第23話 女敵(4)出立
そっと出て行こうとしていた飯田と沙織だったが、朝の早い疾風達やたつに見つかった。
「お世話になりました。これ以上ここにいては、ご迷惑になります」
そう言うのを、
「まあまあ。昨日に懲りて、しばらくは来ないんじゃないか?むしろ、こうして出て行くのを手ぐすねを引いて待っているんじゃないかな」
「そうだよ。少なくとも、様子を見るべきだよ」
と説得され、長屋から出ないように、念の為に中平の家に隠れている事になったのだ。
「大変でござる!」
一方、飯田達の出て来た藩の江戸藩邸は、早朝から大騒ぎになっていた。
ボヤ騒ぎがあり、急いで消火したのはいいが、出て来たのは、ご禁制の品。それで慌てて調べ直してみると、今度はある筈の物が足りない。
そこで責任者の末次が呼ばれたが、「末次親子は横領している」という文がいつの間にか江戸家老の部屋に投げ込まれており、調べた結果、それが本当だと判明したのだった。
するとその日の内には、芋づる式に、末次が女にだらしのない事、これという女に目を付けたら、金を貸して、借金の代わりにと女の身柄をもらい受けるという手口で、これまでにもさんざん他家の女を食い物にして来た事、今まさにそれで、飯田と沙織を追い詰めている事などが飛び出し、殿の耳にまで届く事となったのだ。
この殿は、大変な愛妻家である。その上、公金を横領するなど、許される事ではない。
かんかんに怒り、しっかりと遺漏なく調べるようにと命令し、飯田に対する女敵そのものが無効となったのだった。
飯田と沙織はわけのわからない内に「安全」となり、藩に戻る事が叶う事になった。
長屋の皆で見送り、菊江と沙織は抱き合って別れを惜しみ、2人は幸せそうに、来た時とは打って変わった堂々とした足取りで、長屋を出て行った。
「どうにか無事に済んだわね」
「狭霧、お疲れさん」
江戸屋敷に忍び込み、弱みがないか調べ上げ、それがバレるようにしてボヤを起こした狭霧を疾風がねぎらう。
「追われる者同志のよしみかな。
まあ、悪事はわかり易く噂にもなってたから、そう苦労はなかったよ」
狭霧が言うと、八雲が笑う。
「末次の父親の方は切腹で、お家は断絶だって」
「わあ、大変だぁ」
3人は気楽そうに笑い声を上げた。
それでも、考えてしまうのは、自分達の事だ。
山の中で凪が言った言葉は、忘れていない。
(気を引き締めないと。いつ里の追手がここを見付けるか。俺がこいつらを、守らないと)
疾風はそう考え、
「さあ、今日も一日が始まるぞ」
「ねこまんま、開店!」
初夏の風が暖簾をはためかせ、第一号の客が扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
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