第15話 猛獣の驀進
ジャガースとライガース、共に獣の名前を関するこの二つのチームは、両リーグにおける優勝候補である。
ただ開幕からスタートダッシュに成功したジャガースと違って、前年日本一を争ったライガースは、怪我人が多かったこともあって開幕に戦力がそろわず、苦しいシーズン序盤となった。
しかしライガースは徐々に調子を上げてきて、交流戦前には連勝状態からジャガースと激突。
ライガースの三連勝にて、今年の交流戦は終わった。
既に五年、セのチームに日本一を許している。
上杉を擁するスターズが二年、大介を擁するライガースに三年と、完全にスタープレーヤーのいるチームが覇権を握っている。
ただその例で言うならば、スタープレーヤーを集めまくっているタイタンズが優勝できないのが不思議であるのだが、今年はまだセの一位にいるし、本多や井口などの生え抜きも育ってきている。
今年のジャガースは交流戦でこそライガースに負けたものの、完全に戦力が揃っている。
トリプルスリーを狙える選手が、あるいは過去に取った選手が、五人もいるのだ。
その中の一人が、新人である悟であったりする。
ジャガースは二年前がアレク、その前が上杉正也と、二年連続で新人王を出してきた。一年空いてまたも悟が新人王を取りそうである。
セの方はライガースの西郷が打っているが、パでは悟がシーズン序盤から三割を打ち、試合を重ねるごとにその数字が伸びてきている。
新人の二桁ホームランというのは、特に高卒ではなかなかないものだ。
それが二年連続で出てくるのだから、ジャガースのドラフトのくじ運にも、たいがいのものがある。
福岡は毎年シーズン序盤で手間取っていても、交流戦明けぐらいからは、その豊富な二軍戦力を投入し、調子の悪い選手をバックアップする。
育成ドラフトでごっそりと選手を取ってしまうのは、他球団から見れば資金が多くて羨ましいことであるが、勝つために必要なことをしているだけだ。
それに福岡はこの数年、ドラフト一位で取った選手が、あまり活躍していない。
たとえば実城は、高校通算100本以上のホームランを打っていたが、この年も完全にスタメンをつかんだとは言えない。
本来のポジションのファーストにも、あるいはDHにも、専門で打てる選手がいる。
それでも代打で成績を残してきているので、チャンスがあれば飛躍するのだろうが。
ジャガースに対抗するチームは、今年は福岡コンコルズではない。
前年三位と確実に戦力が充実してきている千葉マリンズである。
特に先頭打者の織田が、ぽんぽんと大量にヒットを打っている。
織田とアレクの対決は、シーズン終盤にかけて、首位打者と最多安打のタイトルを賭けた争いとなってきた。
それに隠れてこっそりと、悟は盗塁の数も伸ばしていたりする。
「う~ん」
九月に入るとタイトル争いも佳境になり、リーグ戦とは違った楽しみ方が出来てくる。
その中で一番面白いのは、ジャガースの打撃タイトルだろうか。
悟が困っているのは、盗塁の機会の少なさだ。
80%を超える成功率を誇る悟なのだが、なぜその機会が少ないか。
それは単純に前の打席のアレクの出塁率が高いため、悟が出塁しても二塁が埋まっているからである。
ダブルスチールが成功したら大きいのだろうが、さすがにそんな機会はそうそうない。
またこれはあまり悟は気にしていないが、アレクが打って二塁にまで進むと、バントで三塁まで送ることが多い。
クリーンナップの打率を考えれば、確かに三塁にランナーが来ていれば、一点が入る可能性は高いだろう。
ただせっかくの連打打線であるのだから、素直に打たせてほしいとも思うのだ。
こんな一番から五番までが打率三割超え、出塁率四割超えという鬼のような打線の最後には、これまたホームラン王に近いペースで打っている助っ人外国人がいるのである。
圧倒的な打撃の援護を受けて、投手陣も伸び伸びと投げられる。
ライガースも大介から真田、西郷と大当たりの選手が続いているが、ジャガースも正也、アレク、悟と大当たりの選手が続いている。
それに対して対抗している千葉は、やはり織田が中心選手と言えるのだろうか。
織田はアレクと違って、ボール球はしっかりと選ぶ選手である。
それなのに安打数と出塁率、打率もさほど変わらないのが、この二人の相違点であろう。
織田の場合は塁に出てからの盗塁が、アレクよりも多い。
なので選手の評価値では、ほんの少しだが織田の方が上である。
ただしチームメイトが頼りなければ、アレクはもう少し無理に長打を狙っていったかもしれない。
シーズン序盤からトップに立ち、ずっと他のチームの追随を許さないジャガース。
ここまで強いジャガースは、久しぶりである。
そしてこの数年は、強さを増してきている。
基本的にFAの引きとめは、無理に行わないジャガースであるが、中核選手は珍しく引き止めた。
元々球団経営の面でも、業績は悪くなかったのだ。
だが他球団からの選手を獲得するのではなく、自前のドラフトのの選手を育てあげるのは、福岡と埼玉が共通していることだ。
いや、パ・リーグ全体が、その傾向が強いといってもいいものか。
北海道と東北は、ややそれとは別の方針であるが。
あとは地元出身の選手を、例外的に取りにいくことはある。
一番から六番までの破壊力は、セのライガースとほぼ同格のものである。
そしてジャガースはライガース以上に走塁を重視する。
トリプルスリー型の万能選手を作る。それがジャガースのチーム方針である。
ただし打撃や走塁などに、極端に振った選手も抑えてはいる。
外国人選手に、そういった打撃特化は多い。
マリンズがこれに追随出来ているのは、この数年に取った選手の成長と、あとは鬼塚の影響があると言える。
今年は下位打線に入っていたが、打率はともかく出塁率が高いので、二番に持ってきた。
そしてプロ野球選手としては珍しいのだが、高校時代に四番を打っていたくせに、バントが上手い。
さらには送りバントだけではなく、セーフティバントも決めてみたりする。
あの体格で器用なものだな、と首脳陣は思うのだが、そこも含めてちゃんと、スカウトは取ってきているのだ。
鬼塚は、大きな駒ではなく、小さくて重要な歯車のような働きをしてくれる。
その見た目からは想像もつかないが、チームの中で打線を上手くつないでくれるのだ。
それに出塁に対する意識が強い。
長打も打てないわけではない。
大振りしていったら、おそらく二桁は軽くいくのだろう。
だが実際はコンスタントにヒットを重ねて、織田というリードオフマンを活かすプレイをしている。
この地味な働きにより、マリンズはランナーの無駄な残塁が、少ない状態になっていた。
ランナーを返すという意識が、選手の間で強くなっているのだ。
福岡などは、徹底的に選手の基礎的なパワーを伸ばして、打てる選手を育てる。
それもチームの強さを考えたら、もちろん間違いではない。
だが今の千葉には、そんな選択は出来ない。
ここにある戦力で、戦っていかなければいけないのだ。
この年、ペナントレースを二位で、千葉はフィニッシュした。
そしてそれは、クライマックスシリーズに進出を果たしたということでもある。
前の二年は、クライマックスシリーズのファイナルステージに進むことは出来なかった。
だがこの年の福岡は、シーズン終盤に強烈な追い上げを見せたが、ぎりぎり三位に滑り込んだだけだ。
まだ普段の、強い福岡とは別の印象がある。
どうしてもチームには付きまとう問題。
福岡もまた、主力選手が全盛期を過ぎてきているのだ。
そしてそれを下が押し出すのが、微妙に力が足りなかった。
それがこの一年の、福岡の不完全燃焼具合につながっている。
勝てる、と千葉の選手たちは思った。
勝って、勢いをつけて、日本シリーズまで下克上を果たすと。
この年はセもパも、かなり意外な展開がプレイオフに待っている。
その一方の主役は、間違いなくマリンズであった。
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