第16話 六曲一双屏風 絵
幸は物語を読むように、右隻と左隻の絵を交互に眺めていた。
「源平水之島合戦といえば、平氏軍が唯一勝ったといわれ、温羅者が関わったとされる、あの
振り向かないままで問い掛けた幸と同じように、椅子に座っている弘は一つのミニシャーレを手に取った。
「そうだ」
返事をした弘は、検体を分析しながら語った。
「天文学などの科学力に秀でた温羅者が、日食の起こる時間帯を割り出し、戦に利用することを平氏軍に提案した」
右隻の絵は、海峡の西側に平氏軍の陣地が、東側に源氏軍の陣地があり、海峡では赤旗を立てた平氏軍の小舟と、白旗を立てた源氏軍の小舟が幾つも交わり、甲冑を纏ったそれぞれの武士が小舟上で戦っている。左隻の絵は、薄暗いタッチだが、海峡の小舟上で戦う武士の表情や動静がはっきりと見て取れる。白旗をたなびかせる源氏軍の武士は恐怖におののき、赤旗をたなびかせる平氏軍の武士はほくそ笑みながら勢いを増している。そんな彼らの頭上には、黒い月の周りが金色に輝く、誇張された金環食の太陽がある。
「左隻の絵から読み取れるのは、平氏軍は前もって日食が起こることを知っていた、という事実だ。日食を戦略として使った証拠だ」
ちらりと幸の様子を窺い、弘は言葉を継ぐ。幸は依然、六曲一双屏風を眺めている。
「この戦の事実は、温羅者によって隠されてきた。だから、この屏風絵も、温羅者が引き取ったものだろう。それが、このようにバイオテクノロジーで加工され、残されていたとは……」
感慨にひたるように弘は言葉を止め、ゆっくりと言った。
「温羅者はこの戦をきっかけに、温羅者の能力は生命を奪うことには使わないと、誓ったんだ」
ぐっとくるような声調だったが、弘の分析の手は止まることはなかった。
六曲一双屏風を眺める幸が、呟くように言った。それは、何かを掴みかけているような響きだった。
「右隻の本紙の皺と、左隻の本紙の皺は、微妙に違う」
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