第6話 アイシャ×誕生日の学校
アイシャの誕生日を迎えた今朝の管理主邸––––つまりアイシャの家は、とても賑やかだった。
使用人達が誕生日パーティーの準備に追われて屋敷中動き回っていたのも原因の1つであるが、なんと言っても野生児のようなルイセの自由奔放な行動が1番の原因だった。
昨晩夕食を共にして、鷲掴みで前菜を食べるルイセを見た時は、アイシャだけでなく両親を含む周りの者たちも驚きで言葉を失い、目を皿のようにしたものだ。
仕方がないので侍女が横についてルイセに食べさせてあげる事になったのだが、山の洞窟暮らしのルイセには初めての料理ばかりで、一口食べては「おいしーっ!」と言い、いつもの静かな食卓とはいかなかった。
ルイセの無邪気な笑顔は可愛らしいがそれ以上に問題が多く、アイシャが父のラディーの様子を伺うと、微笑みながらも悩んでいるようだった。
そんなルイセが翌日になったからと言って行動が改まるわけもなく、朝から色々やらかしては使用人達の仕事を増やしていた。
特に花を食べるのが好きらしく、誕生日パーティーの為に活けられた花を食べては、侍女に叱られていた。
(父様のあの様子だと、うさぎちゃん、施設は無理かもしれない……)
そうなると、ウルズがルイセを引き取る可能性が高くなる。屋敷の者達が手こずっているルイセを、ウルズ1人で面倒を見られるのだろうか。
そんな不安を抱える朝を経て、今は午後3時過ぎ。
「今日の授業はここまで」
教師が授業の終わりを告げて、教室から出て行った。
それを合図に生徒達が、思い思いに帰りの支度を始める。
アイシャとローネとグリエの3人は、一旦学生寮の2人の部屋に行き、用意してあった荷物を持って、馬車が待機している校門前へと向かった。
校門の傍には、アイシャの家の馬車とカミューの家の馬車の2台が停まっており、
「お帰りなさいませ」
護衛兼御者のハンスが、アイシャ達に声をかけて馬車の扉を開く。
アイシャはその馬車を手で示して、
「乗って」
と、友人2人に先に乗るよう促し、それからハンスの方を向いて、
「ハンス、あのね、お兄さんとウルズのお友達もパーティーに参加してくれるんだって。だから皆が揃うまで待って欲しいの」
そうハンスに頼んでから、自身も馬車に乗り込んだ。
アイシャはローネとグリエの正面に座り、馬車の中でお喋りをしながら他のメンバーが来るのを待った。会話が弾み、話題がパーティーに着るドレスの話から魔法科の話へと移っていく。
アイシャもそうだったが、実際に魔法科の生徒と交流してみると、自分達が抱いていた魔法科のイメージとは全然違ったとローネとグリエが言う。
と言っても、1階の生徒達の様子はイメージとたいして変わらなかったので、もしかしたら魔法科がイメージと違うのではなく、ウルズ達が魔法科のイメージと違うのかもしれないが。
「でもホント、意外とうちの科の男子と変わらなかったよね」
「うん意外だったよね。あと、おじいちゃん生徒がいたのも驚いたなー。先生と間違えちゃった」
ローネとグリエはそう言うと、楽しそうに笑った。
ウルズのクラスメイトに、ミオンという高齢の生徒がおり、ローネとグリエは教師だと思って「先生」と呼んだのだ。
アイシャはウルズ達の担任を知っていたので間違える事はなかったが、知らなかったら同じように呼んでいただろう。
「でも、一番イメージが違ったのはウルズかな」
「うんうん」
ローネとグリエの口からウルズの名前が出て、アイシャの胸がドキッと鳴る。
「だって、魔法使いなのに杖じゃなくて剣だよ、剣。あまりにもしっくり来ていたから、最初疑問にすら思わなかったわ」
グリエがウルズの剣について触れたので、
「そうなの。しかもウルズはね、剣で戦うのも上手なんだ!」
アイシャは両手を胸の前で握りしめて、ウルズがモンスターを倒した事や、馬車を操りながら山賊に応戦していた事を2人に話す。
そんなアイシャの話を興味深く聞いていたローネとグリエだったが、次第に浮かべていた笑みを別の笑みに変えていく。興味も他の事に移ったようで、それに気が付いたアイシャが、「何?」と首を傾げれば、
「ううん、やけに楽しそうに話すなぁって思って。ね?」
「ねー」
ローネとグリエは顔を見合わせて意味深に言ってから、改めてアイシャを見た。
その2人の顔は、『ニヤニヤ』と表現するしかない顔付きとなっており、アイシャを興味津々といった目付きで見ている。
2人が言わんとしている事を理解したアイシャが、
「なんでそうなるのぉ? そんなんじゃないから」
両手を振って、慌てて否定した。
「本当に~ぃ?」
「帰って来てからアイシャの様子が違うなと思ったら……、なるほど、そういう事だったのね」
「ねー」
ローネとグリエは腕を組んだりアイシャの顔を覗き込んだりして、最後に納得した風に頷き合った。
自分では変わっていないと思っていたアイシャは、ローネとグリエの言葉にドキッとし、
「えっ⁉︎」
と、思わず両手で頬を押さえる。すると、
「嘘、嘘、いつもと同じだよ」
グリエが手を横に振って冗談だと明かし、アイシャが「もう!」と頬を膨らせて横を向いた。
すると、
「噂をすれば、来たよ」
校舎側を見ていたローネが、アイシャの肩をトントンと叩く。
拗ねていてもアイシャは素直なので、知らされるとすぐに窓の外を見て、ウルズ達の姿を確認する。
真っ先にウルズに目が行ったのは、彼が一番背が高いからなのか、それとも––––。
ふと視線を馬車の中に戻すと、またしてもニヤニヤ笑っているグリエとローネの姿が。なので、
「そんなんじゃないから! 皆を見ていたんだから!」
アイシャは慌てて否定したが、
『はいはい』
と声を合わせて流されてしまった。
その目は信じていないというより、想像して楽しんでいるよう。恋話に花を咲かせるお年頃だ、真実はともあれ貴族のアイシャと平民のウルズの恋(仮)は、少女達の格好の餌食だった。
そんな2人の反応に、アイシャは顔が赤くなるのを抑えられなくなり、
「わ、私、お兄さんと話す事があるから」
そう伝えて馬車から慌てて飛び出し、それを見ていたウルズからすかさず、
「転けんなやー!」
と、注意されたのであった。
続く。
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