第22話 女敵(3)敵襲
夜の夜中。現代のように街灯も無ければコンビニも自動販売機もない。その上木戸が閉められて、夜間、好き勝手にフラフラと出歩けないようにできているのがこの時代である。
化け猫長屋も、すっかり住人が寝静まっていた。
その長屋に、そろりそろりと近付く3人がいた。こんな貧乏長屋に入っても盗る物がないくらい、泥棒ならわかっている。
そう。これは、末次達3人組だった。
あらかじめ下見しておいた部屋へ向かって行き、静かに刀を抜いて、代表して1人が戸口に手を伸ばした。
せんべい布団で、ぱちりと狭霧は目を開けた。殺気が漂って来ている。
起き上がると、疾風も目を覚ましていたらしく、起き上がる。
そして頷き合うと、狭霧は屋根裏へ姿を消し、疾風は部屋を飛び出した。
やはり目を覚ましていた八雲が台所へ飛び降り、疾風は戸口の前に立つ。
少し離れたところで、茶碗の割れる音がした。次いで、八雲が派手に鍋、やかんをひっくり返し、やかましい音が響き渡った。それと同時に、疾風が表に出る。
飯田と沙織の家の戸口に手を伸ばした格好で、3人の武士が驚いたようにキョロキョロとしていた。
「誰だ!?泥棒!?いや、火付けか!?」
疾風が叫ぶと、長屋中から住人が飛び出して来て、武士達は慌てておどおどとした。
(武士のクセに、慌ててどうするんだ)
思いながら、疾風と八雲は武士を指さす。
「大変だー!」
「あいつらがー!」
そこに、一足早く飯田と沙織を茶碗を割って起こした狭霧が屋根伝いに戻って来て合流し、
「刀を抜いてるよ!火盗改めを呼んで来ようか!?」
と叫ぶと、住人達もわいわいと勝手に騒ぎ出す。
「大変だー!押し込みだー!」
「え、拙者――」
遅ればせながら言い訳しようとするが、誰も聞いていない。
「誰か自身番に走れ!」
「押し込み強盗をする気か、この野郎!?」
隣の家から出て来た中平などは、刀を抜いて凄む。
「そこへ直れい!不届き者めが、成敗してくれるわ!」
誰も聞いてくれないで誤解して殺気立ったままだと思い、末次達は、たまらずに逃げ出した。
それを、すりこぎや箒や柄杓を握って見送った後、疾風は小声で飯田と沙織の家の戸口を叩いて声をかけた。
「もう行きましたよ」
それで戸が開き、飯田と沙織が顔を覗かせた。
飯田は左手に刀を掴んでいる。
「すみません。ご迷惑を」
「気にすんなって」
大工の大吉が笑うと、魚屋のたつも天秤棒を肩に笑う。
「おうよ!」
「良かったわ、何も無くて」
菊江がにっこりとすると、沙織もほっとしたように笑う。
それでこの夜は各々が再び布団に戻ったが、狭霧と疾風と八雲は、ひそひそと相談をした。
「ここをかぎつけられたか」
「何か手は無いかしら。末次っていけ好かないやつ、息子共々殺す?」
「それはそれでこじれそうだよ」
「何か弱みか、こっちに構ってられなくなるような事、ないかな」
「わかった。ちょっと調べてみるね」
狭霧は軽くそう言って、夜の中に溶け込んで行った。
飯田と沙織は、すっかり目を覚まし、目を覚ますきっかけになった割れた茶碗を片付けた。
「地震でもあったのかしら。でも、おかげで目が覚めてよかったわ。ねえ、正太郎様」
飯田は無理に笑おうとする沙織を抱きしめ、言う。
「ここもかぎつけられた。明日、出よう」
「……」
「こんなに良くしてくれる長屋の皆を、危険に巻き込むわけにはいかない」
「はい。
では、握り飯を作って行きましょう。頂いたお菜も入れて」
沙織は笑顔をどうにか浮かべ、飯田は笑顔でそれに頷いた。
とんでもない騒ぎが巻き起こってそれどころじゃなくなるのは、翌朝の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます