第9話 ウルズ×招待
ぎゅるるるる~っ。
悲鳴の如く鳴る腹の虫。
発信源は山賊ゾロの妹、ルイセだった。
ルイセはゾロとは全く似ていない金髪青目の小柄な少女で、ウルズは彼女の事を「うさぎ」と呼んでいる。
そのあだ名はルイセの第一印象から付けられたわけなのだが、可愛らしい動物に例えられる女の子なだけに、あちこち絡まったボサボサの髪と、ボロボロで汚ない服を着ているのが不憫でならない。
あと2時間ほどで夕食の時間だが、アイシャはルイセの為におやつか軽食を用意して欲しいと侍女に頼み、2人に「どうぞ、座って」と椅子を勧める。
しかし、ウルズは手を繋いでいるルイセを見下ろして、
「椅子汚れてまうかも」
と、躊躇する。伯爵家の家具は高級品なので、自分の家の椅子のように気軽には使えなかった。
アイシャもルイセを見て少し考えてから、
「うさぎちゃん、ちょっとこっちに来て。ウルズは座っててね」
そう言ってルイセと手を繋いで、ウルズを残して隣の部屋へ移動した。
ウルズが荷物を下ろして椅子に座っていると、すぐにアイシャと白いワンピースに着替えたルイセが戻ってきた。
アイシャの服なので年下で痩せているルイセには少々大きいが、袖をまくれば問題ない。綺麗な服に着替えたルイセを見て、
「おぉ、良かったやん。お礼言うたか?」
とウルズが言うと、ルイセはキョトンとした顔で首を傾げた。
「何かやって貰ったら、ありがとうって礼を言うんやで」
ルイセはゾロには言っていたが、他の人にも言うものだとは思っていなかったらしく、ウルズに説明されてアイシャに「ありがとう」と礼を述べた。
花を食べた時のように反抗する事もあるが、基本素直な性格のようだ。
紅茶とクッキーとサンドイッチが運ばれて来て、遅いオヤツタイムに入る。
その間もウルズはポロポロ食べ物をこぼすルイセに注意しながら、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
その様子にアイシャがクスクスと笑い、ウルズが「何?」と顔を上げる。
「なんか、本当の兄妹みたいで微笑ましかったから」
「あぁ、同じ金髪やし、余計にそう見えるかもな」
そう言ってウルズは、せっせとオヤツを口に運んでいるルイセを見る。
ウルズには弟と妹が居るのだが、ルイセの見た目の年齢は、末っ子の妹に近い。
自分がルイセに親身になるのは、妹と被るからかもしれない。アイシャに指摘されてウルズはそう思った。
そんな兄妹のような2人の様子を微笑ましく見ていたアイシャだったが、
「あ、そうだ。忘れない内に渡さないと……」
何かを思い出して立ち上がり、キャビネットの引き出しから一通の封筒を取り出して、それをウルズに手渡した。
「何? これ」
封筒の裏表を確かめるウルズに、
「明日、私の誕生日なの。それでウルズにも是非来てもらいたくて。お兄さんも来るの」
アイシャの言う「お兄さん」とはアイシャの実の兄ではなく、ウルズのクラスメイトのカミューの事である。ウルズに渡したのは、誕生日パーティーの招待状だった。
しかしウルズは、
「ごめん、明日は剣の稽古日やから行けやんわ。誕生日おめでとう」
と、申し訳なさそうに断わる。
「お稽古?」
首を傾げるアイシャにウルズは頷き、
「遅くなってもいいから。……ダメ?」
アイシャが手を合わせて寂しそうにウルズを見る。その来て欲しそうな眼差しに、
「んぁ……じゃぁ……、あんまり遅くならんかったらな」
ウルズはそう言って、アイシャが嬉しそうに頷いた。
それからアイシャはルイセの方を向いて、彼女も誕生日パーティーに誘う。
それに対してルイセは何か言ったのだが、口いっぱいに頬張っているせいで何を言ったのかよく分からない。ウルズはルイセのカップに紅茶を注ぎながら、
「口の中のもん飲み込んでから喋るんやで」
とマナーを教え、ティーカップを持たせた。
そこにドアをノックする音が割り込んで来て、
「どうぞ」
とアイシャが答えると、
「失礼します」
ハンスがドアを開けて入って来た。
彼の用はウルズにあったらしく顔をウルズに向けて、
「ウルズさん、ラディー様がお会いしたいとの事です。よろしいでしょうか?」
そう伺いを立てた。
ウルズとしては、サンプの管理主であり、伯爵であり、アイシャの父であるラディー・スノーマンの呼び出しを断る理由がない。なので「行きます」と返事して、立ち上がった。
「アイシャ、悪いけどうさぎの事頼むな。うさぎ、アイシャの言う事を聞くんやで。勝手にそこらへんうろついたらアカンで」
クッキーやサンドイッチを口いっぱいに頬張っているルイセに言い聞かせ、
「ほな、行ってくる」
ウルズはアイシャにルイセを任せて、ハンスと共に部屋から出て行った。
続く。
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