第4話 黒い闇
月を見上げた幸は、胸ポケットに仕舞ったバイテクプリズムを取り出すと、高々とかざした。
煌々とした月光を捉えたバイテクプリズムが、赤色に輝き、一筋の赤色光を前方の地面に伸ばした。
「行き先を示した」
見開いた幸の目は、地面に落ちる赤色光を捉えていた。
「北北西だわ」
にやりとした幸は、赤色に輝くバイテクプリズムを胸ポケットに仕舞い、足早に車庫へ向かうとフルフェイスのヘルメットを被り、中型バイクのグリップを握った。そのまま車道まで押し出してバイクに跨る。
暗い車道先、扉がある北北西を見据えながら、アクセルグリップを回しかけたとき、匂うはずのない磯の香りを嗅ぎ、びっくりして手を止めた。直後、リュックの中から兎兎に背を押され、前につんのめった。
「何?」
振り返ったサチの顔面に、白くて細長い棒みたいな物が掠めた。ひやりとしたのも束の間、再び棒みたいな物が顔面目掛けて突いてきた。その棒の先は鋭く尖っている。
誰が襲っているのかを確かめたかったが、その棒を扱う手さえ見ることができないほど、執拗に顔面を突き続けてくる。避けるだけで精一杯だ。
グリップから両手を離した幸は、バイクが車道に倒れる音を耳にしながら、その棒を俊敏にかわし続けた。そのことで、その棒は白い骨だと気づいた。だが、それを扱う手やヒトは、まだ見ることができない。
いや、見えないのだ。
それに気づいた幸は、しなやかに腰を捻り、白い骨を蹴ってのけたと同時に、体を反らして大きくバク転し、間合いをとってヘルメットを脱ぎ捨てた。
目を凝らすが、やはり何も見えない。
身構えたままの幸の嗅覚が、磯の香りを捉えた直後、暗闇に紛れて動く黒い闇が見えた。黒い闇が近寄ってきたと思いきや、その刹那には白い骨が突いてきた。
かわした幸の耳に、魚が海面を飛び跳ねたような音が、白い骨から聞こえてきた。
白い骨が白い刀に変わり、その刃が幸の首に向いた。万事休すと、目を閉じた幸の耳に、骨が折れたような音が聞こえてきた。
目を見開いた幸の眼前で、緑色の刀が白い刀を弾き、白い刀は車道に落ち、暗闇に紛れるかのように消え去った。同じように、黒い闇も消えた。
「磯の香りも消えた」
あれは何だったのかと、暗闇を見つめ呆然と立ち尽くす幸の耳に、聞き慣れないが心地良い声が入ってきた。
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