 「了解」

 返事をした弘の指は、キーボード上を動き続けている。

 「……進化……」

 先の弘の発言を思い出した幸は気づいた。

 「弘。ペットが変異を起こした時点での全住所をマッピングして」

 「了解」

 矢継ぎ早に続く指示にも、弘は快い返事をする。また、その処理は早い。

 ソファから腰をあげた幸は、ゆっくりと弘の元に歩み寄った。そばに立つと、パソコン画面を覗き込む。既に弘は、パソコン画面に地図を表示していた。また、ペットが変異を起こした時点での全住所データも表示し、キーボードを操作していた。その手が止まると、表示している地図上に、ペットが変異を起こした時点での全住所が、赤丸の印となって点々と表示された。

 「円ができあがっている。貨物機の件と同じだ」

 驚嘆した弘とは違い、幸は冷静だった。予見していた幸の瞳には、赤丸の印が円状に密集しているのが映っていた。

 「この円の中心には、何がある?」

 幸の問い掛けに、はっとした弘は円の中心を導き出し、そこをズームアップした。

 「ペットショップだ」

 叫んだ弘は思い出したように、情報役温羅者から届いていた添付ファイルを開いた。読み取っていく。同じように幸も覗き込んで読み取った。

 「このペットショップのペットが、最初に変異したペットだ」

 弘はペットの画像を表示した後、幸をじろりと見た。

 「円の中心であった貨物機の荷物が感染源であったように、円の中心であるペットショップのペットが感染源ということだな?」

 幸は頷いて返した。だが、弘は疑問を口にする。

 「どのペットにも、感染の痕跡はなかったぞ」

 「ナノ秒で順応するんだから、感染の痕跡なんて残らないわ」

 幸の推測に納得した弘は、メール着信音でパソコン画面を見入った。

 「連携した研究所からだ」

 メールを開いた弘は、急いで読み取り、報告していく。

 「葉緑体となった細菌の痕跡はなかった。また、検出された未知のタンパク質は全て、未知ではなかった。菌類、細菌類、魚類、両生類、爬虫類……古に存在したが進化の過程で眠りについたタンパク質で、それらは全て、細胞核ゲノムからの遺伝子発現だ。そして、葉緑体ゲノムから細胞核ゲノムに移行した遺伝子はなかった。だが、古に葉緑体ゲノムから細胞核ゲノムに移行して眠りについていた遺伝子から発現したタンパク質を特定した」

 くるりと腰を捻った幸は、思索しながらソファに戻った。

 「眠りについた遺伝子は、塩基配列の欠如などの損傷がある。それなのに、なぜ眠りについた遺伝子が発現してタンパク質が作られている?」

 呟きながら深くソファにもたれた幸が、閃いたというように上半身を起こした。

 「弘。細胞の中から、未知の元素を特定するよう、依頼して」

 「了解」

 弘は連携した研究所宛にメールを作成していく。

 腰をあげた幸は、冷蔵庫に向かった。野菜室からブロッコリーとニンジンを取り出す。その匂いに気づいた兎兎が跳ね起きた。ソファから床に飛び降りると、お尻を床につけ前足を揃え背筋を伸ばし、嬉しそうな顔つきで待つ。そこへ、やってきた幸が皿を置き、ブロッコリーとニンジンを乗っけた。兎兎はかぶりついた。

 一段落した弘も、席を立って簡易キッチンに向かった。そこに置かれているカップ麺を手に取ると、ジャーポットから湯を注ぎ入れ、二つのカップ麺を両手に持って、ソファに向かった。テーブルを挟んだ幸の対面にあるソファに座り、テーブルの上に二つのカップ麺を置いた。

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