第8話 アイシャ×ウルズと出会う

「失礼します」

 校長に声をかけられて入って来たのは、スラリとした体型の背の高い男子生徒だった。

 灰色がかった青い瞳に形の良い眉毛と唇、目は切長で格好いいと思える顔立ちだ。

 少し伸ばされた金の髪は後ろで括られており、クールな印象を受ける。

 腰には細身のロングソードを帯びており、そこから戦士科の生徒だとアイシャは推測した。しかし、

(でも……この人知らない。戦士科には何度も行っているけど、見た事がない……)

 記憶を辿り、眉根を寄せる。

 アイシャは、兄と慕っている皇太子カインの人材集めを手伝うべく、有能な生徒がいないか時折調査していた。

 剣士科の生徒に至っては全員チェック済みなので、彼が剣士科の生徒でないことは確かだ。よって、戦士科の生徒だと踏んだわけなのだが、とんと記憶にない。

 これ程存在感のある男子生徒を見落としていたというのだろうか––––。アイシャは不思議のあまりに、ウルズを頭の天辺からつま先まで何度も見返した。

「ズ……い、いや……魔法科詩人クラス1年、ウルズ・ホガッタ。依頼紙指名により参りました」

(ズ?? 魔法科???)

 彼が第一声に何を言おうとしたのか気になるが、それ以上に魔法科である事がアイシャには信じられなかった。

 アイシャは一度だけ魔法科の教室を覗いた事があるのだが、そこでは研究熱心な年配者とヤン・クエイントを意識した生徒達によって、見てはいけない怪しげな世界が繰り広げられていた。

 その光景があまりにも強烈で、会いたい人が魔法科にいるにも関わらず、それ以来近付けずにいたのだ。しかも他の生徒達が抱いている魔法科の印象と、アイシャが実際に見て受けた印象とたいして変わらなかった為、魔法使いとはそういうものだと認識していた。

 その点ウルズは、服装がシンプルで飾りっ気もなく、魔法使いらしくも詩人らしくもない。アイシャは、そんなギャップの激しいウルズから目を離せずにいた。


 そうやってアイシャに観察される中、ウルズは依頼紙と生徒手帳を校長に手渡した。

 それを確認した校長は、アイシャにしたように生徒手帳だけをウルズに返し、

「はい、では君も座って下さい」

 と、アイシャが座っているソファーを示す。

 ウルズは受け取った手帳をポケットに納めるとソファーへと向かい、アイシャから少し離れた位置で座った。

 彼の使っている香料だろうか、座った拍子に微かにいい香りが漂ってきた。服装には無頓着のようだが、香りには気を遣っているようだ。

 そうやって観察をしていれば、当然ウルズと目が合う。

 アイシャは、不躾な事をしてしまったと内心恥じたが、ウルズは観察されていた事に気付いていなかったらしく、『はじめまして』と挨拶をしてきた。

 平静を装って、アイシャも笑顔で挨拶を返す。そして再び横目でウルズを見始めた。いけないと思うのだが、どうしてもやめられない。

 彼の姿勢は正しく、脇に置いた剣は実際に使っているように見える。

 だが、魔法使いは非力で体力がなく、武器を扱うには不向きな体質だ。剣を持つ魔法使いなど、アイシャは今まで見た事も聞いた事もなかった。

 そんな風にアイシャがあれこれ考えを巡らせていると、向かいのソファーに座った校長から視線を感じた。

 校長が真剣な眼差しでアイシャを見つめるものだから、どうしたのかと首を傾げると、

「アイシャさん、本当に断っても良いんですよ?」

 念を押すように改めて聞いてきた。まだ諦めていなかったようだ。

 アイシャは、その言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。



続く。

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