第2話 ウルズ×思い出


 アイシャの部屋に飾られてあった熊のぬいぐるみに、ウルズは見覚えがあった。

 そう思った途端にウルズのとある思い出が蘇り、

(まさか……な……)

 ウルズは左手を口元に持って行き、考え始めた。

 あれは7年前、父親のライデンと叔父のウェイズについて行商に行った時の話だ。

 ペタルという町で迷子の女の子に出会ったのだが、その女の子に買ってあげた熊のぬいぐるみと目の前にあるぬいぐるみが同じ物に見えるのだ。

 とはいえ、熊のぬいぐるみは世界中に沢山ある。自分が買った物と酷似した商品が、違う国で作られていたとしてもなんら不思議ではない。寧ろ自分があげた物がアイシャの部屋にある確率の方が低く、もしあの熊のぬいぐるみがウルズがプレゼントした物だとしたら、それこそ物語のような話だ。ウルズはそうやって、頭の中に浮かんだ可能性を否定した。

 しかし、女の子とアイシャにはいくつかの共通点があり、全然スッキリしない。

 ウルズは付き纏うモヤモヤを払拭する為に、商品タグを調べる事にした。


 熊のぬいぐるみに近付き、足についているタグを見る。

 タグの印字は少し薄れていたが、問題なく読む事ができた。そしてそのタグには、“ペタル”という出会った町の名前が書かれており––––、

(いやいやいやいやいやいやいや!)

 ウルズは思わず力一杯に否定した。

 そして、他にも何か手がかりとなるものはないかと、記憶を辿り始める。


 7年前に会った女の子の名前はシア。苗字は女の子が覚えていなかったので分からない。

 大きな青い目をした赤毛の女の子で、5歳ぐらいに見えた。

 ウルズが1人でペタルの町を探索していた時に、迷子のシアとぶつかったのが出会いのキッカケだ。

 シアは舌ったらずでウルズの名前をきちんと言えず、「ウル」やら「ウリュ」やら色々呼んで、結局「ウル」に落ち着いた。

 また好奇心が強いからなのか、物を知らないからなのか、シアは何でも質問してくる子で、ウルズはその様子を面白がり、シアの親を捜すついでにあちこち歩き周り、色々教え、食べさせ、最後に熊のぬいぐるみをプレゼントしたのだ。


 ウルズは、シアについての情報は他になかったか……と、再度記憶を辿る。

 そして、「サンプ」という言葉が、シアの幼い声で再生された。

(たしか……船に乗って来たとか言うてたな。それに金持ちっぽかったような)

 確認したわけではないが、シアは金持ちの子ではないか?と思ったことは何度もあり、実際に金持ちが利用する宿泊地で、シアを捜している人物を見つ付けた。

 こうしてシアについて色々思い出し、

(……繋がってもうた……)

 ウルズがテーブルに両手をつく。

 目の前の熊のぬいぐるみは自分が贈った物で、シアとアイシャは同一人物なのだろう。勿論、別人の可能性は0ではない。しかし、思い出せば思い出すほど一致していくのだ。

 アイシャに聞けば確実に分かるのだが、殆どのやり取りを思い出した事で、ウルズは聞くに聞けなくなった。

 シアと交わした約束––––

 それが聞けない理由だった。

 もしかすると笑い話になるかもしれないが、気不味くなるかもしれない。

(聞くのやめとこ……)

 ウルズは、心の中にしまっておく事にした。



続く。

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