第14話 研究室

 朝日に照らされる前に研究所に着いた幸は、弘へ通話を入れた。弘は眠っていたらしく、少々不機嫌だった。

 幸は弘の指示通りに、建物の裏手にある駐輪場へ、弘のバイクの横にバイクを止めた。リュックを地面におろし、ファスナーを開けると、兎兎が飛び出す。

 「洞窟で見つけたという六曲屏風の方が先に届いているぞ」

 嫌みっぽい声が聞こえてきて、幸が振り向くと、建物の裏口に弘が立っていた。ヘルメットを被ったままの弘だが、蛍光灯に照らさせるその雰囲気は、幸も兎兎も無事であることに安堵しているように見えた。

 「さすが段取り役温羅者の仕事は早いわね」

 言い訳することなく茶目っぽく言った幸も、ヘルメットを被ったまま、弘を追って裏口から中に入った。

 兎兎は弘と並んで廊下を進み、幸は彼らの後を追った。

 歩きながら幸は、家の屋根裏で見つけたバイテクプリズムに導かれ六曲屏風を発見したことや、兎兎と一緒に暗殺者を倒しその姿がヒトの形をした炭だったことなどを語った。その間、弘は一度も振り向かず、最後にただぽつりと言った。

 「俺は婆ちゃんからバイテク巻物を受け取っただけだ」

 その声調には、少し寂しさが感じられた。幸は婆ちゃんという単語で察しがついた。

 「俺は両親のことを知らない。ずっと婆ちゃんと二人きりだった。なぜ俺が両親のことを訊かなかったのか……今考えれば、憎しみと悲しみに包まれぬよう、温羅者としての本能が拒絶させていたような気がする」

 この言葉で幸は、以前弘から助言された時の眼差しが捉えていた人物を理解した。

 足を止めた弘が、研究室のドアを開けた。そんな弘の足元をすり抜け、兎兎が中へ入った。

 研究室はこぢんまりとしていたが、簡易なキッチンや冷蔵庫、簡易仮設トイレまで備えつけられていた。

 ヘルメットを脱いだ幸は、一目散にソファに向かった。既に兎兎は、一人掛けソファの上のクッションに、体を横たえ眠っていた。幸はテーブルを挟んで対面にある三人掛けソファの片方に、崩れるようにして横になると、背もたれに掛けられているブランケットを手に取り深い眠りについた。

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