第10話 ウルズ×帰り道
本館を出た所でウルズとアイシャは、改めて「よろしく」と挨拶を交わした。
「一度お家に帰るでしょ?」
アイシャがウルズを見上げて、右に首を傾げる。彼女の青い瞳が、ウルズを真っ直ぐ見つめた。
「用意あるしな」
ウルズがそう答えれば、
「じゃあ、何時にどこで待ち合わせしたらいい?」
今度は反対側へと首を傾げる。首を傾げるのが彼女の癖のようだ。
ウルズは、
「用意出来次第、セリョ・ル・シード神殿公園のセルシオで」
と、待ち合わせにもってこいの場所を指定した。
セリョ・ル・シード神殿は、至高神を祀っている神殿で、その敷地は世界最大と言われている。どれぐらいの広さかと言うと、小さな町ならスッポリ収まる広さだ。
災害時や敵国による襲撃の際は、その神殿を城塞や避難所として活用する事ができ、敷地内には非常事態に備えた施設や店、公園などがあって1つの町のようになっている。
セルシオというのは、その公園の通りにあるカフェで、ガイドブックで必ず紹介される有名店だ。地元民で知らない者など居おらず、アイシャが了解したと頷く。そして、
「じゃあ用意したらすぐにね」
そう約束をして、2人はそれぞれ自分の校舎に向かった。
ウルズの手には校長から渡された依頼の箱があり、ロッカールームに戻るとまず箱の硬さを調べ、何かにぶつかっても傷が入らないよう実技用の着替えで箱を包み込んだ。それから鞄を開けて弁当箱の上に乗せる。
ウルズはそうやって帰宅の準備を済ませると、ロッカールームを出て階段に向かった。
授業中なので声は聞こえてくるものの、出歩いている生徒の姿は見かけない。静かな廊下を歩いて校舎を出て、校門をくぐる。そして麓へと続く山道––––登ってきたばかりの通学路を下り始めた。
それからすぐの事だ。
少し先にアイシャのうしろ姿が見えた。
剣士科の校舎は本館から近く、薬科の裏に建っている魔法科の校舎に比べれば、校門からも近い。そこから出発したのだから、本当ならまだ先を歩いている筈なのだが、何故こんな所にいるのか––––。歩くスピードを落としても、あっという間に10m近くまで追いついてしまった。
遅いにもほどがあるのではないかと少々呆れていると、地面の出っ張りに足を引っかけたらしく、アイシャが目の前ですっ転ぶ。
絵に描いたような見事な転び様に、ウルズは心配よりも先に、依頼の箱を自分が持っていて良かったとホッとする。
怪我はしなかったようで、アイシャはすぐさま立ち上がると、服に付いた土を払って再び歩き出した。
ウルズは声をかけようかとも思ったが、なんとなくもう少し様子を見てみようという気になり、出来るだけ気付かれないよう後をつけることにした。
アイシャといえば何がそんなに気になるのか、木の上や横に気を取られては立ち止まるを繰り返している。
こんな調子で、今日の何時に待ち合わせ場所へ行くつもりなのだろう––––。そう疑問に思いながらウルズが歩いていると、
(ん?なんや?)
行く先に、階段一段分はあるだろう土の盛り上がりを見付けた。幅は道の2/3程度と、なかなか広範囲に渡っている。
通学路に有るはずの無い盛り上がりなので、ウルズは誰かの悪戯か?と一瞬考えたが、わざわざこんな山の中で悪戯を仕掛けるメリットはないと考え直す。
では、あの不自然な土の盛り上がりは、一体何なのか––––。
ウルズは目を凝らして、盛り上がりの正体を探った。
続く。
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