第17話 ウルズ×ゴリラ?
「ね? ゴリラさんでしょ?」
そう言ってアイシャが指をさしたのはゴリラ––––ではなく、ゴリラにそっくりな人間だった。
身長は2mを超えており、遠目でもそうだと分かる程に身体が大きい。
そのゴリラに似た大男は、
「そこの2人、待ってくれぇ!」
と叫びながら走っている。
あまり広くない路地裏なので声が反響し、他の通行人達も振り返って大男を見た。
注目を集めている大男の動きがどこかぎこちなく、ガニ股の太い足を見ていると聞こえるはずのない足音が聞こえて来るようだ。
まだ大男をゴリラだと勘違いしているアイシャが、
「喋ったぁ!」
と驚きの声を上げるので、
「ゴリラが服着て喋るわけないやん。人間や、人間」
すかさずウルズはツッコミを入れた。
周囲を見渡してみたところ、2人組はウルズとアイシャの2人だけで、大男は自分達に対して言っているのだと分かる。しかし、店に忘れ物などしていないし、何の面識のない人間に「待て」と言われる覚えもない。
とにかく変な奴からは逃げようということになり、ウルズとアイシャは走り出した。
「ちょっ、ちょっと待ってくれぇ! 箱を返してくれーっ!!」
更に声が大きくなり、大男の叫び声が木霊する。
大男の目的は間違いなくウルズ達のようで、他の通行人には目もくれずに必死に追いかけて来た。
(箱?)
何の事か気になるが、ウルズもアイシャも人の箱など奪ってはいない。
どういう事なのか話を聞く手もあるのだが、改めて見ても大男の仕草がどこか普通ではなく、「変な人」という印象が拭えないので聞くのをやめた。
ウルズは、アイシャを置いてけぼりにしないよう気を付けながら前を走り、左右を頻繁に確かめては急に足を止めて、
「こっちや」
追い着いたアイシャの腕を引いて左の脇道に入った。
そしてすぐ左手にある、外付けの鉄骨階段を駆け上がり、
「ここで隠れよら」
と、ウルズは2階と3階の間にある踊り場で身を伏せた。
錆が目立つ踊り場にアイシャは躊躇したが、「早よ」とウルズに急かされて慌てて身を隠す。
脇道の入り口付近にある階段は意外と見落とされやすく、近付けば近付くほどウルズ達の姿は見えなくなり、奥へ行けば行くほど影で見え難くなる。
更に上の階に行けたならもっと良かったのだが、階段を上る音を聞かれてしまっては意味がない。それに、あの大男が角で顔を上げたり階段を上ってこない限り、見付かる事はないだろう––––。ウルズはそう考えて、この作戦に出たのだった。
身を隠して、静かに様子を伺う。
するとやはり大男はやって来て、ゆっくりとした足取りでウルズ達がいる脇道を進み始めた。
重い足音を立てながらウルズ達を探して、顔をあちこちに向けている。
ウルズが選んだこの脇道には物が沢山置いてあり、身を隠せる場所が至る所にあった。しかも先を行けば、表通りに出られるオマケ付きである。
どうなる事やらとウルズとアイシャが大男を注視していると、大男は不意に足を止めて、フルフル震え始めた。
(?)
アイシャも様子が変だと思ったのだろう。意見を求めてウルズを見ようとしたが、
「うがぁっ!」
という大男の雄叫びに視線を引き戻されてしまった。
どうやらウルズとアイシャがまだその辺に居るのか、表通りに出たのか判断出来ず、ストレスを感じているようだ。大きな手でバリバリと頭を掻いている。
「ウルズ、これからどうするの? どうして私達追いかけられているの?」
ウルズにくっついて身を隠しているアイシャが、声をひそめて尋ねる。
その質問にウルズは青灰色の目をアイシャに向けて、唇の前で人差し指を立てて返事した。言わずと知れた「お静かに」のポーズだ。
きっとウルズも不安と戦っているだろう––––。アイシャはそう思ってウルズの顔をじっと見たのだが、金髪の隙間から覗く瞳と唇には笑みが含まれており、この状況を楽しんでいると分った。
これでは同意を貰えそうにない。アイシャは不安を抱きつつも言われた通りに口を閉ざし、流れに身を任せることにした。
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます