第4話 ウルズ×クラスメイト

 オレーグの鍛冶屋を出たウルズは、いつもより早い時間に通学路である山道を登り、冒険者学校の校門をくぐった。

 そして、ルイセの保護についての報告をしに本館へと向かい、校長室にて黒髪フサフサ頭の校長に報告をする。生徒手帳の依頼確認欄には、アイシャの父、ラディー・スノーマンのサインがあった。

 モンスターと交戦した事以外は予定通りだったので報告はすぐに済んでしまい、今回も校長の頭がカツラかどうか判らないまま校長室を後にした。

 校舎に掛かっている時計を見ると、時刻はいつもの登校時間より少し早いぐらいで、クラスメイト達はもう教室かロッカールームに居る筈だ……と、久しぶりに顔を合わせるメンバーを思い浮かべながら、ウルズは魔法科校舎に向かった。

 相変わらず薬科の校舎を過ぎると人の気配が一気に減り、魔法科校舎の1階は今日も静かだ。

 しかし、ウルズ達の教室がある2階はそうでもなく、使用しているロッカールームに近付くに連れて、楽しそうな声が大きくなる。今日もクラスメイト達は、いつものように話に花を咲かせているようだ。

 ロッカールームのドアを開くと、ウルズ以外のメンバーが全員が揃っており、ドアの音に反応して振り返る。

 そしてウルズを見るなり、

「ウルズ!」

「久しぶり!」

「すぐに帰って来ないから心配したんだぞ」

 クラスメイト達が口々に、ウルズに話しかけた。

 ウルズも、

「俺もまさかこんなに時間が掛かるとは思わんかったわ」

 と笑い、大事な鞄をロッカーに入れて、持ってきていた着替えに着替えながら、予想外な事が起きて依頼どころではなかったと説明する。

 話を聞いた全員がそれぞれにウルズを労い、その会話が一段落ついた後、ムードメーカーであるミントが口を開いて、

「ウルズ、聞いてよ。カミューがさぁ、またアノ病気を発症しているんだよ。しかも昨日からだよ? 『シアの誕生日パーティーに行かないか?』だって。重症だよね」

 やれやれ困ったものだという風に、首を横に振った。

 カミューの病気とは、「自分は貴族で、伯爵令嬢のアイシャ・スノーマンと兄妹のように親しい間柄だ」という妄想の事だが、ウルズはアイシャと知り合った事でそれが真実であると知っている。なので、

「あぁ、俺も誘われた」

 ウルズが、ロッカールームにある洗面台で歯を磨きながら招待を受けたと告げる。

 すると、カミュー以外の全員が『えっ!?』とウルズを見て、

「どうした!? しっかりしろ!」

「何!? ウルズまでカミュー病にかかっちゃった!?」

「山賊に頭を殴られたのか? ん?」

 好き勝手に言ってはウルズの体を揺さぶる。そんなクラスメイト達の様子を、カミューが何か言いたそうな目付きで見ていた。

「カミューが言うてた事は、妄想やなくてホンマやったんや。今回の依頼のパートナーがそのアイシャで、本人から聞いた。んで、俺も誕生日パーティーに誘われた」

 アイシャと一緒に依頼をしたと聞き、再びクラスメイト達から驚きの声が上がる。アイシャから既に聞いていたのだろうカミューだけが、ウルズの発言に驚かなかった。

 ウルズは歯磨きと洗顔を終わらせた後、その証拠としてアイシャから渡された招待状を鞄から出し、一番近くにいたパロに渡す。

 それを全員で回し見てしてから、

「……本当だな……」

 今度はカミューをまじまじと見つめた。

「やっと信じてくれた?」

 腕を組んで、口角を少し上げるカミュー。すると、

「勘違いした僕達も悪いけど、貴族には到底見えない格好と生活を送っているカミューも悪いよねぇ」

 ミントが、負けじと人差し指を立てて反論し、

「そうだよな」

「こんな、オタクみたいな貴族が居るだなんて、想像出来ないもんな」

 他のメンバーが同意する。

 というのも、カミューは貴族なのに学生寮に住み、今はパーティに行くからか金髪に戻しているが、普段は憧れの魔法使いヤン・クエイントを真似て黒く染めている。

 それに加えてヤングッズを集め、学生寮の部屋に置ききれなかった分を教室の一角に置き「ヤンコーナー」と称して保管しているのだ。

 今思えば、貴族だからそれらを買い揃えられたのだろうが、とにかくカミューが貴族らしからぬ生活を送っていたのは事実だった。

「で、誕生日パーティー行くの? 行かないの?」

 カミューが苦笑いを浮かべながら再確認する。これも思い返せばの話だが、カミューは散々からかわれて来たにも関わらず、それで怒った事はない。金持ち喧嘩せずだろうか、今もこうして失礼なクラスメイト達に、貴族のパーティーに参加するチャンスを与えている。

「そりゃぁ……」

「本当の話なんだから」

「勿論行くよ、うん」

 カミューの問いに、全員が頷いた。

「じゃぁ、放課後一緒に馬車で行こう。シアの家の馬車と、僕の家の馬車で行けば全員乗れるはず」

 そのカミューの提案に、誰も異論はなかった。


 一通り話を終えてロッヂの、

「じゃぁ、教室に行きますか」

 の言葉を合図に、ウルズ達は教室への移動を始めた。

 ウルズは、シーフ科の生徒がロッカーに触らないよう、タッチ禁止のシールをロッカーに貼った。

 シーフ科では、誰かのロッカーからバレる事なく何かを持ち出し、それを担任に確認させてからまたバレないように元に戻すという訓練が行われている。そして持ち出された事は、戻す時にカードを置いて知らせるので分かる仕組みとなっていた。

 当然嫌がる生徒も居て、触られたくない生徒はロッカーに専用のシールを貼って拒否する事が出来た。

 因みにそのシールはマグネットシートで作られており、取り外しが可能だ。

 ウルズは普段シールを貼らないのだが、今は大事な鞄とプレゼントがあるのでシールを使用する。それから罠を仕掛けても良いというルールになっているので、ロッカーとロッカールームのドアノブに魔法の罠を仕掛ける事にした。

 ウルズがドアノブに魔法をかけている姿を見たパロが、

「今日は念入りだな」

 と笑う。

 それを聞きつけたミントが、

「ナニナニ? 罠を仕掛けるの? じゃぁ僕もやろーっと」

 一番前を歩いていた筈なのに、嬉々として戻って来た。

 2人がやると、自分も、自分も……とドア前に集結し、6人全員が魔法の罠をドアノブに仕掛ける。

 つまりこのドアノブには、6種類もの魔法トラップが仕掛けられているという事だ。

「お、おそろしい……」

 ロッヂの呟きに、

「なら解いてあげれば?」

 腰に手を当てるカミュー。

 しかし、「お前がやれば?」と視線や肘を使って他のメンバーを促す者は居ても、罠を解除すると名乗り出る者は居なかった。

 それどころかミントが、

「今日はシーフ科の生徒来るかな?」

 楽しみだと言わんばかりに、ワクワクした笑顔を見せる。

 そんなミントの一言に、罠を解除する気はないが、掛かったら気の毒だと思っている他のメンバーが、

『来ない事を祈るよ』

 と、声を合わせて言った。



続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る