第6話 ウルズ×発見

 ギダとの戦闘の後処理を終えてからウルズ達は、ゾロの妹が住んでいる洞窟を目指して再び馬車を走らせた。

 ウルズは揺れる馬車の中で生徒手帳のメモ欄を開き、オリジナル魔法を実戦で使った際の感触や効果、使用前から使用後の刃の様子など事細かく書き込み始めた。練習時にこの魔法を使っても素振りをするだけなので、モンスター相手に使えたのはウルズにとって非常に貴重な体験だった。

 ペンを走らせる。

 切断面が凍結して血も毒も出なかったのはウルズの狙い通りだったのだが、まだまだ実戦に不向きな魔法である事を痛感し、剣の耐久性にも不安を募らせてため息を吐く。

 生徒手帳から目を離し窓の外を見ると、ふと従姉弟のライドを思い出した。

 バーチからサンプへ帰る途中に、例の通信手段でライドから連絡があったのだ。

 冒険者資格を取り、知り合った子達とパーティを組んで冒険をしているらしい。しかも、黒豹の子供を見つけて飼う事になったのだとか。

 そんな楽しそうな報告を聞いてライドに会いたくなったのと同時に、焦りも沸いていた。実戦を積んで強くなっていくライドと差がついてしまうのではないか?と不安になったのだ。

 そんな気持ちがあっての今回の魔法の出来栄えなので、ペンが進むに連れてウルズの表情が沈んでいく。

 するとハンスが、どうしたのかと尋ねてきた。

「あ……いえ、魔法がイマイチやったもんで……」

 心配して声をかけてきたハンスに簡単に説明すると、彼は驚いて、

「あんな凄い魔法のどこが不満なのですか?」

 信じられないといった風に首を横に振った。

「切断面を凍らせるなんて、僕達はやりたくても出来ません。それに、トキシービーを氷漬けにした事も、最後の氷の壁も素晴らしかったですよ。おかげで汚れずに済みました」

 ハンスは感想を述べると、ウルズに頭を下げた。それに対してウルズが、

「返り血と一緒に毒が噴き出したらヤバイなと思って急いで唱えた……と言いたいところなんですけど、実はアレ、最後に俺に毒を吐かれた時に使おうと思っていたもので、間に合わなかった魔法なんですよね」

 と笑って、使いたい時に使えなかったのだと明かす。

「で、ハンスさんが攻撃したのを見て、急遽ハンスさんの前に発生させたわけです」

 そう言って氷の壁をハンスの前に作った経緯を述べると、ハンスは一瞬キョトンとしてから、

「あ! だからウルズさんは2回とも切り口を凍らせていたのですね! そうですよね、尻尾以外のどこかに毒が残っていたかもしれませんもんね」

 と、しきりにウルズの判断力と行動力に感心し、

「体内に残った毒が血と一緒に噴き出すかもしれないなんて、全く考えていませんでした。今だ! って身体が勝手に動いて斬ったのですが……僕、相当危ない事をしていましたね」

 ハンスはそう言うと、明るい笑顔で声を立てて笑った。

 このハンスは見た目に違わず中身も好青年で、その笑い声に釣られてウルズも一緒に笑う。

 そして笑い終えた頃には、ウルズの気持ちが軽くなっていた。

 なかなか上手くいかない魔法や自分に焦りと苛立ちを覚えたが、魔力のない人間からすると凄い事をしたのだから、ベストではなくとも最善を尽くしたという事で、今回は良しとしよう……という気持ちになれたのだ。


 その後は、他の人からもよく聞かれる「魔法を使うのに武器も使えるのは何故なのか」といった質問を、ハンスからされる。

 ウルズがそれに答えていると、

「洞窟の入り口らしきものが見えました。おそらくあそこだと思われます」

 御者席に座っている兵から、到着を知らされた。

 馬車がゆっくり止まり、全員馬車から降りる。

 予めゾロから洞窟周辺の目印を聞いていたので見付けられたが、入り口が木や大きな岩の影に隠れており、情報がなければ見付けられなかっただろう。

 ゾロは本能的にここが良いと選んだのだろうか。ウルズは少し感心した。

「では、中の様子を見てきます」

 兵が2人、早速偵察にと洞窟の中に入って行く。

 すると––––、

「きゃぁ~っ! 来ないでぇ~っ!」

 という、やけに可愛らしい悲鳴が聞こえて来た。

 それまでウルズが想像していたゾロの妹像は、ゴリラ似のゾロを金髪青目にしてそれを少し小型化し、頭にリボンを付けた姿だった。

 そして声を聞いた今、妹像に『可愛い声』が追加される。

「珍獣やん……」

 ウルズがそう呟いていると、中に入った2人が眉根を寄せて洞窟から出てきた。

 その手からは僅かに血が滲み出ており、

「大丈夫か?」

 ハンスが声を掛ける。

 2人は負傷した箇所を押さえて、

「自分は噛まれ、コイツは引っ掻かれました……」

「もしかしたら、先ほどのモンスターより手強いかもしれません」

 と、報告した。

 ゾロの妹なだけあって、怪力だったりするのだろうか。ウルズがそんな事を考えていると、

「今度は自分が行ってきます」

 ハンスに敬礼して、違う兵が1人で洞窟の中へと入って行った。

 結果は同じで、可愛い声と激しい物音が聞こえて来た後に傷を負った兵が洞窟から出て来て、

「なんと言いますか……、向こうは容赦無く手を出してきますが、こちらは手を出すのもままならない状況に陥ってしまいまして。それと、とてもすばしっこいです」

 ハンスに申し訳なさそうに報告し、先に行った2人もその報告に頷いた。


 それを聞いていたウルズが、

「今度は俺が行きます」

 と名乗り出て、馬車から果物が入っている容器を持ち出した。

 ノースのホガッタ家では、弟や妹、年下の従兄弟達の面倒を見てきた。その経験がもしかしたら役に立つかもしれない。

 そう思いながら入り口に向かうウルズに、

「ご一緒します」

 とハンスが声をかけ、2人は警戒しながら洞窟の中へと入って行った。



続く。

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