第6話 謎解きの依頼

 「窓口役温羅者からの謎解きの依頼だが……」

 一旦言葉を切って、弘はその内容を伝える。

 「昨日、飛行中の貨物機パイロット二人に、感染の症状が現れ、空港到着後に隔離治療されたが、あらゆる薬剤は効かず、たちまちのうちに悪化し死亡した。ウイルスなど病原体の特定、感染源の特定はできていない。彼らの遺体は解剖にまわされた。今のところ、彼ら以外に感染症状を訴える者はいないが、貨物機が着陸した空港近辺の植物がすべて枯れた。住民の不安と風評を逸早く抑えるため、依頼してきたということだ」

 「依頼人は日本政府?」

 意味深な目付きで問い掛ける幸だが、反応しない弘の様子で理解する。

 「未知の感染症であることが世間に知られる前に、謎を解けばいいってことね」

 少々煩わしく呟いた幸だが、真顔になった。

 「その謎解き、受けると返信して」

 「了解」

 返事をした弘に、幸が問うた。

 「犯行声明は?」

 「今のところはない」

 「そう」

 考えるように相槌を打った幸の頭脳では、既に謎解きが進んでいる。

 踵を返した弘は、自らが乗ってきた大型バイクに跨りながら、窓口役温羅者への返信と情報役温羅者に依頼するため、バイテク蔓草に指示を出した。

 幸はフルフェイスのヘルメットを被ると、バイクに跨った。バイテクプリズムを仕舞った胸ポケットを見ると、そこの繊維が赤色の光で染まっている。

 「兎兎。扉へ向かう前に、謎解きをするわ」

 幸の言葉に反応した兎兎が、リュックの中から鼻を鳴らした。返事をしている。

 「ここからだと夜が明ける頃に、空港に着けるはずだ。その間に、集まってくる情報役温羅からの情報を報告していく」

 弘のバイクが幸のバイクに横付けした。

 弘は開けていたフルフェイスのヘルメットの前面シールドを閉めると、左手首に巻いているバイテク蔓草を、見せつけるようにして持ちあげた。

 「バイテク蔓草。幸に通話」

 弘の指示を受けたバイテク蔓草から蔓が伸び、蔓先がヘルメットの隙間から中に入り込む。その先端が二股になって弘の口元と左耳あたりまで伸び、それぞれの先に小さな葉をつけた。

 「幸。先頭に立つぞ」

 弘は通話装置である小さな葉に向かって喋るのと同時に、バイクを発進させた。

 「わかった」

 頷いた幸の口元と左耳にも、小さな葉が寄っている。これは、幸の左太ももに巻いているバイテク蔓草から伸びている。弘からの通話に応え、同じように蔓が伸びたのだ。

 「これ、気に入った」

 浮れるように微笑んだ幸は、弘の後を追いかけ、バイクを発進させた。

 「通話だけでなく、指示を出せば、画像やデータも送受信できるし、画面にも分化する。終了させるには、バイテク蔓草から伸びた蔓を、適当に引きちぎればいいだけだ。伸びた蔓も分化したものも、すぐに枯れる」

 誇らしげに説明した弘が、バイテク蔓草についている芽に気づいた。転送されているのに気づかなかったが、情報役温羅者からのデータだと確信する。

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