第46話

幕間5はR18の為ムーンライトノベルズの方に掲載させて頂いております

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大好きな人レアンドルから聞かされた話はどれも衝撃的なことばかりだった。

特に女性が駄目になった話に関しては生半可な覚悟で話せるものじゃない。それなのに私に話してくれた。

その時点で彼からの気持ちが嘘偽りのものでないことであると確信が持てた。

何年間も過去の記憶に苦しめられ続けた彼を解放してあげられたのが自分で良かったと心の底から嬉しくなったのだ。


私のデビュタントの日、会場を抜け出した彼を追いかけて声をかけた時。いつも優しく挨拶をしてくれていた彼に初めて突き放されて本当は悲しかった。

自分が女性と呼べる年齢になってしまったから彼に突き放されたのだろうと自分を納得させて会場に戻ったのをよく覚えている。


イヴァン殿下とテレーズの件だって彼が悪くないことくらいは分かっている。悪いのは裏切り行為をしたあの二人であって彼が責任を感じるものではないのに。

ただ、あの時に告白されなくて良かったと思う。告白されていたとしても酷く荒んでいた私が彼を受け入れる可能性はほぼ皆無に等しかったのだから。


例の舞踏会の日のことを彼から聞かされて、記憶を取り戻すことが出来た。

あの時、自分がなにを思っていたのかも思い出すことが出来たのだ。

酔った勢いでなし崩し的に行為を受け入れたのは変えられない事実だ。しかし、自身の破瓜を願ったのは間違いなく私の意思である。

彼を受け入れる直前、見上げた先にあったのは泣きそうで苦しそうな表情。今にも消えてなくなりそうな雰囲気を漂わせる彼を私は放っておけなかったのだ。

これだけ聞けば同情で彼を受け入れたと思われてしまうだろう。実際にその気持ちもあった。でも、ただの同情だけで自分の全てを差し出したわけでもない。

私を触れるレアンドルの手は壊物を扱うかのように優しく丁寧で、かけられる言葉からだって私への気遣いを感じられた。なにより私を大切にしていることがよく分かってしまった。

この人になら自分の初めてを捧げても良い。

強く思ったのだ。

ただ彼には素直に伝えられない。恥ずかしくて情けない記憶だもの。


「……私ね、多分……あの時、レアだから受け入れたの」

「は?」

「分からないの。でも、貴方だったから…初めてをあげても良いと思ったのよ」


分かっているくせに全てを話せない私を許して。

あの時の気持ちを隠す代わりに、心の奥底に眠らせようとしていた貴方への気持ちを伝えるから。不安にさせないくらい、彼がもう良いと思うくらい伝え続けたい。


「レア。私、貴方のことが好きよ。誰よりも…だから、貴方との初めてを思い出せて嬉しいわ」

「ヴィオ…」


やっと伝えられた。

伝えてはいけないと思っていた本心が溢れ出してくる。


「私、レアが好きなの。でも、レアは私のことを好きじゃないって、好きになってくれるわけがないって思い込んでいて…。恋人のふりをしているから優しくしてもらえているだけかと思っていたの。勘違いしてごめんなさい」


今になって思えばレアンドルが私を好いてくれていると気がつく機会はいくらでもあった。それこそソレーヌに言われたことを素直に受け止めていれば良かったのに。

勝手な思い込みで自己完結をしていた自分が馬鹿みたいだし、周囲から鈍感人間だと呆れられても仕方ない。

私の言葉にレアンドルは首を横に振った。


「ヴィオが悪いわけじゃない」

「でも…」

「本当はあの晩が明けたら君に本心を伝える予定だったんだ」

「え?」

「私の気持ちを受け入れてもらえなくても良かった。ただ悪戯に君の初めてを奪ったわけじゃないと分かって欲しかったんだ。でも、出来なかった」


レアンドルが気持ちを伝えなかった理由は想像がつく。

伝えてもらったところであの時の私がそれを素直に受け取るとは思えない。

一晩を共にした責任を感じて嘘をついていると私が思い込む可能性の方が遥かに高かった。それが分かったから彼は本心を隠したのだろう。


「確かにあの時伝えてもらっても私の為に嘘をついていると思ったわ」

「やっぱりな」


落ち込む彼を見て私の予想が正しいことを確信した。それと同時に一晩を共に過ごした次の日の朝、彼がなにを思っていたのか知りたくなった。


「ねぇ、レア」

「何だ?」

「あの朝、レアが思っていたことを全部教えて」


一瞬目を瞠った彼は「全部か…」と気不味そうに苦笑いを浮かべた。

話し辛いことなのだろうかと首を傾げる。


「話し辛いことなの?」

「そういう訳じゃない。ただあの時の私はかなり浅ましい事を考えていたなと思って」

「浅ましい?」


一体どんなことを考えていたのよ。

気になって彼をじっと見つめると観念したようにあの朝の話を始めてくれた。

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