Probationers

第6話 アイシャ×依頼紙

　剣士科1年の女子ロッカールーム。そこに一人の女子生徒が入って行き、掲示板の前で足を止める。

　掲示板には授業の変更や生徒の呼び出し、使用する教室の指定など様々な知らせが貼り出されるため、生徒達は掲示板の確認を義務付けられており、この少女も例に漏れず掲示板へ確認しに行ったわけなのだが、掲示板の前に立つなり、

「あっ、今日は依頼があるんだ」

　と、呟いた。

　目にしているのは『依頼紙』と呼ばれるピンク色の紙で、この紙に名前が書かれている生徒は、依頼の内容を聞くために校長室へ行く手筈となっている。

　なのでこの少女も、自分の名前が書かれていないかと依頼紙に顔を近付けたところ、そのタイミングでガチャリとドアが開く音と、

「おはようローネ」

　という声がしたので、今度はそちらに顔を向けた。その挨拶の親しい口ぶりから、この二人は友人関係にある事が分かる。

「ん～？ どうしたの？ 依頼？」

　部屋に入ってきた少女が首を小さく傾げて、掲示板の前に立っている少女に近付いた。

「うん、そうなんだけど……これ、アイシャにだよ」

　ローネと呼ばれた少女はそう言うと、依頼紙を指さしながら後ろを振り返る。

　そこにはパッチリとした青い瞳の少女が立っており、ローネの言葉にパチクリと目を瞬かせた。その少女は身長160㎝の細身の美少女で、腰まである赤っぽい茶色の髪が白い肌に映えている。

　彼女の名前は、アイシャ・スノーマン。この町の管理主であるラディー・スノーマン伯爵の一人娘であり、魔法科のカミューが言っていた『シア』その人である。

　ローネが「これこれ」と言うように手を前後に動かして依頼紙を示すと、

「え？ 本当に？」

　アイシャは驚いて依頼紙を見ようと前に出た。

　そこには、

『剣士科シーフクラス　１年

　　　　　　　　　アイシャ・スノーマン』

　と書かれており、

「本当だ……」

　アイシャは掲示板から依頼紙を外して両手で持った。

「アイシャ1人なのかなぁ……」

　依頼内容によって派遣される人数は異なるが原則2人以上となっており、危険があると判断された場合は教師が付き添う規則となっている。が、冒険の予行練習とも言える依頼は、基本生徒達だけで行うようになっていた。

　そして依頼紙には、１枚につき１名の名前が書かれる仕組みとなっており、派遣される生徒が同じクラスに複数人いる場合は、同じ場所に重ねて貼られるシステムとなっていた。

　掲示板に貼られていたのはアイシャ宛のものだけで、このロッカールームを利用している他の生徒達は、アイシャとローネよりも登校が遅い。よって、アイシャ以外の女子生徒に依頼が来ていないことは推測できた。

「もしかしたら一緒に行く人、もう校長室に居るかも。私、行ってくるね」

　アイシャはローネにそう言うと、荷物を自分のロッカーに入れて、軽い足取りでロッカールームから出て行ったのだった。

続く。