第18話 海を渡るものたち そして残るものたち

 ※ 東方編94話前、飛翔編66話前の話です。



×××



 タイタンズという組織は、制度疲労を起こしていたのかもしれない。

 あるいは一時代を築いたオーナーの後継者を巡り、派閥が分かれ過ぎたのも悪かったのだろう。

 それでも過去の栄光から、政財界にまでつながりを持ち、ブランドの価値があった。

 だがさすがにそれも、この10年余りの成績低迷で、無価値なものとなってきた。

 結局永遠なんてものはどこにもないのだろう。

 それを理解して、タイタンズから離脱する選手が二人いる。

 新天地は国内のほかの球団ではなく、世界最高のリーグと言われるMLB。

 そして投打の主軸となるこの二人が抜けることで、タイタンズはさらに弱体化するだろう。

 だが完全に崩壊してしまったほうが、再生にはいいのかもしれない。


 海外FA権を行使した二人であるが、今年の海外向け日本人選手の主人公は、明らかに大介であった。

 去年もFA権を行使せずに単年契約だった二人に対して、大介はレギュラーシーズン終盤まで、FA権を行使するそぶりのカケラも見せなかった。

 だがあの大騒動の末に海外FA権を行使である。

 そして間髪をいれず、ニューヨーク・メトロズとの接触の話が出てきた。

 代理人は海外への移籍に詳しいドン野中。

 そしてそちらの話はどんどんと進んでいるらしい。


 超大物の移籍に隠れて、本多と井口の動きは地味なものになってしまった。

 だが二人もまたエースと四番、宣言すれば接触してくる球団はある。

 本多は先発の一枚として、そして井口は長打に加えて外野の左右や一三塁をそれなりに守ることが出来る。

 なのでどちらもそう高い金額を望まなければ、MLB市場でも買い手はあると思われた。

 ただ控えめにではあるがNPBの球団からも接触はあった。

 大介という大物が動いたために、MLBの選手移動は大きなものとなっている。

 それが原因となって他のMLB挑戦組は動きが制限されている。


 ただ、そんな大介が動く割には、球団との交渉はスムーズであった。

 ニューヨークの悪くない方と契約し、そして本多や井口も動くようになる。

 皮肉かどうかは分からないが、二人もまた大都市の球団へと移籍が決まる。

 井口は大介と同じニューヨークの、悪いほうの球団へ。

 そして本多はロスアンゼルスの球団へ。

 来年のMLBは、日本人選手の話題が多くなっていくかもしれない。




 この年は大物のFA選手が他にも何人もいた。

 まずパ・リーグのジャガースからは上杉正也が、セのスターズへと移籍した。

 上杉の抜けた穴を、弟で埋めるつもりかとも思うが、弟では埋まらないレベルの穴だとは分かっている。

 それでも先発のローテが一枚確保出来たことは大きかった。

 スターズは前年までに玉縄や峠などとも、残留交渉に成功したものだ。

 このあたりは上杉のカリスマ性がFA移籍にまで働いたのかもしれない。

 

 レックスは投手陣の補強は必要なかったが、放出も防いだ。

 先発の中では佐竹と吉村が、移籍する可能性が高いかとも思われていたのだ。

 だが佐竹に対しては複数年契約で残留に同意。

 吉村もまた、残留した。


 今季の吉村は16先発の9勝2敗と、ローテを守ったとは言い切れない。

 だが貯金自体は多く、回数は多くないが中継ぎとしても機能した。

 優勝のご祝儀でやや多くなった契約更改に、吉村は満足したのだ。


 レックスのフロントがピッチャーの流出を防ごうとしたのは、当然来年の直史のポスティングを計算してのことである。

 だがそれとは別に、武史がMLBの契約を見て、俺も行ってみようかな、などと言ったことが伝わっているからだ。

 左の豪腕で、球数が増えても投げられて、完投能力が高い。

 これが抜けるとしたら、ぎりぎりまでは国内で待ってもらって、ポスティングにかけるのがレックスとしては一番穴埋めが出来る方法だ。

 もっとも実際のところ、武史はこの時点では、MLB挑戦など考えていなかったのだが。




 投打の主戦力を失ったタイタンズは、補強に走った。

 北海道ウォリアーズの島のFA宣言に対し、もっとも大きな金額を提示したのだ。

 ウォリアーズはこのタイタンズとのマネーゲームに敗北。

 高卒ルーキーの時代から二桁勝利をしていたエースを失った。


 またFA宣言が濃厚と見られていた、ライガースの真田の獲得にも、大きく動こうとしていた。

 しかし真田はFA宣言をせずにライガース残留を希望。

 これは大介が抜けたため、その分のサラリーを他の選手に使えたのと、もう一つ理由がある。

 真田はもう一年待てば、海外FA権が手に入る。

 MLBのボールが合わずに国内のリーグで大介と対戦することを考えていた真田だが、その大介がいなくなっては動く意味がない。

 むしろライガースにいて、レックスと対決するべきだと考えたのだ。


 こんなわけで国内での戦力確保が不充分であったタイタンズは、外国人による補強を考える。

 アメリカから呼んでくるというのもあったが、国内で年俸が高騰しつつある外国人打者を、他の球団から獲得したのだ。

 別に悪いことではないが、あからさまな敵を弱体化させる手段に、プロ野球ファンが眉をひそめたのも仕方がない。




 セ・リーグはレックスがほぼ一強で、ライガースがそれを追いかける。

 パ・リーグでは戦力の低下したジャガースに、育成に成功している福岡コンコルズが対抗する。

 だがファルコンズやマリンズも、順調に戦力は育ってきている。


 セ・リーグでの王者の無双と、パ・リーグでの戦国時代の開幕。

 新しいシーズンのキャンプ入り前、ファンたちが考えていたのはそのようなところであった。

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