第26話 ウルズ×嵐の前の静けさ?
アイシャのアドバイスのおかげで、馬車は適度な速度で走るようになった。
あれからは何事もなく、今のところ道行きは順調だ。
通常の揺れとなった馬車の中で、静かに座っていたアイシャがおもむろに顔を上げ、
「ねぇねぇ」
と、ウルズに呼びかける。
それからスクッと立ち上がり、格子窓から御者席の様子を伺った。
「ん?」
金色の髪を靡かせながら返事をするウルズに、
「悪者さん達追いかけて来るかな? もし追いかけてきたとして、馬車に追いつくと思う?」
そうアイシャは質問した。
今現在、森の景色を楽しめる程度には落ち着きを取り戻しており、穏やかな空気さえ感じられる。アイシャがこのまま問題無く、バーチに辿り着けるような気がしたのも無理はない。
しかし、間違いなくウルズ達は狙われている––––。
なのでウルズは、
「そら追いかけて来るやろ。仲間もおるやろうし、俺らの行き先は知られてる」
追いかけられるパターンだけでなく、先で待ち伏せされているパターンについても示唆した。
偽物の御者を取り逃した事で、どのような組織がいくつ動いているのかなどの情報を聞き出せなかったが、追っ手があの大男と小男の2人組だけでない事はハッキリした。
それにあの大男と小男、それから偽物の御者は賊に違いない。賊が金になる物を奪われて、黙って見過ごすはずがないのだ。
「あのゴリラさんも来る?」
大男が苦手なのか、アイシャが少し困った表情で首を傾げた。
苦手ではあるが、愛称を付けて呼んでいる辺りから嫌いではない事が伺える。アイシャが大男を怖がるのは、行動が読めないからだろう。野生の動物を警戒するのと同じように、大男を警戒しているのだ。実際あの大男は、何を仕出かすのか分からないタイプの人間だった。
「来るやろな」
ウルズはそう答えてから、アイシャに地図と方位磁石を取って欲しいと頼む。
最後に見た標識から何度か枝分かれした道を通過したので、正しく進めているのか念の為に確認しようと思ったのだ。
「えーと…」
ウルズの長い指が、地図の道をなぞっていく。そうやって確認したところ、馬車は間違いなくバーチに続く道を進んでいるのが分かった。
動物に信頼を寄せるというのも変な話だが、この馬達に任せれば確実にバーチに辿り着ける。ウルズはそんな確信を得た。
暫くすると森を抜け、代わりに川が現れた。
頭上には、夜明けの青空が広がっており、朝を迎えた空気が清々しい。
姿を見せたばかりの太陽が、道沿いを流れる川を照らし出し、
「綺麗だね」
アイシャが見惚れた様子で呟いた。
朝が早いのもあって人影が無いのはいささか寂しい気もするが、行き交う馬車が無いおかげで速度を落とさずに済んでいる。
一度はどこかへ連れ去られそうになったウルズとアイシャだったが、このまま何事もなければ、1時間程度でバーチに到着出来そうだ。
しかし、先程ウルズが言ったように、何も起きない可能性は極めて低い。管理主の印章を狙う者達が仕掛けてくるとすれば、バーチに到着するまでの間だろう。しかも、バーチに向かうルートはこの道1つしかない。
つまりこの道は、追いかけるにしろ、待ち伏せするにしろ、相手にとって都合の良い道なのだ。
(さて、どうなる事やら……)
ウルズは、もうすぐ大勢の人間と対面するのを想定し、警戒しながら馬車を走らせた。
続く。
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