第4話 ウルズ×魔法科×古代魔法

 ウルズとミオンが専攻している魔法科の授業は、基礎知識と研究と実習の3つに大きく分けられ、それを基盤に授業が行われている。

 基礎知識は冒険者として必要な知識を身につける為の授業で、各種モンスターの弱点や特徴、サバイバル技術など教わる。

 また、研究の授業においてはウルズは古代魔法を選択している為、古代語及び古代魔法語の習得と基礎魔法の学習、それから魔法の開発となっていた。

 生徒が一丸となって取り組むのもあって一見スムーズに行われる授業内容に思われるが、実はそうでもない。

 世界中で売られている古代魔法関連の本を書いているのは、あのフロッグ大陸4英雄の1人、ヤン・クエイントなのだが、彼は世間の人々が持つ『人格者』のイメージとは真逆の意地悪な性格で『他人に』厳しい人物。

 なので、古代魔法復活を成し遂げるほどの豊富な知識を持っているにも関わらず、基礎の基礎しか世間に発表していない。

 発表したものは古代魔法の使い方と、古代魔法語の単語。それも「炎」「氷」「雷」「風」「進む」「上がる」「落ちる」など、魔法によく使われる名詞と基本的な動詞だけ。『どんな』にあたる形容詞や『どのように』にあたる副詞は発表していない。

 ヤンが言うには、古代語を学び、世間に発表している魔法語から法則性を見出せば、自ずと他の魔法語を導き出せようになるので、「これで充分だろう、後は知らん、自分で調べろ」との事だ。


(ヤンらしいわ……)


 ウルズは、祖父のアークと祖母のセシル伝いでヤンの人柄を知っていたため、初めて教科書を見た時の感想がそれだった。

 ヤンのやり方は不親切に感じるが、ウルズはその方法にやり甲斐を感じていた。

 古代魔法語を翻訳出来た時はとても嬉しいし、新しい魔法を編み出した時は『次、次』と精が出る。

 学校側もヤン・クエイントの方針を取り入れているらしく、基本的に生徒の自主性と積極性を重視した授業スタイルを取っている。が、それでも知識を備えた教師の元で学べる環境は、独学よりもずっと捗った。


 古代魔法には、回復系と攻撃系、防御や強化の補助系があり、今のところウルズは攻撃系に力を入れている。

 便利そうなので簡単な回復系や補助系にも挑戦したことはあるが、実際にやってみると回復系はかなり難しかった。そして何より、攻撃系が一番ウルズの性に合っていた。

 このように難しいだらけの古代魔法なのだが、魔法語と想像が一致すれば、術者の思い描く魔法が使える。他の魔法とは比べ物にならない程の自由度の高い魔法で、人間が扱える最強の武器と言っても過言ではないだろう。


 さて、魔法を開発する授業も楽しいが、一番楽しみにしている授業はやはり魔法を実際に使う実習だった。

 強力な結界を張ったトレーニングルームで、開発した魔法を思いっきり使う。これが実に気持ち良い。

 そんなウルズには、最近開発したとっておきの魔法がある。

 剣に攻撃魔法を纏わせる魔法だ。

 その魔法を使えば、炎の剣や氷の剣などが出来るわけである。

 授業では、開発した魔法をクラス全員で研究・改良することとなっているのだが、この魔法は誰にも教えていない。卒業試験の個人発表用の魔法として取っておいているのだ。

 自分1人の力ではどうにもならない!という所まで、とことん独学でやってみようと考えていたのだった。


 そのウルズの武器は、片刃の細身のロングソードで、刃の側面には古代魔法語が刻み込まれている。

 魔法の出力に耐えられ古代魔法語を書くスペースがあれば、杖でなくとも同じ能力を発揮出来る。つまりウルズの剣は、杖の機能も兼ね揃えている武器だった。

 そして刻み込んでいる文章は、ウルズが考えたもの。

 魔法語は、形が少しでも違うと効果を発揮しない難しい文字なのだが、昔から人の文字を真似て書くのを得意としているウルズには難なく書き分けることが出来た。

 そしてそのウルズの説明の元、腕利きの鍛治職人がロングソードに魔法語を彫り込み、強化していくのだ。


「確か今日の授業は…」

 齢70歳の、高齢者生徒ミオンと2人で階段を上って行く。

 魔法科は人数が少ないので、他の科よりも教室が小さい。そしてウルズ達の教室は、2階の端にあった。

 ちなみに、ウルズのクラスの人数は6人。

魔法科の中でも一番生徒が少ないクラスだった。

「おっ、おはよう」

「おぅ、おはようさん」

「おはよう」

 クラスメイトのパロとばったり廊下で会う。彼はシティン国の生まれだが他の町から来たので、今は学生寮で暮らしている。

 そんなパロが親指でロッカールームを差し、

「早くロッカールームへ行ってこいよ」

 と笑顔でウルズに言った。

「ん? 何? あいつらまた魔法で悪戯してんのか? 好きやな、ホンマ」

 ウルズのクラスには明るい性格の生徒が揃っており、すぐに悪戯を思い付き行動する。おかげでウルズのクラスは魔法科の問題児扱いで、何度も煩いと注意を受けていた。

 パロは、苦笑いを浮かべるウルズに手を横に振り、

「違うって。とにかく行って見てこいよ、掲示板」

 と、意味ありげな笑みを見せた。

(掲示板……?)

 その言葉にドキッと胸が鳴る。

(ひょっとして……)

 ウルズがパロの顔を見たところ、彼は黙って頷いた。

 それを見てウルズは、一目散にロッカールームへと駆けて行った。



続く。

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